軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十一話 ユハル王からの依頼

「……はて? わたくしが、収穫感謝の舞を、ですの?」

突然のことに、ミーアはきょとん、と首を傾げる。

晩餐会の翌日、部屋に訪ねてきたラーニャは、開口一番に言った。

「ミーアさま、私たちと一緒に収穫感謝の舞をしていただけませんか?」

なんだか、真剣な顔でそう言うラーニャに、ミーアは思わず首を傾げた。

「でも、それは……、ペルージャンの姫にのみ許された行為ではなかったかしら?」

収穫の感謝を神にささげることは、民を率いて、収穫を指揮するペルージャンの姫がすべきこと。そのような話ではなかったか? とミーアは首を傾げる。が……、

「通常の舞はそうなのですが、実は、「マレビトの舞」という客人をお招きしての舞というのがあるのです。貴き客人がいらっしゃる時にする特別な舞なのですが……」

「ふーむ……」

ミーアは腕組みして、小さくうなる。

――なるほど、確かに隣国の大国であるティアムーンの姫が来ているわけですから、貴き客人、ということになるのかしら……?

一応、そのことには納得できるのだが……、

「けれど、わたくしにできるかしら? どのような舞かわかりませんし……」

「ミーアさまなら大丈夫です。以前、助言をいただいた舞踊のステップなので……」

「ああ、そんなこともありましたわね……」

ダンス(だけ)は得意なミーアは、かつてラーニャから相談を受けたことがある。

毎年、感謝祭で収穫感謝の舞をしなければならないラーニャであったが、絶望的にリズム感がなかったのだ。

あの時は、大変でしたわ……などと思い出すミーアである。

「それに、ミーアさまには予定より早くいらしていただきましたから。練習する時間はたっぷりとあると思います」

祭りの本番は七日後なので、それまではゆっくり練習することができる。

「ふぅむ、まぁ、そういうことでしたら……」

ダンス(だけ)は得意なミーアは、振付などを覚えることに特に不安はない。

それに、タチアナからも運動をせよと言われている。

――祭りでも、きっとたくさん食べるのでしょうから、踊りの練習で消費しておくことが重要ですわ。

と、そこで、ミーアは思いつく。

「そうですわ。ねぇ、ラーニャさん、その舞の練習に、ベルも参加させてよろしいかしら? 本番に出せなどとは言いませんけれど……」

ミーアと同様、ペルージャンに来てから、いろいろと食べ過ぎのベルである。

運動させなければ、シャロークのようになってしまうかもしれない……。

「はい。構いません。えっと、ベルさんは、ミーアさまと 縁(ゆかり) の方、ですよね?」

「ええ、ま……じゃない。妹ですわ」

一瞬、言いよどんだ様子のミーア、そして出てきた『妹』という単語。それで、すべてを察したかのように、ラーニャは頷いた。

「わかりました。ティアムーンの帝室につながりのある方でしたら、むしろ、本番に出ていただいても良いかもしれません。マレビトの舞は、古くは十名前後で舞っていたとも言われています。練習に参加していただいて、もしも大丈夫そうでしたら……」

「……へ? あの、ミーアお姉さま、ボクもですか?」

部屋の中央、柱と柱とに張られたハンモックに揺られていたベルが、驚いて飛び起きて……、

「きゃあっ」

そこから転がり落ちた……。

昨晩、シャロークの病室から戻ったミーアは、ハンモックにゆらゆら揺られて、気持ち良さそうに眠るベルの姿を見つけた。

「……もう、食べられません、ミーアお姉さま」

などと……実に満足げな笑みを浮かべていた。

ふと見ると、寝間着がめくれて、ちょこんと可愛らしいおへそが覗いていた。

「やれやれ……、大国の姫にあるまじき姿ですわね……」

ちなみに、ミーアの寝相は、それほど悪くはない。時折、間違ってアンヌのベッドに入って行ってしまうぐらいで(……怪談話などを聞いた際には)

それはともかく、まったく誰に似たのかしら……、などとつぶやきつつも、ミーアはベルの服を直してあげようとして……、気付いた。

その可愛らしいお腹が、ちょっぴり膨れていることに!

「……こんな美味しいもの、食べたこと、ありません。えへへ、いくらでも、食べられて、しまいます」

タイミングよく、ベルの寝言が聞こえてくる。

ああ、この子も、自分と同じ、忌まわしくも甘美なる呪いを受け継いでいるのだ、と、ミーアは悟ってしまう。

美味しい食べ物は無限に食べられてしまうという呪い……、将来、体を蝕まれる悪魔の呪いだ。

けれど、今のミーアは、その呪いを回避する術を知っている。

そう、運動だ! 規則正しい生活だ!

「ベルにも運動させなければなりませんわ……」

そんな使命感に燃えていたミーアにとって、ラーニャからの申し出は渡りに舟だった。

「ベル、美味しいものを食べた分、しっかりと運動しなければいけませんわよ。わたくしと一緒に、舞の練習をしなさい」

ミーアの言葉を受けて、ベルはぴょこんと起き上がる。それから良い姿勢で言った。

「はい、わかりました! ミーアおば、お姉さまがそうおっしゃるんでしたら、ボク、練習、頑張ります」

とっても素直なベルである。

「あ、でも、もう本番までも時間がないので、ルードヴィッヒ先生との勉強の時間も削る必要が……」

「……それは、やっておきなさい。後で泣きを見ることになりますわよ?」

とってもちゃっかりさんなベルである。

「うう、ミーアお姉さま、やっぱり鬼です……」

途端に泣きまねをするベルに、ミーアは小さくため息を吐く。

――この子……、お父さまぐらいだったら、簡単に手玉に取ってしまいそうで、末恐ろしいですわ……。魔性の女というのは、こういうことを言うのかしら……?

ちょっぴり複雑な気持ちになってしまうミーアなのであった。