軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十七話 忠臣アンヌ、心を鬼(青)にする

ポカポカとした日差しが気持ちの良い一日。夏前の、小麦の収穫期を間近に控えた、春と夏との境目の時期。

ベッドでゴロゴロしているミーアを見たアンヌは……、ある不安を抱いていた。

それは昨年の夏……、エメラルダと舟遊びに行く直前のことだった。

ちょっぴり、太ってしまったミーアは、とても苦労することになったのだ。

――また、エメラルダさまにお誘いを受けるかもしれないし、今から少しずつ、運動をしておいたほうがいいかもしれないわ。

アンヌに言わせれば、別に、ミーアは太ってない。十分に美しいし、むしろ、少しぐらいふっくらしていたほうが、可愛らしいとすら思ってしまう。

……極めて危険な思考の持ち主といえるだろう。

しかしながら、個人の趣向はさておいて、ミーアが最近、運動不足なのはたしかである。

――料理長さんも、体に悪いって言ってたし……、やっぱり、ここは……。

意を決して、アンヌは話しかけた。

「ミーアさま、あの……」

「ん? どうかしたんですの? アンヌ」

ベッドの上をごろりんごろりん、と転がりながら、ミーアはアンヌのほうを見上げた。

人魚……に間違われることがある海の生き物のような動きだった。

……だらけ切っている!

普段から大きな取引とか、生徒会の仕事とか、秘密結社との闘いとか……、大変な重荷を背負っているミーアだから、部屋にいる時はダラダラさせてあげたいと思うアンヌであるが……、ここは心を鬼にする。

まぁ、友だちのために悪役を引き受ける鬼ぐらいの鬼具合ではあるが……。

「ミーアさま、最近、ダンスのレッスンをされてないようですけれど……、アベル王子やシオン王子をお誘いして、ダンスのレッスンをするのはどうですか?」

基本的に、ミーアは運動が嫌いではない。嫌いではないのだが……、放っておくとすぐにゴロゴロを始め、ナニカをため込むモードに移行してしまうのだ。

それを改善するべく腹心として、できる限りミーアが気にしないような方向で忠言をしたのだけれど……、

「ダンス……ふーむ、そうですわね。ひさしぶりに、アベルを誘ってダンスというのも良いかもしれませんわね。そうですわ、どうせでしたら、生徒会を動員して立食ダンス&ケーキパーティーを催すというのは……」

ミーアがよからぬことを言い出したので、慌てて止める。ダンスをしたとしても、それ以上に甘いものを食べたら大変だ。

アンヌはきちんと心得ている。ミーアは、健啖家で誰よりも食を愛する人なのである。

「そ、それは、少し準備に時間がかかりそうですので……。あ、だったら、遠乗りはいかがでしょうか?」

とっさの機転で切り替えるアンヌ。その剛腕を振るう。

「ふむ、たしかに言われてみれば、最近、馬術部のほうに顔を出しておりませんでしたわね。荒嵐たちは元気かしら……。ひさしぶりに遠乗りというのは、たしかに悪くないですわね」

幸い誘導は上手くいって、ミーアも乗り気になっていた。流されやすいのがミーアの良いところなのである。

「あ、ミーアお姉さま、ボクも行っていいですか?」

話を聞いていたのか、ベルが手を挙げた。

「あの時の仔馬が元気か、会いに行きたいです」

「ああ、そういえば、ベルもあの時、あそこにいたんでしたわね……。ふむ、行きたいというのであれば構いませんけれど……」

と、そこで、ミーアは何事かを思いついたように、パチン、と手をたたいた。

「そうですわ! どうせなら、リーナさんもお誘いしましょう」

「リーナちゃんも?」

「ええ、仲間はずれにしたら可哀そうですし……」

それから、ミーアは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「それで、ベル、あなたと一緒に馬術部に入るというのはどうかしら?」

「え? ボクが、馬術部に?」

「そうですわ。ほら、前にあの荒野で乗った時に結構上手でしたし、練習すればすぐに乗れるようになるのではないかしら……」

どうやら、ミーアがベルに馬術を習わせようとしているらしい、と察したアンヌは助け舟を出すことにする。

「ベルさま、私でも練習すれば乗れるようになりましたから、ベルさまならすぐに乗れるようになると思います」

ちなみに、もともと不器用だったアンヌの場合、乗れるようになるまでは、結構な努力を求められたのだが……、もちろん、そんなことは口にしない。

ミーアの健康のためには、仕方のない犠牲だと割り切る。

「やはり、姫であれば馬の一頭でも乗りこなしてこそ、ですわ。ベルもわたくしのように、格好いい姫殿下になりたいでしょう?」

…………ツッコミを入れる者はいない。

「でも、ボクは……」

どこか浮かない顔をするベルに、ミーアは、ふむ、と頷いて……。それからアンヌのほうをチラッと横目で見てから、そっとベルに耳打ちする。

「いつ元の場所に帰ってもおかしくはないし、それならば全部無駄と、あなたがそう考えていることも理解していますわ。でもね、ベル、もしも、元の場所に帰ったとしても、馬に乗る練習は、しておくに越したことはありませんわ。逃げるのに便利ですし……」

と、そこで、ミーアは悪戯っぽい笑みを浮かべてウィンクする。

「それに、馬、可愛いですわよ? リーナさんと一緒に乗るのも楽しいでしょうし、きっと良い時間になりますわ」