軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十一話 楽しい勉強会~赤点も、みんなでとれば! の精神で~

即時撤退の構えを見せたベルをミーアはしっかりと捕まえた。

――この子、すごい判断力ですわ。

自身と同じスタンス、なおかつ迷いのない逃走力に舌を巻きつつも、逃げ出さないようにがっしりと。

しかしミーアは、別にベルに勉強させたいがためにベルを捕まえたわけではなかった。では、その心の中はどのようなことになっていたかというと……。

――あ、あら? これってもしかして、アベルと二人きりで勉強することになるのでは……?

これである……。純然たる危機感からなのである。

少し前までであったならば、ミーアはこの状況にニンマリしていたかもしれない。

なんといっても、アベルは年下の男の子でイケメンである。

「大人のお姉さんの余裕で、リードしてあげますわ!」

などと、余裕ぶって状況を楽しめていたかもしれない。

……大慌てでアワアワいう確率と、半々ぐらいといったところだろう。

しかしながら、ここ最近、シオンと剣術に勤しむようになったアベルは、すっかりたくましい青年になりつつあったのだ。体も引き締まり、顔にも凛々しさが見え隠れしている。

そんな格好いい人に優しくされて、なおかつ二人きりでお勉強……などと想像しただけで、すでにだめだった。

――あら、変ですわね……。なんだか、胸が苦しくって、それになんだか熱っぽいような……。

などと、フラフラしてしまう始末。

……重症である。ということで……。

そそくさと逃げ出そうとしたベルを、ミーアは素早く捕まえたのだ。

――今、ベルに行かれたら、アベルと二人きりになってしまう……。嬉しいですけれど、うう、そ、それは、まだ心の準備が……。そうですわ、まだ少しそういうのは早いと思いますわ!

“どういうの”が早いのかは不明だが、ミーアはそう判断したのだ。

いつも通りヘタレなミーアなのであった。

そんなわけで、ミーアとベル、それにアベルは連れ立って図書室にやってきた。

「あっ、ミーアさま……」

図書室の片隅の席にはクロエが座っていた。

ミーアは軽く手を挙げて、そちらに向かう。

――ふぅ、これで二人きりになる危険性はほとんどなくなりましたわ。

などと思いつつ、チラリとアベルの方をうかがうと……。アベルは特に気にする風もなく、残念がるでもなく、ごく自然な仕草でクロエに挨拶していた。

――ちょっとぐらい、二人きりになれなくって残念とか、そういうところを見せてもいいんじゃないかしら?

実に、こう、面倒くさ……、いや、複雑なミーアの乙女心なのであった。

「今日はどうされたんですか? ミーアさま」

不思議そうに聞いてくるクロエに、ミーアは気を取り直して答える。

「テストの勉強をしに参りましたの」

「あっ、ミーアさまもなんですね。私もです」

「あら、そうなんですの。それは奇遇……、でもないですわね」

なにしろテスト前である。勉強するのは当たり前のことだ。

「では、ご一緒させていただいてもよろしいかしら」

「あ、はい。どうぞ」

クロエは、少しだけ机の端に寄ると、

「うふふ……」

小さく笑みをこぼした。

「ん? どうかなさいまして?」

「あ、すみません、こんな風にお友達と一緒にお勉強するの、はじめてで」

「あら、そうなんですの? もしかして邪魔をしてしまったかしら?」

「いえ、そんなことありません。楽しいなって、嬉しくなっただけですから」

と、その時だった。

「あっ、こんにちは、ミーアさま」

そんな声が聞こえてきた。ふと顔を上げると、そこにはティオーナが立っていた。隣にはリオラ・ルールーの姿もあった。

「ご機嫌よう、です。ミーア姫殿下……」

「ああ、ティオーナさん。リオラさんもお久しぶりですわね。この前、わたくし、ルールー族の村に行ってきたんですのよ」

「なんと、そうだった、ですか?」

「ええ。族長さんが帝国語がすごく上手くなっていて。お孫さんのワグルくんとも仲良くやっているようですわ」

などと世間話モードに入ったミーアの脳裏に、突如、警鐘が鳴り響いた。

――あっ、これ、楽しくお話しちゃって、あんまり勉強できないやつですわ!

取り巻きとの経験上、ミーアは、なんとなく察してしまう。

図書室という、静かにするのが原則の場所。

けれど、仲の良い同年代の者たちが集まれば、必然的に始まるひそひそ話。

静かにしなければいけないというルールがあればこそ、それをちょっとだけ破る快感に、抗いようがあるはずもなく……。

――さて、どうしたものかしら……。

ミーアは考える。答えは、すぐに出た!

――あ、そうですわ、こうなったらシオンのやつも巻き込んでやるのがいいですわ!

熱い足の引っ張り合いである!

もっとも、引っ張っているのはおおむねミーアなのだが。

かくて、ミーアは巻き込んでいく。

シオンと……さらに、シオンの手助けもできないようにキースウッドまでも。

――生徒会メンバー全員の成績が悪ければ、ラフィーナさまだって、あまり言えないはずですわ!

被害の分散……ダメージコントロールである。怒られる対象を複数人に増やすことで、自分へのダメージを極力薄めていく。

「となれば……、そうですわ。サフィアスさんも誘って……」

先陣にて旗を振る皇女に、付き従わんと宣誓したのである。

旗振りの皇女が討ち死にする時には、当然、ともに命を散らせてもらわなければならない。

一蓮托生である。

こうして生徒会役員による、図書室の一角を占拠してのにぎやかな勉強会が始まるのであった。

ちなみに……この時の試験でミーアは、学年十五位というミーア史上初の大記録を記録することに成功した。

アベルの作ってきたメモが、実に適切に押さえるべき場所を押さえていたのだ。さすがに努力の人である。さらには、アンヌの多大なる協力もあった。睡眠学習法の効果は、やはり大きかったのだ。

生徒会役員の中では最下位だったが……、それでも良いのだ。

「こっ、今回は少し忙しかったですし、学園を離れざるを得なかったから力を発揮できませんでしたわ」

ミーアは、ニヤニヤしそうになるのを必死に我慢しつつ、しかつめらしい顔で言った。

「本当であれば、もっと高い点数がとれたはずですのに残念ですわ」

頬をひくつかせるミーアを見たラフィーナが、

「よほど悔しかったのね……」

などと可哀そうに思って、もう一度、日を改めて試験を受けなおすか? と聞いたところ、ミーアはそれを断った。

「いえ、それは卑怯というもの。わたくし、この結果で満足は決してしておりませんが、結果は結果。受け入れますわ」

そう言うミーアを見て、

「やっぱり、ミーアさんは高潔な人なのね……」

などと感心しきりなラフィーナであった。

……そして、ベルは四十点平均だった。

頑張ってはいたのだが、このままでは進級できないということで……。夏休みの間、学園に残って勉強することになってしまったのであった。

もっとも、ベルはそれほど嫌がってはいなかったのだが……。

廃墟と化した帝都に比べれば、この学園は楽園のようなもの。

「こんなに素晴らしい場所にいられるのですから、文句なんてあるはずがありません。毎日ココアさえ飲めるのに、文句を言っていたら、罰が当たります」

などと、キリッとした顔で言うのであった。

ちなみに当初、ベルはしょんぼりしていた。

エリス母さまのもとで過ごせるとウッキウキだったのに補習で夏休みも帰れないとわかったからだ。

そんなベルに、とっさの機転を利かせたリンシャが、セントノエルにいれば毎日ココアが飲み放題と囁いたらしい。実になんともミーアの孫なミーアベルなのであった。