軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一〇八話 出会い、辺境の村へ

「ミーア、こっちだ!」

「ふぇっ?」

突然、腕を引っ張られて、ミーアはバランスを崩しかける。

が、それ以上にミーアをドキっとさせたのは、シオンが呼び捨てにしたことだった。

昨夜、王子や姫と呼び合うのは問題があるだろうということで、お互いに呼び捨てにしようと決めたのだ。

――わたくしを呼び捨てにしようだなんて、生意気ですわ!

などと、昨晩は思っていたのだが、実際に呼ばれてみると……、

――こっ、これ、すごく心臓に悪いですわ!

などと、頬を真っ赤にしたミーアが恋愛脳全開でドギマギしている間に、シオンは一歩前に出た。

ミーアを背中にかばうようにして、突如現れた男に視線を向ける。

そこに立っていたのは、豊かな髭を蓄えた大柄な男だった。一見すると、猟師かなにかに見えなくもないが……。

「……それに化けた何者か、ということもありえるか」

口の中でつぶやいて、シオンは細く息を吐く。

川に落ちた時、泳ぐのに邪魔な剣は捨ててしまっていた。もしも馬車で襲ってきた暗殺者の仲間であれば、戦うのは厳しい。

いざという時は、ミーア姫だけでも逃がそう。と、そんな風に覚悟を決めるシオンであったが、肝心の男の方は近づいてくるでもなく、ただミーアがとろうとしていた赤いキノコを指さした。

「こいつはなぁ、お嬢ちゃん、 火蜥蜴茸(サラマンドレイク) といって、触っただけでも手がかぶれる毒キノコだ。食ったら大変なことになるぞ」

「まぁ! そうなんですの? こんなにキレイなんだから、食べられるものと思いましたわ!」

「ミーア、君……」

言いかけた言葉を飲み込んで、シオンはお腹をさすった。

昨日、食べた野草は大丈夫だったんだろうか……、帝国の叡智への信頼が一瞬揺らぎかけるシオンである。

「お前ら、ここら辺の子どもじゃねぇな? どっから来た?」

「わたくしたちは……んむ?」

ミーアの口をふさぎ、シオンが言った。

「あなたは……、誰ですか?」

シオンは静かに男を観察していた。仕草を見ると、戦闘の訓練を受けた暗殺者には見えなかったが、油断はできない。

相手が盗賊であった場合、下手なことを言うと危害を加えられるかもしれない。

身代金のネタにされるかもしれないし、最悪、人買いに売り飛ばされるかも……。

シオンの警戒はもっともと言えた。

「うん? おー、人に尋ねる前に自分が名乗れってか? はは、確かにそうだな。オラぁ、この近くのドニ村ってとこで猟師をやっとるムジクってもんだ」

ほれ、と言って、ムジクは腰に括り付けていたものを持ち上げた。

それは、白黒の縞模様の入った大きなウサギだった。

「まぁ! それは……、もしかして、それ、食べるんですの?」

「ああ、よかったら後で食うか? 結構、うめえぞ?」

「ええ、いただきますわ。実はわたくしたち、仲間と離れてしまいまして、とってもお腹が空いておりましたのよ」

――ミーア姫、少し迂闊じゃないか?

一瞬、不安を覚えるシオンだったが、すぐに自らの考えを否定する。

ミーア姫ほどの人物が、この程度の危険を理解できないわけがない。先ほどはキノコでやらかしそうになっていたが、あれは純粋に好奇心からくる失敗だ。

自分に迫る危険の兆候を見逃すということは考えづらい。

――であれば……。

横目にミーアの顔を見る。そこには、微塵の不安も見出せなかった。

ただ静かに、男に目を向けている。

――どちらにせよ、このまま川沿いに進んでも埒が明かない、ということ、なんだろうな。

苦笑いを浮かべ、首を振る。

――なるほど、彼女の方がよっぽど覚悟が決まってるってわけか。これは、俺の方も負けていられんな。

ならば、とシオンも肚を決める。

「俺たちは、商隊の子どもです。橋のところで盗賊団に襲われて、親たちとはぐれてしまいました」

事前に決めておいた偽の 身分(ダミー) を名乗る。

「おー、そうだったんか。そりゃ大変だったなぁ」

ムジクは豪快な笑みを浮かべて、

「オラたちの村はこのすぐ近くにあるんだ。よかったら来ねぇか?」

「それはとてもありがたいんですけど……、俺たち、王都に向かわないといけないんです」

「王都? ああ、じゃあ、村のもんで行くやつがいるかどうか、探してやるよ」

ムジクを先頭に、ミーアとシオンは歩き出した。

大体、想像はつくと思うのだが……、あえて言わせていただくなら、ミーアは別に覚悟を決めていたわけではない。

森の中での 生存術(サバイバル) 本を読んでいたミーアは、とある記述を覚えていたのだ。

『森でとれる食材の中でも、特に美味なのはウサギ肉である。特に白黒の縞模様をした半月ウサギのスープは特筆に値する味である』と。

――ウサギ肉……、ちょっぴり楽しみですわ!

要するに、お腹が減っていただけだった。

――べっ、別に、わたくしが食い意地が張ってるとかそういうことじゃありませんわ。こういう時ですから、きちんと栄養のあるものを食べなければいけないというだけのことですわ!

言い訳がてら付け足されるド直球の正論が、実になんともウザいミーアであった。