軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一〇七話 ミーア姫、キノコに手を出す!

翌日、朝早くのこと。ミーアたちは川沿いに、道なき道を歩き始めた。

やみくもに森の中に分け入るよりは、水場のそばに村落が作られている可能性に賭けたのだ。

――それに、水がないのは、やっぱりちょっと怖いですわ。

前の時間軸、飲み水の不足による渇きの苦しみを知っているミーアは、そう判断して、シオンもそれに同意してくれた……のだが……。

――ちょっ、ちょっと、失敗だったかも、しれませんわ。

ぜはぜは、息を切らしながら、ミーアは早くも後悔していた。

河原は、大きな岩がゴロゴロ転がり、ミーアの体力をゴリゴリ削っていった。

いざという時のために体力をつけるようにしていたミーアであるが、それでも限度というものがある。

少女の足に、その道は少しばかり過酷すぎた。

ミーアの額からはダラダラ汗が零れ落ち、頬はほのかに赤く染まっていた。

膝ががくがくして、今にも座り込んでしまいそうだった。

「大丈夫か? ミーア姫」

岩の上から、シオンが手を伸ばした。

その手をとって何とか岩を乗り越える。

「ありがとう、助かりますわ、シオン王子」

額の汗をぬぐいながら、ミーアはあたりを見渡した。

残念ながら、見える範囲に、村のようなものはなかった。

「それにしましても、馬車とは言いませんが、馬が欲しいところですわね」

「ああ、そうか。ミーア姫は乗馬ができるんだったな」

シオンは小さく肩をすくめてから言った。

「ただ、残念ながら野生の馬は見つけられないだろうな。オオカミぐらいならばいるかもしれないが……」

「まぁ! シオン王子、まさか、オオカミに乗れますの!?」

そう言えば、エリスの書いていた原稿に、オオカミに乗った王子の登場人物がいたっけな、とミーアは思い出す。

そんなミーアを見て、シオンは小さく噴き出した。

「さすがにオオカミには乗れないな。ミーア姫は面白いことを言うな」

「なっ!」

微妙にムッとするミーアである。

――どうせ、わたくしは世間知らずですわ! やっぱりイヤなヤツですわ!

けれど、さすがに怒りをぶつけるわけにもいかず、ミーアは、別方向に怒りを向けることにする。つまり、

「……それもこれも、全部、あの馬車を襲ってきた連中のせいですわ」

そのつぶやきを聞き、シオンはわずかに眉をひそめた。

「どうかなさいましたの? シオン王子」

「いや、少しだけおかしいと思ってな」

「といいますと?」

「確かに、レムノ王国は現在、政情不安で危険地帯といえる。だから、商隊が襲われるのは不思議ではない。けれど、あの時、俺たちがまみえたのは、ただの盗賊じゃなかった」

「そういえば、暗殺者、とか言っておりましたわね」

「そう。あいつらは専門の戦闘訓練を受けた刺客だった。言うまでもないことだが、ああいう輩は、治安が悪いから湧き出るものじゃない」

「まぁ! ではあなたは、何者かがわたくしたちの命を狙って刺客を放ったと、そうおっしゃりたいんですの?」

シオンは肩をすくめて首を振る。

「俺たち、というか、俺か君をだろうな。まぁ、ティオーナ嬢ということもあり得るが……」

いずれにせよ、あの馬車には要人が揃っていたのだ。刺客が放たれたとしても驚くことではないのかもしれないが……。

「ですが、あの馬車にわたくしたちが乗っていることは、誰も知らないはずでは……? どこかから情報が漏れていたということですの?」

「そう考えるのが自然だろうな。しかし……」

それっきり、シオンは黙り込んでしまった。どうやら、あの馬車の中でのことを思い出して、いろいろ考えているらしい。

一方、ミーアは、

――まぁ、こいつが考えてるなら、わたくしは別に考える必要はないかしら?

そう判断して、代わりにあたりの食べられそうなものを探し始めた。

――といっても、まさか魚を捕るわけにもいきませんし。河原に生える野草が何種類かあったかしら? あら? あれは……。

その時、ミーアの目にあるものが映った。

それは、河原に生える、水キノコというキノコだった。

燃え上がる炎のような形で、真っ赤で、とても綺麗だ。思わず手を伸ばしかけたミーアだったが、ふと、その脳裏を料理長の言葉がよぎった。

「姫殿下、野生の食べ物にご興味を持つのはよろしいのですが、一つだけ。キノコだけは、毒を持ったものとそうでないものとを見分けるのがとても難しいのです。玄人でないと危険なので、手を出さない方がよろしいでしょう」

「あれがキノコ、水キノコ……ですのね」

忠告を思い出し、ミーアは、伸ばそうとした手を引っ込めようとして……。

――でも、よくよく考えると、わたくしって玄人じゃないかしら? 森での生存術とかいろいろ調べてますし……。

森の中で一夜を過ごしたことで、ミーアの中に奇妙な自信が芽生えていた。

こう、食べられるのとヤバイやつを見分けられるんじゃないか、なんて、奇妙な自信が。

「あんなに綺麗なんだから、食べられるに決まってますわ」

そうして、ミーアが手を伸ばしかけたところで、

「そいつは、やめといた方がいいな」

誰かに声をかけられて、ミーアは飛び上がった。