作品タイトル不明
081 第三天位冒険者の昇格試験①
その日のグラン=ラフィースギルド集会所は、朝から異様に騒がしかった。
普段から騒がしいのはもちろんだが、その日のざわめきは、いつもとは少し違った。
広間の端に置かれた長机を、六人の冒険者が囲んでいる。
そして、その一角へと、集会所中の視線が集まっていた。
「レグにアッシェ、カイル、エリーゼ……横にいるのってソノイチだよな?」
「ああ。ディガルまでいるぞ。よその冒険者が何の用なんだ?」
ひそめたつもりの声が、あちこちから漏れてくる。
視線の先にいたのは、昨日ギルド運営から呼び出された六人の冒険者たちだ。
グラン=ラフィースには五大府の本拠地がない。
だからこそ、この街で第五天位まで登りつめた冒険者は、それだけで目立つ。
その第五天位が四人も同じ場所で集まっている。
さらに、他の街で名の知られた冒険者まで一緒だ。
そんな顔ぶれが、同じ長机を囲んでいる。
何か大きな出来事があったと周囲が考えるのは当然の流れだった。
「もしかして、あれか? 外来種の件か?」
「いや、ディガルがいるってことは飛んでる魔物関連だろう」
「だけどソノイチもいるんだぜ。ダンジョンだろ」
好き勝手な推測が飛び交う。
そのざわめきを聞きながら、カイルは椅子の背にもたれ、うんざりしたように呟いた。
「みんな好き勝手言ってくれるねえ。まさか俺らが第三天位の昇格試験の相手をするために集められた、なんて分かるわけねえけど」
「でしょうね。ただ、ギルド運営がここまでやるってことは……またアマリリイみたいな異常者でも出てきたのかしら」
「それなら、まだ話は分かる」
エリーゼは感情の薄い声で続けた。
「早いうちに実力を測っておきたい。危険性を見極めたい。そういう意図なら、ギルド運営の判断として理解できなくもない。……だが、そんな冒険者の話は、ザラスト以外に聞いたことがない」
「だよなあ。ザラストはもう第五天位だし、今回の相手じゃない。となると、別の誰かってことになるわけだが……分からん。全然分からん」
そんな予想で盛り上がる面々を前に、ディガルは大きく舌打ちした。
「くだらねえ話してんじゃねえ。相手が誰だろうが、やることは変わらねえだろうが」
「誰が相手でも勝つ、ってか? 頼もしいねえ。何か秘策でもあるのか?」
「秘策じゃねえ。コイツに本気出させるだけだ」
ディガルはそう言うと、壁際に立てかけた魔導銃へ手を置いた。
「このために弾を三種類用意した。ばら撒き用のオスミドライト銃弾。相手の動きを封じる雷鳴晶の銃弾。それと──」
そこで一度言葉を切ると、懐から小さな金属ケースを取り出した。
蓋を開けた瞬間、アッシェが目を見開く。
「えっ、待って!? それ、オリハルコン!?」
「ああ」
ディガルは口の端を吊り上げる。
「一発で金貨十枚。竜の鱗もぶち抜く、特注の魔弾だ」
ケースの中に収められていたのは、淡い金色の光沢を帯びた弾丸だった。
表面には、肉眼で追うのも難しいほどに細かな術式が彫り込まれている。
「き、金貨十枚……」
「すまん。馬鹿なのか?」
エリーゼが真顔で言った。
罵倒というより、純粋な確認に近い声音だった。
「浪漫だろうが」
「浪漫で金貨十枚を撃つな」
「絶対外せないな」
レグが静かに言うと、ディガルは不敵に口の端を吊り上げた。
「外せないんじゃねえ。外れねえ。照準を合わせて撃てば、相手が回避しても追尾する。そういう魔弾だ」
「何だよそれ、ズルくねえか……?」
カイルが呆れたように笑う。
「大金でズルしてんだ。文句あるか」
「流石、金貨十枚……」
アッシェが妙に納得したように呟いた。
ディガルの魔弾を前に、場の空気がわずかに緩む。
だが、その盛り上がりの外側で、ソノイチだけがふと視線を動かした。
「……来たぞ」
その一言に、五人の意識は一瞬にして現実へ引き戻された。
集会所の奥から、一人の女性が歩いてくる。
ギルド運営の制服を着た、落ち着いた雰囲気の女性だった。
年齢は若く見えるが、妙に貫禄が感じられた。
彼女が近づいてくると、周囲の冒険者たちは自然と道を空ける。
「お待たせしました」
女性は六人の前で立ち止まると、軽く頭を下げた。
「本日の試験担当を務めます、コナツです」
「貴女が担当なのね」
アッシェが言うと、コナツは小さく頷いた。
コナツ──ギルド運営お抱えの召喚士であり、群召喚の第一人者。
彼女は冒険者ではないため、その実力を”天位”で測ることはできない。
それでも、レグたちが名を聞いたことのある程の知名度があった。
「今回は少々特殊な昇格試験になります。詳しい説明は現地で行いますので、早速移動したいのですが……皆さま、準備はよろしいでしょうか?」
「少々、ねえ」
カイルが軽く笑った。
「第五天位を四人、第四天位を二人集める試験が、少々特殊で済むのか?」
「済まないかもしれません」
コナツは真顔でそう答えた。
そのあまりに正直な返答に、カイルの笑みが少しだけ引きつる。
「……正直だな」
「皆さんに油断される方が困りますので」
コナツはそう言うと、六人を順に見た。
その視線に、侮りはない。
ただの試験協力者としてではなく、それぞれを一人の実力者として見ている目だった。
「詳しい説明は、模擬戦闘用訓練場で行います。既に受験者の方は現地に到着していますので、皆さんも移動をお願いします」
「受験者の名前は?」
ディガルが低く尋ねた。
コナツは一拍置くと、どこか言葉を選ぶように答える。
「それも、現地でお伝えします」
「……隠す必要があるのか?」
レグが問うと、コナツは困ったように小さく笑った。
「はい。ラウゼン様からそう言われているので。それに──」
彼女は踵を返し、模擬戦闘用訓練場へ続く区画へと歩き出した。
「ギリギリまで秘密の方が面白いじゃないですか」