軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

080 呼び出された冒険者たち③

次に部屋へ入ってきたのは、ソノイチとはまるで対照的な男だった。

厚手の外套を羽織った、スキンヘッドの大男。

その外套はひと目で上等な品と分かる仕立てで、首元や指先には、いくつもの装飾品がギラギラと光っている。

巨大な 魔導銃(まどうじゅう) を背負い、顔には深い傷跡が刻まれていた。

ただ立っているだけで妙な迫力がある男だった。

「ディガルまで……?」

アッシェがその名を口にする。

その大男──ディガルは、部屋にいる顔ぶれを順に見回すと、露骨なほど嫌そうに眉をひそめた。

「……おいおい。なんだこの部屋。野良ばっかじゃねえか」

「おい、入ってくるやつ全員、俺らを見てイヤそうな反応するなよ」

カイルがそう返すと、ディガルは舌打ちし、背負っていた魔導銃を壁際へ立てかけた。

そして、空いている椅子を見つけると、遠慮のない動きで腰を下ろす。

ディガルという冒険者は、グラン=ラフィースでもそれなりに名が知られていた。

理由は、彼自身の実力もある。

だが、それ以上に目を引くのは、やはり彼の扱う武器──魔導銃だ。

魔導銃とは、術式を彫り込んだ銃身に魔石を装填し、その魔力を利用して弾丸を撃ち出す武器。

仕組みだけを聞けば強力な遠距離武器に思えるが、実際に扱える者は決して多くない。

照準、反動──そして何より、維持と調整に求められる専門的な知識。

少しでも調整を誤ればまともに使えなくなるどころか、銃身そのものが破損することさえある。

さらに厄介なのは、その費用。

維持費はもちろん、魔導銃は、撃つだけで金がかかる。

中には、術式を刻んだ魔石そのものを弾丸として使う者もいるという。

そこまでいけば、一発ごとに大量のギルドポイントを空へ撃ち出しているようなものだった。

だからこそ、多くの冒険者にとって魔導銃は、実用品というより浪漫の塊に近い。

憧れる者は多いが、本気で扱おうとする者は少なく、そして、扱い続けられる者はさらに少ない。

ディガルは、その数少ない一人だった。

「またグラン=ラフィース以外の、第四天位冒険者か……」

「……なんだてめえ。なめてんのか」

レグの言葉に、ディガルの目が細くなった。

ディガルの階級は、第四天位。

だが、魔導銃を扱う特異性と、これまで積み上げてきた戦果から、

ディガルは第四天位にもかかわらず、冒険者の中で名の知れた存在だった。

第五天位に届いていない理由については、いくつか噂がある。

魔導銃の維持に莫大なギルドポイントを費やしているという説。

また、稼いだそばから酒と装飾品に消えていく、本人の浪費癖が原因だとする説もあった。

そして彼もまた、グラン=ラフィースを拠点とする冒険者ではなかった。

「いや、そういう意味じゃない。ディガルの実力はここにいる誰もが分かってる。あのガルーダを撃退した話は、ここグラン=ラフィースでも知られているくらいだ」

「……じゃあどういう意味だ」

ディガルの声には、まだ棘が残っていた。

レグは一度、部屋に集まった面々を見回す。

「これまでずっと、グラン=ラフィースで活動する第五天位の冒険者が続いていた。だが、ソノイチにディガル……ここに来て、この街以外の実力者が立て続けに呼ばれていることが分かった」

「……つまり、厄介な依頼のために誰彼構わず声をかけた、ってことか」

そんな歪な状況を理解してもなお、ディガルは鼻で笑った。

「上等じゃねえか」

「なら、飛んでる敵が相手のときは頼むわ。俺は地面に足がついてるやつしか斬れねえからな」

「……待って。もしかして、戦場での役割まで考えて呼ばれているの……?」

アッシェの言葉に、レグは部屋に集まった面々をもう一度見回す。

前衛の剣士レグと騎士アッシェ、遊撃のカイルとソノイチ、後方は魔導師エリーゼと、魔銃士ディガル。

改めて考えると、この顔ぶれは奇妙なほど形になっていた。

「……確かに、このままパーティを組んでダンジョンにでも行けそうな面子だ」

「いや、それなら一つ役割が足りねえって。……回復術師も欲しくねえか?」

「それは難しいだろう」

レグは短くそう返した。

レグの所属する 灰狼の爪痕(グレイ・スカー) にも回復術師はいなかった。

そもそも、冒険者は基本的に攻撃を受けないように立ち回るものであり、もし受けてしまった場合も、ポーションを使うか、青ギルドの神社に行って回復を頼めばいい。

回復術師──緊急時にのみ役立つ言わば保険のような存在を、 灰狼の爪痕(グレイ・スカー) のような規模のギルドが抱えるメリットは少ない。

「……いや、私は多少心得があるぞ」

「え、マジかエリーゼ!?」

「ああ。応急処置程度だがな」

「私も、神聖の系統で、少し使えるわ」

「マジか。魔法は小難しくて俺はからっきしなんだよな。女性陣は流石だなあ」

「褒めても罵詈雑言しか出ないぞ」

「…………」

これで、部屋に集まった冒険者は六名。

レグ。

アッシェ。

ベン・カイル。

エリーゼ。

ソノイチ。

ディガル。

第五天位が四名に、第四天位が二名。

ただし、後から来た二名は、いずれも第四天位の上澄みと呼んでいい実力者たちだった。

全員が野良ギルド所属であり、

部屋にいる者の中には、グラン=ラフィースを拠点にしていない者まで混じっている。

つまりこの事態の首謀者は、この街の中だけでなく、近隣や別地域からも実力者をかき集めている。

「……なあ」

カイルが、声を落としてレグに話しかけた。

「もうここにいる連中で、適当なダンジョンにでも潜って帰らねえか?」

「なんでそうなるのよ……」

「だって、どう考えても厄介な依頼だぜ? 受ける気なのかよ」

「話を聞いてからだ」

レグがそう返した、その時だった。

「……来たぞ」

ソノイチが扉へ目を向けて小さく呟いた。

その一言で、皆の注意が自然と扉の向こうへ集まる。

やがて、廊下の奥から小さな足音が聞こえてきた。

その足音は段々と大きくなり、やがて扉の前で止まる。

そして、最後に扉が開いた。

入ってきたのは、一人の老いたオーガだった。

白髪の間から、二本の角が覗いている。

片方の角は途中で折れ、もう片方にも古い傷が走っていた。

片目にはモノクルをかけている。

年齢だけで言えば、老人と呼んで差し支えない。

歩みもゆっくりとしており、表情も穏やかだ。

だが、その姿を見た瞬間、不思議と空気が締まる。

──ただの老人ではない。

武器を構えているわけでも、威圧しているわけでもない。

それどころか、表情だけ見れば、孫に菓子でも渡していそうな柔らかさすらあった。

それでも、レグたちには分かった。

──この老人は、場の空気を変える側の存在だ。

「……まさか、ラウゼン・バルドレア……?」

誰かがその名を呟いた瞬間、空気が一変した。

その名を聞いたカイルが、わずかに眉を上げる。

「知ってるのか?」

「知っているも何も、彼は──」

「ほいほい」

その言葉を、老人が柔らかく遮った。

声はのんびりとしていた。怒気も威圧もない。

だが、その一言だけで続きを口にしようとしていた者は黙った。

ざわつきかけた部屋の空気が、静かに整えられていく。

「待たせてすまんの」

老人──ラウゼン・バルドレアは、穏やかな笑みを浮かべたまま、円卓の奥へと歩いていく。

皆、それを止めることなく、黙って見つめていた。

ラウゼンは椅子に腰を下ろすことなく、円卓の前に立つ。

そして、ゆっくりと部屋にいる六名を見回した。

「わしが今回、お主らを呼んだ年寄りじゃ。急な呼び出しで悪かったの」

「……早く用件を聞かせてもらえますか」

レグがそう言うと、ラウゼンは「うむ」と頷いた。

「もちろんじゃ。お主らも、理由も分からず呼ばれて気持ちが悪かったじゃろうしな」

『気持ちが悪い』──その言い方があまりにも軽く、カイルが小さく笑う。

「分かってるなら、もうちょい説明を先にしてほしかったですねえ」

「その方が面白いじゃろ」

「……絶対、それだけの理由じゃないわね」

「ほっほっほ」

ラウゼンは笑った。

だが、その笑みの奥にあるものはこの場の誰も読めなかった。

「さて、早速じゃが本題に入ろうかの」

「ああ、早くしろ」

「ほいほい。今回お主らに頼みたいのは──少しばかり変わった依頼でのう」

その言葉を聞いた瞬間、部屋にいる全員が、程度の差こそあれ身構えた。

誰もが分かっていた。

ここから先が、本題だ。

「依頼の内容は、とある第三天位のお嬢ちゃんの、昇格試験の相手をしてほしい、というものじゃ」