作品タイトル不明
079 呼び出された冒険者たち②
五大ギルドの関連ギルドは、その安定性や後ろ盾の大きさ、得られる情報やチャンスの多さなどから、多くの冒険者にとって魅力的な場所だった。
冒険者として上を目指すなら、五大ギルドの傘下に入ることは、間違いなく正しい選択肢の一つだ。
だが、得られるものが大きい分、求められるものもある。
それぞれの色に染まることを求められる。
最上位ギルドの都合に振り回される。
組織が抱える事情のために、戦うこともある。
レグにはどうしても、そういう生き方ができなかった。
だから彼は、五大ギルドの看板を借りることなく、野良ギルドに所属したまま第五天位まで登りつめた。
長く険しいその道を選んだことに、後悔はない。
だが、野良ギルドの自由さは、時に都合の良さにもなる。
五大ギルドの傘下にいる冒険者を動かすには、どうしても筋を通す必要がある。
上に話を通し、色同士の関係を気にし、誰が得をして誰が損をするのかまで考えなければならない。
その点、野良ギルドは身軽だ。
良く言えば自由。悪く言えば、しがらみが少ない分、使いやすい。
多少強引な依頼や、表に出しにくい仕事──要するに、面倒事を回すには都合がいい。
そういうものが、野良ギルドへ流れてくることは決して珍しくなかった。
そしてレグは、そのことをよく知っている。
──だからこそ、レグは小さく呟いた。
「……偶然、ではないな」
その一言に、アッシェも険しい顔で頷いた。
彼女もまた、同じ結論に辿り着いていた。
「でしょうね。少なくとも、この顔ぶれを偶然で済ませるのは無理があるわ」
第五天位の多くは五大ギルド傘下に所属している。
上に行けば行くほど、個人の腕だけではどうにもならない場面が増えるからだ。
情報、装備、後ろ盾──そして何より、厄介な相手に目を付けられたときに守ってくれる看板。
それらを持たずに第五天位まで登る冒険者は、決して多くない。
そのはずの彼らが、今、この部屋に複数集められている。
偶然にしては、あまりにも出来すぎていた。
「……なあ」
沈黙を破ったのは、カイルだった。
「ここまで野良の第五天位を集めてるってことは、あの女も来るのか?」
「……あの女?」
アッシェが眉を寄せると、カイルは少し肩をすくめた。
「いるだろ。最近、どこ行っても名前を聞くやつ」
「──ザラスト・ザラメイヤのことか」
エリーゼがその名を口にした瞬間、部屋の空気がわずかに変わった。
ザラスト・ザラメイヤ──野良ギルド”グランベルジュ”に所属する、第五天位冒険者。
剛体種ゴブリンを従え、異常な速度で上位へ駆け上がった彼女は、同じ第五天位であるレグたちにとっても注目の的だった。
「……怪物ザラストか」
エリーゼが低く呟く。
「怪物って呼び方、本人が聞いたら怒るんじゃねえの?」
「怒るなら、感情が見える分まだマシだ。一度、指名依頼で一緒だったが、彼女の表情が崩れた瞬間は一度もなかった」
「ザラストと一緒だったのか? どうだった? 戦いぶりは」
「幸か不幸か、戦闘は発生しなかった。だが、立ち振る舞いだけなら、すでに第六天位以上に見えた」
「なんだそりゃ。……まあ、ファンクラブがあるくらいだしな。俺らだって同じ第五天位だってのによ!」
そう言ってカイルが苦笑する。
レグも、ザラストの名前は知っていた。
直接話したことはないが、グラン=ラフィースで冒険者をしていれば、その名を聞かない日はなかった。
凄まじい速度で第五天位に到達しただけなら、まだ分かる。例外的な天才ならあり得ないことではない。
だが、彼女の噂はそれだけで終わらない。
『剛体種ゴブリンを二体引き連れ、ダンジョンに潜れば持ち帰るのはレアドロップばかり』
噂の中には尾ひれがついているものもあるだろう。
しかし、火のない所に煙は立たない。
「いやあ、一度手合わせ願いたいもんだね。闘技場とか興味ないのか? ザラストは」
「お前のような低俗な輩とは違う」
「酷い言いようだな! けどよ、稼げるぜ?」
「噂では、ダンジョンでレアドロップを引き当てる特殊な力を持っているらしい。それが本当なら、闘技場よりダンジョンに潜る方が稼げるだろう」
「……ほんとかねえ、そんな力があるなら、五大ギルドもそうだし、国もほっとかねえだろ」
「実際、ほっとかれてないわよ」
アッシェが静かに口を挟んだ。
「そうなのか?」
「噂だけどね。……けれど、もしザラストまでここに来るとなると……」
アッシェがそこまで言うと、カイルは嫌そうに天井を見上げた。
「やめてくれよ。野良の第五天位集めるって、絶対ろくでもねえだろ」
「同感だ」
レグは短く答えた。
──その時、扉の外から足音が聞こえた。
四人は自然と会話を止め、視線を扉へ向ける。
次に誰が入ってくるのか。
その答え次第で、この場に集められた意味が、もう少し見えてくる気がしたからだ。
ゆっくりと扉が開く。
そこに立っていたのは、レグにとって見覚えのある男だった。
細身の身体に、深い紺の忍装束。
腰には細い片刃の剣を差している。
「……ソノイチ?」
レグは思わず、その名を口にした。
ソノイチは部屋の中を見回し、集まっている面子を確認すると、わずかに目を細めた。
「……面倒そうだな」
「開口一番それかよ」
カイルが笑う。
その笑みには、嫌な予想が外れたという、僅かな安堵が混じっていた。
ソノイチは第四天位だ。
その実力は第四天位の中でもかなり上澄みではあるものの、まだ第五天位ではない。
つまり、この部屋に集められているのは、第五天位だけではない。
だが今度は、別の嫌な予感がレグの胸に引っかかる。
「ソノイチ、お前も呼ばれたのか?」
「ああ」
「……理由は?」
「聞かされていない」
「……わざわざこっちまで呼ばれたのにか?」
ソノイチは黙って頷いた。
その反応に、レグは眉をひそめる。
ソノイチは、かつてレグと同じ 灰狼の爪痕(グレイ・スカー) に所属していた冒険者だ。
つまり、以前はグラン=ラフィースを拠点にしていた。
だが今は違う。
彼は 灰狼の爪痕(グレイ・スカー) を抜け、別の街を拠点に活動している。
「……他の街の冒険者まで呼んでいるのか」
その直後、さらに扉が開いた。