作品タイトル不明
第212話 セーフティエリア内の乱戦
それからミズトとウィルは、『裂空の槍』と『幻影の 方舟(はこぶね) 』が待つ場所へ戻ることにした。
こうなってしまっては交渉もなにもない。まずは合流して、ダンジョンから離脱することを優先した方が良さそうだった。
広いセーフティエリア内で、魔王軍、黒いローブの集団、そして日本卍会が戦う中、冒険者たちは混乱に乗じて脱出を図っているようだ。
戦いを避けながらダンジョンの出口へ向かう何人もの冒険者とすれ違う。セーフティエリア入口で足止めを受けていた顔ぶれを多く見かけた。
ミズトは若者たちが気になり気配を探ってみると、セーフティエリアの入口から動いていないようだった。
ウィルの言いつけを大人しく守っているのか、この戦場を抜けるほど度胸がないのかは分からないが、動かないでいてもらえた方がありがたかった。
「ウ、ウィルさん!!」
若者たちに近づくと、彼らからこちらを見つけ、声を掛けてきた。
「キミたち、無事か?」
「はい! 大丈夫です!」
答える『幻影の 方舟(はこぶね) 』の若者からは、ウィルへの信頼と安堵感が溢れ出ている。
「見てのとおり魔王軍と黒いローブの集団がなだれ込んできて混乱している。日本卍会という連中は、なぜかその戦いに参加しだして、手の付けられない状態だ。我々も巻き込まれないよう身を隠しながら、ここを脱出しよう」
「こ……これを通るんですか……!?」
ウィルの発言に『裂空の槍』のデイヴは思わず声を出した。
「その通りだ。落ち着いてからの方が危険だろう。今のうちにダンジョンから出た方が賢明だ」
「わ……分かりました」
「よし、みんな、荷物を持って俺について来るんだ! ミズト、最後尾は頼んだぞ!」
ウィルはデイヴの返事を確認するとすぐにそう言って歩き出した。
「この 異界人(いかいびと) どもは何だと言うのだ!?」
魔王軍の幹部ヘルラフは、突然乱入してきた 異界人(いかいびと) の集団に戸惑っていた。
魔族はこの世界の人間たちと敵対してきた長い歴史はあるが、 異界人(いかいびと) と衝突したことはない。
そもそも接触したことすらなかったのだが、なぜか向こうから戦いを仕掛けてくることに、理解が追いついていなかった。
「ヘルラフ様、参戦してきた 異界人(いかいびと) は数百人にも及ぶようです! 中にはかなりレベルの高い奴も混ざっているようで、ノワールどころではありません!」
「 異界人(いかいびと) か……思っていたより邪魔な存在なようだな。ノワールのクズ共を放ってはおけんが、こんな遭遇戦で消耗するわけにもいかん。どちらにしても時間切れも近いようだし、ここは怪我人を回収して撤退するぞ!」
ヘルラフは部下にそう撤退指示を申し付けた。
「ジンさん! 魔族の連中が撤退していったようです!」
ケンスケがジンを見つけると、状況を報告した。
「何? どうりでノワールしか見当たらねえと思ったぜ! 魔族のくせに逃げやがったかのかよ!」
「出口方面へ向かったので、このダンジョンから出るつもりなのかもしれません!」
「チッ、クソつまんねえ連中だ! まだ魔族を狩り足りねえが、仕方ねえ! 残りのノワールは喰い尽くすぞ! ケンスケ! 一番強え奴はどこだ!?」
ジンは戦いの手を止めると、ケンスケに訊いた。
「あっちにレベル75のリーダーらしき奴がいます!」
ケンスケは指を差しながら答えた。
「レベル75だと!? ガーハッハッハッ!! そいつは面白そうじゃねえか! 俺様にやらせな!!」
ジンはそう叫びながら、ケンスケが指した方向へ向かった。
ケンスケや数人のメンバーも、ジンに従う。
「ジンさん、あいつです!」
少し進むと、ケンスケがジンへ告げた。
「レベル70台とやりあえるなんざ久しぶりだぜ! おい! ノワールのクズ! てめえの相手は俺様だ!!」
「『日本卍会』のクランマスターか……? 聞いていた通り好戦的な 異界人(いかいびと) のようだな」
ノワールの幹部が、ジンの姿を見て言った。
「ごたくはいい! さっさとやるぜ! かかってきな!!」
「『神楽』と同様、お前らもまだ利用価値はあるのだが、邪魔をするなら排除するだけだ」
ノワールの幹部は剣を構えた。
「ガーハッハッハッ!! タイマンだ、コラァ!!」
『日本卍会』のジンと、ノワール幹部の戦いが始まった。
積極的に攻撃をするのは、武器を持たないジン。
相手との距離を詰め、格闘技の試合のように蹴りや拳を繰り出す。
対するノワール幹部も戦闘経験は豊富で、多彩なジンの攻撃をうまくかわし、剣の間合いを保とうと立ち回る。
力任せな戦い方ではなかった。
この戦場の中で、二人の戦いは周囲を圧倒した。
そして、いつしか双方戦いを止め、二人の戦いを見守りだしていた。