軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

409.冗談

玉座の間、俺とシーラがいつものように、二つの玉座にそれぞれ陣取っている。

その向こうでは、いつもの大臣連中じゃなくて、初めて見る格好の男の一団がいた。

男達はいかにもな貴族の格好をしていて、俺の真っ正面にいる初老の男がその最たるものだ。

服装だけじゃなくて、ヒゲも毎日どころか、朝晩やらないとここまで綺麗に調わないだろうって位綺麗にしている。

そんな男達が腰を深々と折って、シーラに頭を下げた。

「ボルゾイ伯、ネクスタ・サイスと申します。大公陛下にお目通り叶い大変光栄に思います」

「久しぶりね、娘さん達はお元気?」

「はい、おかげさまで――」

「そう、元気なのが一番よね」

「――……っ」

初老の男、ネクスタと名乗った男の言葉が途中で途絶えて、まなじりが裂けそうな勢いで目を見開き、いきをのんだ。

今のは……なんだ?

「下品な脅しですわ。逆らったら娘がどうなるか分かっているよな。古典的な脅しですわ」

シーラが俺にだけ聞こえる小声で説明してくれた。

なるほどそういうことか。

今の言葉が脅しになるのはすぐにピンとこなかったが、父親にとって娘がどういう存在なのかは俺でも分かる。

シーラは古典的な脅しだとは言ったが、かなり効果的な脅しなんだと理解した。

言われたネクスタという男は激しく動揺したが、赤い顔でどうにか立て直してきた。

「は、はい。きっと元気でいると信じております」

「ええ、わたくしもそうだといいとおもっていますわ」

「……っ」

息を飲むネクスタ。

それをみて、シーラは同じ表情のままぐるっと男達を見回した。

全員が同じように息を飲んだり生唾を飲んだりした。

それで全員に娘がいるんだろうなと分かった。

「冗談ですわ」

シーラはクスッと笑った。

「えっ……」

「わたくしはそんなことはいたしませんわ。下品すぎますもの」

「あ、あはは……」

「ところで、本日はどのようなご用で?」

「は、はい。本日はジャミール王の名代で参りました」

「あら」

驚きの顔をするシーラ。

が、何となく分かる。

驚いているのは「表情」だけで、内心は何一つ驚いていないシーラだ。

「わが王は大公陛下と交渉のテーブルに着く用意がございます」

「あら、そうだったんですの」

「ともに、和平の道を――」

「ジャミール王は何か勘違いをなさっているのかしら。それともあなた方が都合良く言いくるめているのかしら」

「なっ――」

驚愕するネクスタ、そして同行した他の貴族達。

目の前にいる全員が、シーラの言葉に目を丸くしていた。

「そ、それはどういう意味でしょうか」

「交渉のテーブル、とおっしゃいましたわね?」

「はい、わが王は最大限の――」

「それが勘違いでしてよ」

シーラはにこり、と。

手をかざすことなく、言葉だけでピシャッとネクスタの言葉を遮った。

「交渉する事など何一つありませんわ」

「そ、それはどういう意味でしょうか」

「まだおわかりになりませんの? それとも、ああ、わたくしに直接かっこ悪い言葉をいわせるのが好みなのですわね」

シーラはクスクスと口を押さえて笑った。

いたずらっ子のような笑い方だが、その目はまったく笑っていない。

わざとそういう笑い方をしているようだ。

「と、とんでもありません!」

「あら、では本当におわかりになっていらっしゃらないんですの?」

「も、申しわけございません」

「仕方ありませんわね、でははっきりいわせていただきますわ」

そうと宣言するシーラ。

そのシーラの言葉に、目の前の男達が全員ゴクリと生唾をのんだ。

「臣従するか否か、それだけの事でしてよ?」

「なっ――お、お待ちください大公陛下、それはあまりにも――」

「勘違いがもうひとつありそうですわね」

「え?」

「わたくしは話が通じる相手でしてよ?」

「それは……どういう」

「わたくしで話がつくうちにちゃんとしたほうがいいということですわ。『本国』が動き出す前に」

「本国……」

「魔王様は――」

シーラがフッと微笑む。

男達が一斉に俺――魔剣リアムに目を向ける。

「何かをなさると決めたら必ず実現させる方でしてよ」

「な、なにかって……」

「わたくし程度ではすべては理解できませんが、例えば――」

シーラは一度俺をみて、またにこりと男達に微笑んだ。

「ここから王都の宮殿を吹き飛ばすこともできましてよ」

あーまあ、やろうと思えば。

「そ、そんな馬鹿な話が」

「では本日はお帰りになって」

「え?」

「明朝まで宮殿が存在しているといいですわね」

「……」

「ああ、念の為に言っておきますが」

「な、なんでしょう」

「わたくしとちがって、魔王様は冗談がお得意ではありませんのよ」

「「「ーーっ!」」」

男達がまた息を飲んだ、そして一気に青ざめた。

俺が冗談得意じゃないのはまあその通りだが、そんなのは男達はしらないだろう。

シーラが「娘」のことを冗談でいった、それにひっかけて俺は冗談は得意じゃないと言った。

それでより効果的に脅しをかけてるんだなあ、と理解した。

うん、効果的だ。

男達の青ざめた表情をみれば、要求を一切聞かずに脅しをかけることに成功したのがよく分かった。