軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

408.アスナの誤解

アスナは早速働き出した。

【盟約召喚】のリアムが作った人工精霊ジャイロを受け取って、シーラのパルタ公国に下った街や村に配って回った。

朝から晩まで、街や村を休む間もなく回って、ジャイロを設置して回った。

「得意げになっちゃってまあ」

「裏切り者が」

「貴族ってエサに尻尾振りやがって」

いくつかの街で、本人の耳にこそ入らなかったが、遠巻きに陰口をいう者達がでていた。

元ジャミール領の住人達がアスナにしている誤解が二つある。その一つが、アスナは「公爵にしてもらったから張り切っている」というものだ。

それは全くの誤解としか言いようがない。

アスナは公爵という地位をもらってはりきっているのではない、リアムの国「リアム=ラードーン」のほとんどの魔物と同じように、リアムという男に心酔していて、そのリアムが頼んだからやっているにすぎない。

魔物の国の魔王と魔物達、そういう風に見ているから、数少ない人間であるアスナにもそういう目で見ている。

それはまったくの誤解だった。

そして誤解は、もうひとつある――。

新しい国境、アセシノの村。

典型的な畑と田んぼしかない農村にアスナはやってきた。

朝からあっちこっち回ってきたから、アセシノの村に着いた頃にはもうほとんど夜だった。

ぎりぎり地平線にかすかな茜色の残照が残っている程度の、ほとんど夜だった。

到着したアスナは早速村長と対面して。

「 パルタ公(シーラ) の命令で来た」ということを告げて、水車小屋に案内してもらった。

案内された水車小屋に入ると、アスナは少し驚いた。

「動いてないの?」

「す、すみません。実はその、川の水が最近へってまして……」

おどおどしながら説明をする村長。

アスナは水車小屋の窓から顔を出して、小屋のすぐ側にある川をのぞき込んだ。

よく見えないからたいまつで照らすと、村長の言う通り川はほとんど流れていなくて、水車をまわすのは到底不可能な程度の流量しかなかった。

「うん、大丈夫。そのためにシー……じゃなくて、大公 様(、) があたしにこさせたんだから」

まだ貴族同士の敬称とか呼び方に慣れていないアスナは、庶民寄りの呼び方をしてしまう。

驚く村長をよそに、アスナは持ってきた荷物の中から魔力の結晶を取り出す。

それをもって、念じる。

すると【精霊召喚:ジャイロ】が発動して、三つの玉が三角にならんでいる人工精霊ジャイロが召喚された。

アスナに――というより誰でもあっちこっちをまわって設置して回れるように、リアムが作った魔法アイテムだ。

ダークエルフ達が作っている【マジックミサイル】の魔道具とは原理が一緒だ。

精霊召喚という高等魔法だが、使う数は街と村の数、と上限が決まっていて消耗品ではないから、ダークエルフ達の手を借りずにリアムが自分で作ったものだ。

それがきっちり発動して、ジャイロが召喚されて。

アスナはそれを水車の代わりにつけた。

水車ははずされたが、軸はジャイロで回転をしだした。

「お、おお……」

直前まで怯えていた村長だったが、ジャイロで代わりに回り出した水車をみて感動の声を漏らした。

「これで大丈夫。水車以上にパワフルだから安心して使って」

「あ、ありがとうございます。なんといっていいか……」

「いいのいいの。ちゃんと大公様に忠誠を誓ってればそれでいいから」

「は、はい。それはもう」

「じゃああたしはこれで」

「あの! よろしければ一席を設けましたので、是非――」

「ごめん、まだ回らないといけない所があるから。じゃ」

アスナはそういって、手をあげて水車小屋をでて、一直線に村の入り口に向かっていく。

村長は接待の用意があるといったが、アスナはまったく心動かされなかった。

接待されたくてやっている訳ではないので当然といえば当然なのだ。

アスナは一直線に村をでた。

リアムが用意してくれた魔道具で簡単に設置したとはいえ、それなりの時間がかかった。

村にやってきた時はまだ残照程度が残っている西の空も、そんなものはすっかり見えなくなってあたりが真っ暗になっている。

「ちょっと遅れ気味かな、でも今日は後一カ所だからがんばろ」

そういって自分を鼓舞して、街道を進み頭の中に記憶している次の村への足取りを急いだ。

「――っ!」

ふと、アスナは急ブレーキを踏んで、立ち止まった。

気配を感じたのだ。

完全に日がおちて、月明かりが照らす中。

街道横の木の陰から一人二人――三人の男が次々と現われた。

男達は黒装束で顔を隠していて、瞳が月明かりを反射して怪しげな空気を出している。

「あんた達何者?」

「「「……」」」

男達はアスナの誰何に答えずに、無言で武器をぬいた。

逆手に持つ長めのあいくち、いかにも暗殺者という風体の男達だ。

「人違い……じゃないよねこれ」

アスナは眉をひそめた。

すぐに状況を理解した。

予想はしていなかったけど、理解は早かった。

魔王の下僕として、襲撃者、あるいは暗殺者というべきか、そういったものを差し向けられたのだ。

そんなアスナがため息をつくと、暗殺者は三方向に分かれて、弧を描くように包囲するようにアスナを襲った。

「まったく――いそがしいんだから」

そう愚痴るアスナ、次の瞬間、その姿が消えた。

標的が消えたことで覆面ながらもはっきりとした驚きを見せる三人の暗殺者たち。

直後、唯一出ている目がぐりん、と白目を剥いて、一呼吸の間をおいて膝から崩れ落ちた。

そして、再び姿を見せるアスナ。

魔物の国でも最速を誇るアスナ、なんなく暗殺者を撃退した。

倒した三人の暗殺者に一瞥だけなげかけて、アスナはその場から立ち去った。

暗殺者の正体を暴くことよりも、今は頼まれている最後の村へジャイロを届ける事の方が大事だった。

人間達がアスナを誤解していることがもうひとつある。

それは、アスナが見た目通りの明るいだけの少女ではなく。

リアム=ラードーン最速のスピードを誇る猛者であるということだ。