軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

285.ただより安い物

.285

「商品にするってことは数を揃えなきゃだよな? どれくらいいるんだ?」

「まずは、1000ほど」

「え?」

ブルーノが即答した数字に俺は驚いた。

これまでもブルーノとはいろんなもので商取引をしている。

ほとんどが俺の魔法研究の副産物で、ブルーノに引き取ってもらい売ってもらった形だ。

だから商売のことだけど、俺はある程度どれくらいの数字でどれくらいの規模のものなのかを把握している。

それらと比べて、今回の1000はかなり大きい数字だった。

「そんなにいるのか?」

「はい」

『まずは、とも言ったな』

「あっ! そうだ『まずは』だ。最終的にもっといるって事?」

「はい」

ブルーノははっきりと頷いた。

まっすぐ見つめてくる眼差しは迷いを一切感じられない。

よほどの自信と覚悟を感じられた。

「本当にそんなにいるのか?」

「誠に恐れ多い事ですが、陛下の御心を推察するに、最終的にはアメリア様の名を広く知らしめたいと望んでいるかと存じます。そうなれば最終的に万単位での数が必要となるでしょう」

「あぁ……うん、そう、だよな」

俺の中で意識が切り替わったのが自分でも分かった。

そう、アメリアの名前を広めるためだ。

だったらそれくらいの数はあって当然だ。

「わかった、注文される数を出せるようにする」

「数は重要ではございますが……」

ブルーノはそこで一旦言葉を切って、俺を見つめた。まるで俺の表情を窺うような視線だ。

「なんでも言ってくれ。アメリアさんのためなら何でもする。兄さんは無礼とかそういうのを気にするかもしれないがなんでも遠慮無くいってくれ」

「御意」

ブルーノは腰を折って深々と一礼してから語り出した。

「アメリア様の名前と歌を広めるという目的から逆算致しますと、歌声を再現するための魔導具は一家庭に一つは持てるようなものが望ましく思います」

「一家庭に一つ……」

「貸し借り無しで、いつでも好きなときに聴ける状況、から、逆算いたしました」

「なるほど、たしかに貸し借りしないでみんな持てる状況が一番いいな」

「ですので、価格を相当に抑えて頂きたく」

「価格?」

「はい。どのような家庭でも無理なく買える程度の金額。上着一枚と同じくらいの金額まで抑えて頂くのが理想でございます」

「分かった、それは任せろ」

今度は俺が即答した。

商売の事はブルーノに任せるしかないが、魔法と魔導具の開発なら俺が得意とするところだ。

ブルーノが準備を進めると部屋から出て行った後、ラードーンが話しかけてきた。

『大丈夫なのか?』

「なんとかする」

『まあ、最悪あやつが何とかしてくれるだろうが』

「いや、兄さんに損を押しつける訳にはいかない。協力してもらうんだから、ちゃんと商売として儲かる形にしないとだめだ」

『となると正攻法か。我も門外漢なのだが、商品を安く作るのは大変なことではないのか?』

「ああ、普通はな」

そこはラードーンの言うとおりだ。

そこは転生前の、一村人だった頃の記憶が残っている。

毎年、畑から作物が穫れる。

領主に税を払った後、自分達の糧となる分をのこして、後は商人に売って金に換えるんだが、そこで毎年のように商人とバチバチやりあう。

こっちは高く売りたい、商人は安く買いたい。

商人は更にその先の客に売るから高く売るにも上限があるし、こっちは肥料とか種の代金とかいろいろかかっているから安くするのも限界がある。

毎年のように、生きるためにやり合っていたその時の記憶が残っているから分かる。

商品を安く作るのはものすごく大変な事だと。

――普通は。

『普通?』

「ああ、今回はこの世で一番安い原材料が使えるからどうにかなる」

『なんだ? その一番安い原材料というのは』

「俺の魔力だ」

ラードーンの疑問に答えてやった。

そう、今の俺にはそれがある。

魔導具の多くは、ミスリルとかそういう貴重な金属を使って作るものだ。

一方で、ブラッドソウルのような物を使って作る形もある。

そしてブラッドソウルというのは突き詰めれば「魔力が凝縮して形になった物」だ。

つまり、物によっては「魔力だけ」で魔導具を作る事が出来る。

その魔力を、俺が持っている魔力だけでやればいい。

そうすれば元手は一切かからない、ブルーノの注文である一家に一つレベルの安さまで抑えることは出来る。

後は頑張ってその魔法と魔導具を開発すればいい――それはいつもやってきた事だった。

『……くくっ』

「ん?」

『くくく……くはーはっはっはっは!』

普段見ない反応でなんだ? と思っていたら、ラードーンがいきなり大笑いしだした。

「どうした?」

『いやなに、二重に面白かったのでな』

「二重に?」

『うむ。魔力のみの魔導具。たしかに常人の意図するところの元手はかからん。それができるお前が面白くてな』

「はは」

俺もちょっと楽しくなった。

魔法の力、奇跡を起こす力。

憧れの魔法をつかった形が褒められて嬉しくなった。

「もうひとつは?」

『うむ。こっちの方が面白かったかもしれんな』

「うん?」

『お前の自己評価の低さよ。一万をこす魔物を総べる魔王の魔力をタダだという発想がツボに入ってな』

そう話すラードーンは、また声をあげて大笑いしだしたのだった。