軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

284.フォノグラフ

驚いたアメリアは目を伏せてしまった。

しかし上目遣いで、うかがうようにして俺を見つめてくる。

その状態がしばらく続いたあと、アメリアはおずおずと口を開く。

「本当に……いいのですか?」

「はい」

「それなら――」

そこでアメリアは一度言葉を切った。

話そうとしたが、やはりぐっと飲み込んだ、そんな仕草だ。

それを挟んでから、でもやっぱり――、と勇気をだしてという感じで。

「もっと、多くの人に、歌を聴いてほしいです」

「分かりました、任せて下さい」

俺は即答した。

それでアメリアはますます驚いた様子を見せた。

俺があまりにも安請け合いをしたようにみえて、それで驚いているんだろう。

その日のうちに、俺はブルーノを呼び出した。

俺に呼ばれたブルーノは大急ぎで街にやってきた。

馬を使いつぶすほどの大急ぎだったらしいとエルフメイドから報告を受けたが、俺の前にでたブルーノは涼しい顔を装っていた。

馬を使いつぶすほどの大急ぎで乗っている人間が疲れていないはずはありえないんだけど、ブルーノはそれをまったく表に出さずにいた。

「本日はどのような御用向きでしょうか」

「ああ、兄さんにちょっと相談に乗ってほしくて」

「なんなりとお申し付け下さい」

アメリアにする俺みたいに、ブルーノも俺の相談には安請け合いにしか見えないほどの勢いだった。

そんなブルーノに頼もしさを覚えつつ、まずはアメリアとのやり取りを話した。

ブルーノは黙ってそれを聞いた後。

「私にお手伝い出来る事がありますでしょうか」

「今準備を進めてる、アメリアさんの演奏会。ああいうのが他の国でも出来ないかって思って」

「演奏会を、ですか?」

「ああ。演奏会に使う魔法とかは、他国だけど俺一人ならどうとでも侵入出来るから準備は整えられるけど、そもそも演奏会自体開けるのかどうかが聞きたいんだ」

「……不可能ではありません」

ブルーノはしばらく考えたあと、じゃっかん奥歯にものが挟まったような物言いをした。

「すぐには出来ないってことか?」

「はい。まず、大規模な演奏会は、今まであまり例はありませんが、サーカスや決闘場など、そういった催しはございますので開催自体は可能です」

「じゃあすぐに出来ない理由は?」

「今まで『歌』は権力者が独占してきました。そのため、民が足を運んで聴きに行くという習慣がございませんので、開催しても集まるかどうか不明です」

「そうか……」

「この国は陛下の鶴の一声で皆さんが集まるので、その懸念はないに等しいでしょう。またパルタ公国も敗戦国で事実上陛下の支配下ですので、圧力をかければどうにかなるでしょう。ですが、他の国では……」

「そうか……じゃあ諦めるしかないのか……?」

『ふふっ、相変わらずお前は魔法とそれ以外では別人だな』

「え?」

急にラードーンが話に割って入ってきた。

いきなりの事で俺は驚いた。

「どういうことだ?」

『早まるな、という意味だ。そいつの言葉を思い返してみろ。不可能ではない、だろう?』

「あっ……」

俺ははっとして、ブルーノをみた。

ブルーノは真顔だが、難しい顔ではない。

「可能にするにはどうすればいいんだ? 兄さん」

「はい、陛下の全面協力を頂ければ」

「何でもする。いってくれ」

「かしこまりました。それでは、まずは音を蓄積、再現する魔法――いえ、魔導具を開発して下さい」

「音、だけ?」

「はい」

「魔法ではなく魔導具?」

「さようでございます」

「わかった」

俺は小さく、しかしはっきりと頷いた。

魔法じゃなくて魔導具なのは分かる、ブルーノには「他の国でどうにかする」という事を頼んでるから、使い手が覚えないといけない魔法じゃなく、誰でも魔法の効果を再現する魔導具にするというのはわかる。

だから、なんで音だけなのかは分からないけど、きっとブルーノなりの理由があるんだろうと思う。

だから言うとおりにした。

「まずは魔法から作ろう」

「はい、完成致しましたらご一報――」

「すぐに出来る」

「――え」

俺は頭の中を探った。

音を保存、再現する魔法。

リアムネットで同じことをしているから、リアムネットから切り出してそれだけにすればいい。

だからそれは簡単だ。

前詠唱無しの上限で、同時に魔法を使い、開発する。

リアムネットで既にあるものの切り出しだから上限に引っかかることなくすぐにできた。

「【フォノグラフ】!」

手をかざし、魔法を唱える。

目の前に光のうずが現われた。

「これが……そうなのですか?」

「ああ。こんな感じで――」

そういい、魔法の効果を 進める(、、、) 。

光の渦がピタッと止まって、最初とは逆方向に回転を始める。

『これが……そうなのですか?』

『ああ。こんな感じで』

光の渦の方から声が聞こえてきた。

俺とブルーノそっくりの声だ。

「おお! まさにこれです」

ブルーノは歓声を上げた後、感動した瞳で俺の方をみた。

「さすが陛下でございます、まさかこの一瞬で完成してしまうなんて……お見それいたしました」

「リアムネットにあったものだからな。ということはこれでいいのか?」

「はい」

「じゃあこれを魔導具にする。これくらいの魔法ならすぐにできるけど、これをどうするんだ?」

「アメリア様の歌を保存蓄積し、商品にします」

「商品に?」

「はい」

「……それが他の国での演奏会につながるのか?」

「はい」

ブルーノははっきりと、滅多にみないほどの力強い頷き方をした。

「じゃあ任せる」

俺は細かく聞かないことにした。

商品にする、とブルーノはいった。

それならこの先は商人の領分で、俺が細かく知っても意味はない。

ブルーノがあれほど力強く言い切るのなら、細かい口出しはしないほうがいいとおもったのだった。