軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

286.魔力と人間力

街の中、露天のカフェテラス。

あまり流行っていない店の席に座って、行き交う魔物達をながめ、テーブルの上に置いた魔導具を 向けて(、、、) いた。

最近はブルーノとの商売のおかげで、人間の街にあるいろんな店が出来たりしていた。

酒場などは結構賑わっているけど、こういうこじゃれた店にはほとんど客がはいっていない。

魔物の感性に合わないのかもしれない。

が、今はそれが良かった。それが必要だった。

そこそこいろんな声があって、無軌道な声があって、でも騒がしすぎない。

【フォノグラフ】を魔導具にする最終調整には、この「そこそこの雑音」の環境がよかった。

そこで調整をしていたが、俺の姿を見つけたスラルンとスラポンがピョンピョン跳ねて一直線にむかってきた。

「りあむさますきー」

「すきすきりあむさま」

これでも戦闘するときはそこいらの冒険者をばったばったなぎ倒す強者であるスライムの二人が、子犬よりも更に愛くるしい仕草で俺に甘えてきた。

俺は微笑みながら二人を撫でてあげた。

二人はひとしきり俺に甘えた後、テーブルの上に置かれている魔導具に気づいた。

「これなにりあむさま?」

「りあむさまのまほう?」

無邪気な顔で聞いてきた二人に「ああ」と頷き返して、その魔導具を発動させた。

魔法【フォノグラフ】の効果を持った魔導具。

魔晶石を参考にして、俺の魔力を凝縮した結晶で作った魔導具。

それはすぅ――と消えながら。

『これなにりあむさま?』

『りあむさまのまほう?』

と、直前のスラルンとスラポンの声が二人に聞こえた はずだ(、、、) 。

同じ言葉どころか、まったく同じ声。

【フォノグラフ】で同じ声が聞こえた。

ちなみにはずだ、というのはアメリアのための雑音を消す魔法と一緒で、そしてここでテストしている理由でもある。

雑音を消してよりよく聞こえるには対象者にだけ聞こえるのが一番いいとおもった。

魔導具も完全に消えた後。

「りあむさますごい」

「すごいりあむさま」

スラルンとスラポンが更に興奮して懐いてきた。

天真爛漫さゆえに、スラルンとスラポンは言葉がすくなく、すぐに「結論」と「感想」に言葉が飛ぶのが特徴だ。

今のも、長い付き合いから途中の「ぼくたちの言葉が再現されて」がすっ飛ばされて、二人はひたすら俺の事をすごいすごいと更に懐いてきた。

そんな二人とじゃれ合いながら、魔力を凝縮させて、新しい【フォノグラフ】を作る。

「ちゃんと思った通りの効果は出てるみたいだな」

『うむ、その二体がああも興奮するというのはそういうことなのだろうな』

「あとはこれを量産すればいいか」

『いや、それはどうだろう』

「ラードーン? どういうことだ?」

スラルンとスラポンとじゃれ合いつつ、待ったをかけてきたラードーンに聞き返した。

『魔法の効果は申し分ない、さすがお前だ。我にも聞こえないのだから魔法そのものは完璧といえよう』

「じゃあ?」

『兄の言葉を思い出せ。服のように買いやすい、と言ったはずだ』

「ああ、いった」

ブルーノは確かにそういっていたと、その時のやり取りを思い出しながら頷いた。

『それの本質は安価で聞けるというものだ』

「そうだな」

『一回限りで消えたとあってはどんなに安くても高く感じる』

「……あぁ」

ラードーンに気づかされた俺は、うめき声にもにた同意の言葉を漏らした。

ラードーンの言うとおりだ、100%その通りだ。

声を閉じ込めて放出する――というのが魔法を閉じ込めて放出するという、街のインフラのバックアップをやっていた時の発想を引きずったままだったから、考え無しに一回限りの物を作ってしまった。

でもラードーンの言うとおり、一回限りだと高くつく。

「絵とか本とか、そういうのみたいにくり返し楽しめる方がいいよな」

『そう思う』

「ありがとうラードーン、すぐに調整する」

ラードーンのアドバイスを取り入れて、魔導具の調整をした。

一回限りじゃなくて、何回も繰り返し使えるような魔導具に作り替える。

一回限りのに比べて作る魔力はかなり多めに必要だけど、それは問題じゃない。

なにせ――俺の魔力はタダだから。

だからそうやった。

すぐにそれが出来た。

「よし!」

俺はできあがった魔導具を手にして、会心の笑みを浮かべた。

「りあむさまおわった?」

「あそぼうりあむさま」

俺が魔導具を作っている間は黙っていてくれたスラルンとスラポンがじゃれつきを再開した。

【フォノグラフ】の魔導具を発動させた。

『りあむさまおわった?』

『あそぼうりあむさま』

二人の声がまた、二人だけに聞こえたようで、スラルンとスラポンは更に大はしゃぎした。

効果は発動したが、魔導具は消えなかった。

大成功だ、と思った。

あとはこれを量産してブルーノに渡そうとおもった。

「あれ? リアムじゃん」

名前を呼ばれたから、声の方をむいた。

道の先にアスナがいて、彼女は長いポニーテールを揺らしながら、こっちに小走りで駆け寄ってきた。

「どうしたのリアム? リアムを街中で見かけるなんて珍しいね」

「ああ、実は――」

俺は苦笑いしつつ、アスナに説明した。

ブルーノの注文に応じるために魔導具を開発しているが、ある程度雑音のある環境の方がテストにはいいから街に出ていると。

それを最後まで聞いたアスナは。

「へえ、そうなんだ」

としきりに感心していた。

「でもさ、それってもったいなくない?」

「うん、だから使い捨てじゃなくて――」

「そうじゃなくて」

アスナは被せ気味に俺の言葉を遮ってきた。

「え?」

「魔導具がもったいないとかじゃなくてさ、自分にしか聞けないのもったいないって事」

「……えっと?」

「いい物はみんなに共有したいじゃん? 例えばあたしがおいしいケーキ見つけたらジョディさんに教えてあげるし、ジョディさんもかいなよって言うんだ。ケーキとかだったら一口分けたりとか。でも自分しか聞こえないならそれもできないじゃん」

「あぁ……」

なるほど、と思った。

アスナのいう事は一理ところが十理もあった。

その通りにした方がいいかな――と思ったその時。

アスナから、更にクリティカルな一撃がとんできた。

「そもそもリアムだって、あの人の歌をみんなに広めたくてやってるんじゃん?」

「――!!」

脳天をがつんと殴られたような衝撃で、目の前が一瞬真っ白になった。

『ふふっ、魔力は飛び抜けているが人間力はまだまだだな』

ラードーンの言葉も意識にはいってこないほど、頭まで真っ白になったのだった。