軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

228.交渉

「さて、これから交渉に向かうわけじゃが」

「ああ」

頷く俺。

ラードーンは一度他の三人を見て、三人は肩をすくめるとか手の平を上向きにして差し出すとか、一斉に「任せる」的な仕草をした。

それを受け取って、ラードーンは俺の方を向き直った。

「わしらが実際の交渉をうけおう、小僧は詳しい内容を知らずとも良い。そのかわり向こうが拒むごとに、わしらの誰かに『やれ』といった指示をだせばよい」

「わかった――けど、それだけでいいのか?」

「小僧は魔王じゃ、鷹揚に構えていて、わしらをあごで使って大物として振る舞っていればよい」

「そうか」

俺は大きく頷いた。

何をしようとしてるのかはやっぱり分からないままだけど、ラードーンの口ぶりからは、完全に任せても大丈夫だと感じた。

「では、いこうか」

ラードーンがそういい、俺は再び頷いた。

それとともに前世のピュトーンとデュポーンたちが一斉に動き出して、俺のまわりを取り囲むようにうごいた。

俺が四人に囲まれる「王」というフォーメーションで、ゆっくりと地上に向かって降下しだした。

このままだと屋根の上に降りてしまうからどうするのだろうか――と、思ったが聞くまでもなかった。

だれに言われるともなく、合図があったわけでも無い。

まったくの即興という感じで、ピュトーンが軽く手を振って、屋根を吹き飛ばした。

その真下にある部屋が野ざらしになった所で、俺達はその部屋の中に着地した。

「な、なんだお前たちは!」

男ががなる声で聞いてきた。

喋るなと言われていたから、代わりに部屋の中をぐるっと見回す。

たぶんこの巨大な屋敷の主が使っているであろう立派な寝室で、広いベッドの上に女性が三人ねかされていて、彼女達は一様に意識がない。

その横で一人の中年男がいて、男ががなってきた相手だ。

「我らが主、リアム=ラードーン陛下だ」

ラードーンは普段よりも更に一段上の、荘厳さを感じさせる口調で言い放った。

リアム=「ラードーン」と聞いた瞬間、ピュトーンとデュポーン達が微かに眉をひそめたのが目に入った。

大丈夫なのかな、って思っていると。

「魔王本人だと!?」

中年男の驚愕する声が耳を打った。

それで空気が一気に張り詰めて、悠長にまわりを見ていられる状況じゃなくなった。

黙っていろという指示を守って、黙ったまま男を見つめた。

ラードーンが更につづけた。

「貴様がパルタ大公、トリスタン・ラザフォードだな」

「魔物の分際で軽々しく私の名前を口にするな!」

「相違ないな? では我が主、リアム陛下のお言葉を伝える。今すぐ神竜達にかけた【ドラゴンスレイヤー】を解除せよ」

「ふざけるな! 魔物がこの私に命令するつもりか!」

「……」

ラードーンは何故かこっちを見てきた。

……あ。

そうだった、そういう話だった。

完全に黙ってるだけじゃなくて、交渉をして、それが拒絶される度に俺が誰かに「やれ」って命令するって話だった。

ラードーンの視線でそれを思い出した俺は、一番近くにいたピュトーンに言った。

「やれ」

「御意でございます」

ピュトーンは明らかに芝居がかった、普段とは違う口調でいい、軍服をなびかせて一礼した。

そして身を翻して、ゆっくりとベッドの上に寝かされている三人の女性達にむかっていく。

「何をするか魔物の分ざ――」

パルタ大公――トリスタンは手を伸ばしながらピュトーンに近づいていき、肩をつかもうとしたが、ピュトーンは顔だけ振り向き軽くひとにらみしただけで、ビクッと体が硬直して動けなくなった。

ピュトーンはそのままベッドの前までいって、古代の記憶の指輪をつけた手をかざして魔法をつかった。

【ヒューマンスレイヤー】

新しい【ヒューマンスレイヤー】を寝ている女性達にかけた。

すると女性達の横に、本人とまったく同じ姿をした者が現われ、それが砂時計を持っていて、砂時計の砂とともに徐々に体が腐り落ちていった。

「サマンサ! メアリー! キャロル!」

トリスタンは女性達の名前を呼んだ。

実際の状況はこれまでと変わっていない、【ヒューマンスレイヤー】がかけられているという状況は変わってない。

しかし新しい【ヒューマンスレイヤー】で死へのカウントダウンが見えるようになって、トリスタンの焦りが目に見えて大きくなった。

「もう一度伝える。我が主の命令である、【ドラゴンスレイヤー】を解除せよ」

「ふざけるな! そっちこそ妻達のこれを解除しろ」

「……デュポーン」

今度は為うるべきなのかはっきりと分かった。

トリスタンの拒否の言葉を聞いた瞬間に俺は命令を口にした。

前世のデュポーンが無言で部屋の壁を吹っ飛ばした。

壁の向こうに今度は身なりのいい男女の子供達が倒れていた。

デュポーンは子供達に向かって【ヒューマンスレイヤー】をかけて、同じように砂時計と腐っていく本人の姿を見えるようにした。

「リリー! ロイ! き、きさまら……こんなことをしてただで済むと思っているのか」

「我が主の命令だ、すぐに【ドラゴンスレイヤー】を解除し降伏せよ」

「ふ、ふざけるな。そんな一方的な――」

「デュポーン」

三回目になるともうはっきりとわかった。

今度は言葉を途中で遮って前々世のデュポーンに命令した。

そのデュポーンは頷き、少しとびあがった。

軍服をなびかせながら、【ヒューマンスレイヤー】を唱える。

魔法の光が広範囲にひろがった。

「な、何をした――まさか!」

トリスタンははっとして、窓際に駆け寄っていった。

窓にへばりついて外を凝視した。

「や、屋敷の者達が……」

俺にはみえていないが、さすがにもう何が起きているのか光景が想像出来た。

この部屋、そしてとなり部屋。

それにつづいて、三回目は屋敷の中にいる者達に、広範囲に【ヒューマンスレイヤー】をかけたんだろう。

それを見たトリスタンが言葉を失い、わなわなと震えだした。

「我が主の命令だ」

「――っ!」

「【ドラゴンスレイヤー】を解除して降伏し、人質を差し出せ」

「人質!? 何を言っている、そんな事出来るはずが無い!」

しぼみかけたトリスタンの怒りがぶり返してきた様子だ。

俺も「何を言ってる」な気分になった。

が、ラードーンがこっちをみた。

だから疑問をひとまず後回しにして。

「ラードーン」

「御意」

ラードーンは応じて、さっきのデュポーンと同じように飛び上がった。

デュポーンよりも遙か上空、天井があったところよりも更に上の方に飛び上がってから――ドラゴンの姿に戻った。

「ひぃ!」

それは、トリスタンが悲鳴を上げてしまうほどの異様。

神竜ラードーン、その本来の姿に戻った。

部屋の中が丸ごと影で覆われるほどの巨体で、更に二回り大きな魔法陣を広げる。

そうして唱えたのは――【ヒューマンスレイヤー】。

【ヒューマンスレイヤー】の光がラードーンを中心に広がる。

この街全体にひろがって、覆い尽くすほどの光だ。

「…………」

トリスタンはがくがくと震えだした。

震えて、床にへたり込んでしまった。

さすがに全部分かった。

ラードーン達は、トリスタンが拒否をする度に【ヒューマンスレイヤー】の範囲をひろげた。

自分が拒否する度に犠牲者が目に見えて増える、そういう形にした。

それは目に見えて効果を発揮していた。

『我が主からの命令だ』

「――っ!」

上空から聞こえてくる四回目の問いかけに、トリスタンはいよいよ青ざめだしたのだった。