軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

229.余裕で間に合う

「わかった! わかったから!!」

トリスタンは必死な形相ですがりだした。

空にいるラードーンにすがったが、ラードーンからは何も反応がなかった。

「頼む! もうやめてくれ! 頼む!」

必死な形相でそう言って、視線をこっちに向けてきた。

ラードーンは反応しなかったが、地上にいるデュポーンら三人は一斉に俺に視線を向けてきた。

俺が決めるのか? ――と思っていると。

トリスタンはその視線の動きを見て、何かはっとしたような感じで、俺に向かって土下座した。

「たのむ! もうやめてくれ! なんでもするから!」

「……ああ」

この「……ああ」はトリスタンに向けた返事じゃなかった。

何となく理解したのだ。

地上にいるデュポーン達も含めて、さっきと同じように、やめる決定権も俺のものにする、という演出にしたいんだろう。

それを理解した俺は頷き、空に向かって口を開く。

「戻ってこい、ラードーン」

叫んだ訳ではなかった。

普通位の声の大きさ、目の前にいる人間と喋る位の大きさだ。

それくらいの大きさだったけど、ラードーンにはしっかり伝わったみたいで、ゆっくりと空から降りてきた。

そりゃそうだ。

ラードーンのすごさは俺がよく知っている。

トリスタンは今脅しをかけてる最中の相手だ。

そんな相手の声が、空にいるからって聞こえてないわけがない。

聞こえなかったふりをしてただけだ。

そんなラードーンはゆっくりと降りてきた。

ドラゴンから人間の姿、軍服少女の姿に戻って、しれっとした様子で俺の横に立った。

あくまで俺を「主」にたてる動きだった。

俺が分かったくらいだから、トリスタンもそれを完全に理解したみたいだ。

「神竜」ラードーンが戻ってきても、土下座の向きは俺に向けられたままだった。

えっと……ここからどうする?

指示はここまでで、この先の事はない。

どうすればいいのかを考えた。

ちらっと四人に視線を向けたが、何も言われなかった。

それはつまり、俺の好きにしていい、という事なのかも知れないと思った。

目的は何か、今世のラードーン・デュポーン・ピュトーンの三人の【ドラゴンスレイヤー】を解除させること。

途中で何をどうやってもその最終目的は変わらない。

ラードーン達は途中の手段を指示してこなかったから、俺はその最終目的に向かって動く事にした。

「【ドラゴンスレイヤー】を解除しろ」

「わ、わかった。ただ」

「ん?」

「ちがうんだ! やらないわけではない!」

トリスタンは跪いたまま、両手をブンブン振って弁解した。

ここからの誤解は大事な人の命に関わる、と身にしみたから出た反応だろう。

「何しろ相手がドラゴンだ、大がかりな魔法でここでは出来ない」

「なるほど」

俺は頷いた。

それは頷ける話だ。

【ヒューマンスレイヤー】と違って、【ドラゴンスレイヤー】はラードーン達「神竜」にかけたもの。

それが大がかりな仕掛けで実現した――というのはすごく納得する。

むしろそうじゃないとおかしい、とさえ思った。

「じゃあ案内してくれ」

「わかった」

「その前に」

それまで黙っていたラードーンが一歩前に進み出て、手を無造作に振った。

目の前に羽虫かなんかがいたから手で払った、位の気安い行動。

その行動は魔力を伴った。

魔法が発動して、まわりにいるトリスタンの家族達にかかった。

すると砂時計の砂が一気に半分落ちて、それを持っている本人を模した人形も半分近く腐敗がすすんだ。

追い【ヒューマンスレイヤー】、ってところか。

「ああっ! な、何をする!」

「安心するがよい。貴様が協力的であれば十二分に間に合う時間じゃ」

「そ、そんな……」

トリスタンは青ざめた。

ラードーンの追い【ヒューマンスレイヤー】、効果は抜群だったみたいだ。

そこはラードーンのいうとおりで、追い【ヒューマンスレイヤー】で縮めたとはいえ、砂時計や人形の腐り具合からタイムリミットはまだ一日くらいは残っている。

なのに青ざめた――なにか俺達を出し抜こうとしてたのを、ラードーンが気付いて止めたということなんだろう。

さすがラードーン。

前世であってもやっぱり勘も頭もいい人だ。

「た、たのむ! これでは――」

「うだうだいってないの」

デュポーンがそう言いながら、元のドラゴンの姿に戻った。

そして鉄のような質感のかぎ爪でトリスタンをわしづかみにした。

『とっとと案内しなさい、本当に間に合わなくてもしらないよ』

「……わかった」

トリスタンは青ざめて、そしてうなだれた。

そして諦めたかのように力のない口調で応じた。

デュポーンがドラゴンの姿に戻ったのも脅しの一環なのだろうな、と俺はまたも感心したのだった。

ドラゴンが一頭、人間が四人。

空から降り立ったそこは街の近くにある川にある三角洲だった。

川が湖に流れ込むその「付け根」的な所にある三角洲の真ん中には祭壇のような台座があり、台座の上に巨大な結晶体がある。

俺はその結晶体を見てから、未だデュポーンに掴まれたままのトリスタンに振り向いた。

「あれは?」

「魔晶石だ。考え得る限りで最高純度のものを探してきた」

「ブラッドソウル? あんなにでかくなるんだ」

ちょっとだけ驚いた。

魔晶石、別名ブラッドソウル。

魔法を使った後の魔力が一カ所に流れて、それが結晶化したもの。

丁度この三角洲のように、流れるものの不純物が一カ所に集まって固まった、そういうものだ。

そのブラッドソウルは結構色々見てきたけど、こんなにでっかいサイズなのは初めてかも知れない。

「なんでこんなものを?」

「あの三竜に向けた【ドラゴンスレイヤー】、人間一人の魔力ではどうしようもない。だからこれで大量に魔力を集めて行使させたのだ」

「あー……そっか」

なるほど、と俺は納得した。

そりゃそうだ。

【ヒューマンスレイヤー】と違って、【ドラゴンスレイヤー】は相手がラードーン達神竜だ。

発動すれば文字通りの「必殺」になる魔法は、相手が強大であればあるほど必要とする魔力が大きい。

人間一人の魔力じゃ足りないのはすごく納得がいく。

「今から溜めては間に合わない! だから頼む! さっきの魔法、私の家族に掛けた方はすこしだけ緩めてくれ」

トリスタンは必死にすがってきた。

俺はブラッドソウルに近づいた。

「ようはこれがいっぱいになる程度の魔力があればいいんだろ?」

「そうだ、だからその分の時間を――」

「魔力の問題なら――【アナザーディメンション】」

俺は新しく覚えた、別世界への扉を開く魔法をつかった。

そろそろ見慣れてきた「そら」の景色が広がり、その向こうから隕石が飛んできた。

隕石が飛んできて、次元の扉をくぐった瞬間にそれを魔力に変換する。

別世界の物質は次元の扉を越えた瞬間大量の魔力になる。

今回は俺の中じゃなくて、巨大なブラッドソウルがあったから、【タイムストップ】を使わずに魔力をそのままそっちに流した。

大量の魔力をそそがれたブラッドソウルが光り始める。

ブラッドソウルに手をふれて、探る。

今の隕石一つで半分くらいの魔力にはなった感じだ。

ならばもうひとつ、サイズ次第では二つくらいでブラッドソウルが溜まる。

俺はトリスタンに振り向き、言った。

「問題なく間に合いそうだ」

「…………」

視線の先で、トリスタンは信じられないものをみたような、愕然とした表情になっていたのだった。