軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

206.一回多い理由

ベッドの上で目を覚ました。

むくりと体を起こすと、部屋の中がいつもと様子が違うような気がした。

「……」

俺は部屋の中をきょろきょろした、何かが違うのは間違いないけど、何が違うのかがいまいちよく分からなかった。

最初は離昇して世界の見え方が変わったからだと思ったが、そうではないと自分の五感がささやいている。

『起きたか』

「あっ、おはようラードーン」

『うむ。もう昼を過ぎているがな』

「え?」

ラードーンの言葉にびっくりした。

パッと窓のほうを向くと、同時に違和感の正体に気付いた。

朝日がなかったんだ。

日差しは時間帯によって方向が変わる。

朝起きるのと昼起きるのとでは部屋の中の明るさがかわる。

それで空気が微妙にちがって、雰囲気そのものがガラッと変わってしまう。

違和感の正体はそれだったんだ、と理解した。

「もう昼なのか……そんなに寝てたのか、俺」

『あれだけ魔力を消耗すればそうもなる』

「そっか」

『むしろあれだけ魔力を絞って昼で起きられた事の方が驚きだ』

「回復挟んでたから、ブラッドソウルとかで」

『だとしてもだ。こと魔法に関しては、やはりお前は大きな男だったな』

ラードーンに褒められてちょっと恥ずかしかったが悪い気はしなかった。

ベッドの上で体を起こしたまま、俺は少し考えた。

昨日のことをだ。

昨日は魔力を絞りに絞って、頭もぼうっとしてたから考えられなかったけど、一晩ねて起きて、頭がすっきりしたところで改めて考えた。

ラードーン達が前世の自分達を呼び出したあれのことを考えていた。

あわよくばそこで、って思ったが。

「うーん……」

『どうした、何を考えている』

「昨日のことを。ラードーン達が前世の自分達を呼び出していただろ? それを参考に出来ないかなって思って、昨日の光景とか雰囲気とか思い出してるんだけど、今ひとつ理解できなくてさ」

『ふむ……我も昨日で改めて認識、そして確信させられたが。あれはお前には無理だろう』

「俺には無理?」

『あれは魔法ではないのだからな』

「ああ……」

俺はなるほど、と小さく頷いた。

魔法じゃないから俺には無理、というラードーンの言い分はよく分かる。

実際、彼女と出会ってからはずっとそうだったし、ここ最近更にそういう傾向が加速してきたようだなと自分でも思う。

その言い分は納得したんだけど。

「魔法じゃないならあれはなに?」

と改めて聞いた。

あの光景をみて、反射的に魔法だと思った。

だから魔法として考えた、それで本当は魔法じゃないから俺の考え方とか頭じゃ理解できない――のはいい。

でもそれはそうとして、だったらあれはなんだろうか。

なまじ魔法っぽく感じただけに、その正体が気になった。

『我もそうなって間もないから確かなことは言えぬのだが、あれは体質の様なものだと思う』

「体質」

『うむ。新生、つまり自己転生を繰り返す我ら特有の体質みたいなものだろう』

「そっか、体質か」

ラードーンの言い分は尤もだった。

同じように離昇を経験しているのにもかかわらず、俺は前世の自分とやらがみえずに、ラードーン達は見える。

昨日やった四人のうち、俺だけが出来なくて、ラードーンら三人は出来る。

そうなると、ドラゴンと人間の体質、っていわれた方が納得だ。

「なら考えてもしょうがないか」

ここから死霊魔法を編み出せないかと思ったが、どうやらそれは無理らしいので、執着せずに忘れることにした。

起きてから数時間たって、日が傾きはじめた午後。

ブルーノが神妙な顔をして訪ねてきた。

話があるって言われたから、二人っきりで応接間に入って、メイド長のレイナにだれも入れるなといっておいた。

そうしてソファーで向き合って座って、俺から切り出した。

「どうしたんだ兄さん、何かあったのか?」

「陛下に伝えるべきか迷ったのですが、お伝えして陛下ご自身に判断して頂いた方がいいと思いまして……」

「何かあったのか?」

同じ言葉を、さっきよりも慎重な口調で聞き返した。

ブルーノの雰囲気、そして言い回しに俺も少し眉をひそめた。

「大公家の内部からの情報でございます」

ブルーノはそういい、一枚の紙をさしだした。

折り目がついている、便箋に使われ文字がかかれている紙だ。

俺はそれを受け取って、目を通す。

そこにはシンプルに単語が一つだけかかれていた。

「ドラゴンスレイヤー……これは?」

「わかりません。大公のまわりでその言葉が出たということで、その第一報です」

「ドラゴンスレイヤー……」

「陛下と神竜は今は切っても切れない関係。その陛下とことを構えている大公のまわりからドラゴンスレイヤーという不穏当過ぎる言葉が出てきた。無関係だとは思えません」

「なるほど……」

確かにブルーノの言うとおりだと思った。

ドラゴンスレイヤー、詳細は分からないけど、ドラゴン対策の武器かなんかのように感じる。

と、なると。

「ラードーン、何かしらないか?」

『心あたりはない』

「まったくないのか?」

『うむ、せっかくだから前世にも聞いてみたが、やはりないといっているな』

「そうなんだ」

ラードーンは楽しげな様子でいったので、俺も釣られてちょっとクスッとなった。

せっかくだから、という言葉の中にラードーンのいたずら心が感じられたからだ。

彼女がそういうのならば、と、そこまで警戒する様なことじゃないだろうなと思った。

俺は改めてブルーノに向き直って、いった。

「ありがとう、兄さん。たぶん大丈夫だけど、念の為に警戒だけしてくれるかな」

「承知致しました」

ブルーノは頭を下げた。

表情はさっきとうってかわって、ホッとしたのが窺える。

俺とラードーンのやり取りを聞いて、ラードーンの言葉は聞こえないけど、俺の言葉だけでも雰囲気は感じられたみたいで、それで安堵したんだろう。

ブルーノはそのまま立ち上がって、もう一度頭を下げてから、辞して部屋から出て行った。

それとほぼ入れかわるような形で、ブルーノが出て行ったからと、今度はスカーレットが会いたがっているとレイナが言ってきた。

頷き、スカーレットを招き入れた。

さっきまでブルーノがすわっていた所にスカーレットを座らせて、同じように向き合った。

「ご報告致します、主様。パルタが死霊魔法を差し出すことに同意いたしました」

「本当か!」

ブルーノの時とは180度違った感情。

俺は興奮して、間にあるテーブルに手をついて身を乗り出した。

俺のそんな反応を見てか、スカーレットも嬉しそうにした。

「はい。パルタ本国からマーティンに急報があり、それで回答を得られました」

「そっか……でも、よく差し出す気になったね。スカーレットが上手くやってくれたのか?」

「私は最低限のことだけ、主様の偉業のたまものでございます」

「俺の?」

「はい。主様が神竜達の前世の召喚に成功し、七竜としたあの光景を使節団も目撃しておりました」

「ああ……」

そりゃみてるだろうな、と俺は頷く。

「慌てて本国に連絡を入れようとしたところ、最速で通達が出来る様に、人狼達に護衛・輸送などをお願いしました」

「そうなんだ! すごいなスカーレット」

相手の手紙を早く届けるために協力したってことだよな。

そんな発想、俺からは間違いなく出てこない。

それが出来るスカーレットはすごいと思った。

「恐縮です。それで返事もはやまり、形はこれから模索するけど、差し出すということは間違いなく受け入れたということです。主様は心待ちにしておられるはずですので、迎賓館からここへ直行致しました」

「ありがとうスカーレット! 本当に嬉しい!」

俺はスカーレットの手を取って、ぶんぶんと上下に振り回した。

新しい魔法、今までとはまったく違うタイプの魔法。

それがどんな魔法になるのか、期待感が一気に膨らんで、まるで子供の頃初めておもちゃを手に入れたとき位にワクワクしだした。

街の郊外、岩山のうえ。

そこにデュポーンがいた。

街に家を用意されているが、リアムと居る時以外は街にそれほどなじめていないデュポーンは、普段はこうして街の外で過ごしている。

この岩山がまさしく住み家といった感じだが、過日とは少し様子が違っていた。

デュポーンだけでなく、他に二人の美女がいた。

デュポーンの前世達である。

デュポーンは自分の前世達を呼び出して、向き合っていた。

「まさかこうして会うことが出来るなんて、今でも信じられないわ」

「理論上出来る事だから驚きには値しないけど、それでもすこしは驚いたな」

「もっと驚きなさいよ、そしてダーリンに感謝しなさい」

「本当にあの少年にご執心なのですね。仔を産むつもりなの?」

「もちろん!」

「新生して間もないのに伴侶をみつけられるとか、幸せ者だな当代の私よ」

「ふふん、羨ましいでしょ」

「少しだけな」

三人のデュポーンは隔意のない、明るい空気のなか雑談を楽しんでいた。

「ラードーンよりも一回多く死んだのは業腹ですけど、でも彼のおかげでこうしてラードーンより優位に立てるのですから、それは感謝しませんとね」

「少年には感謝するが、あれは許せないな」

「……あなたの死因になったあれのことですわね」

「そうだ、あれは許せない」

一人のデュポーンがいい、空気が重くなった。

いつもは陽気な当代のデュポーンも含めて、三人の表情から静かな怒りが漏れ出していた。

「ドラゴンスレイヤー……今度また出くわしたら」

岩山が……大地が震えるほどの殺気を、デュポーンは放っていた。