軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

207.オーダーメイド

宮殿の中、円卓の間。

スカーレットとメイド長のレイナの二人から、話があるって呼び出された。

部屋に入ると既に二人がいて、ドアの前に立って俺を出迎えてくれた。

「話って何?」

そう聞きながら、俺は自分の席に座った。

円卓の入り口から一番遠い席、一番の上座が俺の指定席で、そこに座った。

スカーレットとレイナは座らないから、頷いて座るように促した。

俺の「許可」が出てようやく座った二人。

そして、スカーレットから口を開く。

「主様にご相談したいことがございまして」

「相談?」

「はい、レイナからの提案です」

スカーレットはそう言い、視線をレイナに向けた。

俺もレイナを見ると、彼女は一度立って一礼してから、また座って話し出した。

「パルタ公国との交渉の件です」

「交渉って、死霊魔法のこと?」

「はい」

「なにかトラブったのか?」

「いえ、そういうわけではございませんが。このまま一方的に差し出せ、と上から突きつけるのは禍根を残すのではないか、と思いまして」

「どういうこと?」

俺は首をかしげて聞き返した。

「ここ最近、ご主人様のお兄様とやり取りを任せて頂くことが増えました」

「ああ」

俺は小さく頷いた。

エルフのレイナ。

ガイとクリスとならんで、三幹部の一人に数えられているが、二人に比べて直接的な戦闘力は控えめな反面、思慮が深く賢いため、いろんな頭脳労働を彼女にわりふっている。

人間の社会でいえば参謀的な感じだ。

そういうのを任せていると自然に、ブルーノとの取引も彼女に管理してもらうことが多い。

それでブルーノとの関わりが増えていた。

「それがどうかしたのか?」

「それ自体はまったく問題ございません。万事滞りなくすすめております」

「ふむ」

「私はそのやり取りで、人間から色々と話を聞きました。その中の一つに、ペットのしつけ方がございました」

「ペットのしつけ方」

「はい。ペットははっきりと上下関係をたたき込まなければならない、ですがしっかりとアメを、愛情も注がなければならない、とのことです」

「ふむ……」

なるほど、と小さく頷いた。

その話なら何となく分かる……けど。

「それがどうかしたのか?」

「今回の件ですが、ご主人様のご威光は充分届いたかと思います。ここで一方的に貢ぎ物を! とすれば禍根が残ることになる恐れがございます」

「そういうものなのか」

「はい、ですので、ここは恩をうって、お互い贈り物の交換という形をとるのがいいのではないかと思います」

「そうすれば窮鼠は猫をかみません――ということかと」

最後にスカーレットがまとめて締めくくって、説明が終わった。

話は大体分かった。

説明がわかりやすく、理由もやるべき事もはっきりしてる。

悪くはないんじゃないか、って思ったが、ことがことだから、念の為ラードーンに聞いてみることにした。

「ラードーンはどう思う?」

俺とラードーンの関係性を知っている二人は、ラードーンに確認する事を不思議にも不快にも思わず、平然としてこっちのやり取りの結果を待っていた。

そして、ラードーンは少し考えてから、答える。

『真の信頼性を築くのには不向きだろうが、死霊魔法を滞りなく手に入れるためなら最適と言えよう』

「そうなんだ」

『うむ、その場凌ぎにしかならずともそれなりの恩を売っておけば当面の成果が得られる』

「なるほど」

俺は頷き、得心した。

ラードーンの言うとおりだと思った。

それで方針が決まって、待っている二人に向き直って。

「じゃあその形で行こう」

「かしこまりました」

「でしたら、交換にあたって、こちらから出す物もきめませんと」

「魔晶石をある程度渡しても大丈夫でしょうか、ご主人様」

「ああ、大丈夫。年代物のワインや酒とかもいくつかつけようか。ダストボックス使えばすぐに作れる」

「大変よろしいかと」

「それで足りる?」

俺が聞くと、スカーレットとレイナが視線を交換した。

お互いに「どうなの?」って言い合っている空耳が聞こえてきそうな、そんな視線の交換。

「どこまで恩を売るのかにもよりますが」

「もうひとつ何かあれば確実に交渉がしやすくなります」

「そっか。何かってどういうのがいいんだ?」

「希少性のある一点物、でしょうか」

「魔晶石は貴重ですが数はそれなりにございますので」

「ふむふむ」

希少性のある一点物か……。

そういうの難しいな。

この国、約束の地に出来た魔物の国に、一点物ってほとんどない。

大半が俺の魔法でなんとかしたり作ったりしたもので、俺の魔法は「再現性がある」のが特徴だ。

ファミリアで契約して、俺を慕う魔物達の生活をよくするためには、数を増やせる、作り直せる物でないといけないという思いがいつもうっすらとある。

貴重なもの、すごい物でも常に複数作れる。

例えばさっきスカーレットにいった年代物のワインなんかもそうだ。

アイテムボックスを参考に編み出したダストボックスという魔法、この魔法の中に物を入れると通常よりも遙かに早く時間がたって、結果的に物が腐ってしまう。

しかしちゃんと処理した酒なんかを入れると、今度は通常よりもはるかに早く「熟成」される。

100年物のワインも、一週間あれば造り出せるのだ。

そういう意味では、いろいろやってきたけど一点物は本当にない。

『考え方を変えればよい』

「どういうことだラードーン」

『お前はこれまでも色々と産み出してきた、魔法でな。今からもうひとつ産み出せ、といわれても問題なく出来るだろう』

「それはまあ出来るけど、だけどそれも――」

『今回のためだけに何かを産み出して、今後一切つかわなければよい』

「……むっ?」

『そうすれば実質一点物になるではないか』

「……おお」

俺はポンと手を叩いた。

まさにラードーンの言うとおりだ。

盲点というか、逆転の発想というか。

『できそうか?』

「やってみる」

『うむ、もうひとつアドバイスだ。渡す物は見た目だけ麗しい、実用性のない物のほうがよかろう』

「わかった」

俺は頷き、考える。

腕組みして、深い思考に耽る。

ラードーンからのアドバイスも有難かった。

なんでもいいぞ、っていわれるよりも、ある程度の縛りがある方がいい。

縛りというのは言い換えれば方向性でもあるわけだから。

大昔、ご飯は何がいい? っていう質問に「なんでもいいのが一番困る!」って怒られたことを思い出しつつ、考えた。

まわりから音が消えるほど、思考に集中した。

どれくらいたったか、頭の中で形がまとまっていく。

顔を上げると、スカーレットもレイナも沈黙したまま俺を見つめていた。

俺を待っていた。

「もうちょっと待っててくれ。ラードーン、試しにちょっと力を貸してもらえるか?」

『よかろう、どうすればいい?』

「姿を現わしてくれ。あと前世のラードーンにも力を借りたい。そっちの方がわかりやすい」

『うむ』

ラードーンが頷いた直後、体が光って、二人が現われた。

一人は見慣れた幼げな老女の姿、今のラードーンだ。

もう一人はラードーンがそのまま成長したような、大人の美女だ。

二人が登場したことで、スカーレットははっきりと動揺した。

そんな彼女に「大丈夫だ」と目線をおくりなだめた。

「ありがとう」

「かまわん、わしさえもあごで使おうとするその根性きにいった」

「とりあえず……【アブソリュート・マジック・シールド】――47連!」

俺は魔法を唱えた。目の前の何もない空間に魔法障壁を作った。

イメージは何もない一点に魔法障壁を重ねるかんじ。

「ふう……」

「それをどうするのだ?」

「ここにラードーンの魔力をぶつけてほしい。マジックミサイルのような純粋な魔力弾を」

「うむ」

今のラードーンが頷き、手をかざした。

この程度のことなら竜の姿に戻るまでもないことだろう、彼女は人間の姿のままそうした。

そして魔法を放つ。

俺が重ねた魔法障壁に向かって魔力弾を放つ。

障壁に魔力弾があたり、一面ずつ剥がれていくのを感じる。

俺が「47連」と唱えたのを聞いて、ラードーンも「そこそこの威力を多重に」ってしてくれてるようだ。

「――っ、47!」

障壁がほとんど剥がれる所で、追加で更に障壁を足す。

絶対防御のシールドをこれで100回近く。

さすがに結構魔力を持って行かれた。

やがて、全部の障壁が弾けたあと、そこに水色のような玉状のものが残った。

「これは?」

「魔晶石――ブラッドソウルの時もあったけど、高濃度な魔力は終わった後に物質としてのこる」

「うむ」

「で、このまえラードーン達七人が集まったときに思った事だけど、七人は魔力の性質が微妙に違う。もっといえばこの――」

俺は玉を指して、続ける。

「――残滓も色が違う。ラードーン、えっと前世のラードーン。これに同じことをしてくれるかな」

「よかろう」

「――47連!」

俺はさっきと同じように、魔法障壁をはった。

前世のラードーンはそこに同じように魔力弾をぶつけた。

障壁が剥がれる、途中でもう一回47連を追加する。

しゃがんだ後一気に立ち上がった時と同じくらいの立ちくらみがした。

そして、また全部の障壁が剥がれる。

そうして出来た玉は、紫がかった色になった。

俺はその玉をとって、わった。

すると中は綺麗な断層になっていた。

「これを七人にやってもらえば、唯一無二の鉱石になるはずだ」

「「おおっ!」」

実物をみて、感動するレイナとスカーレット。

そして、感心するラードーン。

「ほう、あの一瞬みただけでわしらの力の波長の違いを感じ取ったか」

「そういう男なのだ」

前世のラードーンが感心し、今のラードーンはちょっと誇らしげにいったのだった。