作品タイトル不明
987話 最後の対話
「あなたと……話がしたい」
ラインハルトと戦う覚悟と決意はした。
ただ、対話も捨てていない。
できることならば話で決着を。
そう願う。
「……」
これは完全に予想外だったらしく、ラインハルトは目を丸くして驚いていた。
ややあって、小さく笑う。
「はは……なにを言い出すかと思えば。今更、話すようなことがあるとでも? 俺が考えを変えるとでも?」
「可能性はあるんじゃないか?」
「そのようなことは……」
「ない、って断言できるほど、あなたは万能じゃないだろう?」
「……」
「俺がこんなことを言い出すなんて、まったく予期していなかっただろ? なら、対話をして考えを改める可能性だってあるはずだ」
今度は、後ろからくすくすという笑い声が。
「ふふ。レインくん、それ、かなり強引な理屈だね」
「でも、僕は、そんなレインの考えを支持したいかな?」
「そうだな。現に、私を変えてみせた。魔王である私をこのようにしてしまうなど、誰も想像できなかったはずだからな」
「さすが、レインくんだね」
「それ、褒めているのか? けなしているのか……?」
微妙に判断が難しい。
反応に困る。
すると、ラインハルトはさらに楽しそうに笑う。
「本当に……面白いな、お前は。確かに、不可能を可能にしそうだ」
「やりたいことをしているだけなんだけど」
「そうして我を貫くことは難しい。それを達成できているということは、お前の強さを現しているのだろう」
自然と会話が成り立っていた。
俺の求めに応じてくれた、ということかな?
「……あなたは、もうなにも人間に期待していない」
「そうだ」
「ただ、世界に絶望したわけじゃない」
「そうだ」
「だから、人間だけを排除することで、世界を存続させようとしている」
「そうだ」
うん。
思っていた通りの答えだ。
まずは、ここの認識が正しいことを改めて確認しておきたかった。
もしもここの認識がズレていたら、なにを話しても無駄になってしまう。
「なにも期待しない……そんな風に考えてしまうのは仕方ないと思う。たぶん……俺も同じ立場だったら、そんな考えになっていたかもしれない」
「それを自覚しておきながら、俺を諭すつもりか?」
「もちろんだ」
迷いなく頷いた。
「その時は、また別の誰かが止めようとしてくれるはずだ」
「……」
「人間は……時に酷いことをするさ」
わがままで、自分勝手で、欲望に飲まれて……
どうしようもない人間はいる。
それも多数。
今までの旅を振り返ると、たくさんの悪人がいた。
「でも、それだけじゃない。良い人だって、たくさんいる」
「……」
「あなたは一部の人間を見て、人間は必要がないと判断している……」
「それは……」
「……というのは、あなた自身も承知しているんだろうな」
「……っ……」
ラインハルトの顔色が、若干、変わる。
「良い人間も悪い人間もいる。それを理解した上で、あなたは、人間を滅ぼそうとしている」
「……」
「全ての人間が悪というのなら、それを滅ぼすことは善だ。でも、そうでないのに滅ぼそうとすることは、悪となる。あなたは……あえて悪となる道を選んだ」
ラインハルトの心は推察するしかない。
間違えても気持ちがわかる、なんてことは言えない。
それでも。
彼は、一時の感情に流されて世界を滅ぼすようなことはしない。
慎重で……そして、賢い人だ。
悪い人間もいれば、良い人間もいる。
そのことを理解した上で、全てを滅ぼそうとする。
それが、この世界にとって『最善』と信じているから。
他に道はないと考えているから。
そんな答えを導き出した。
この答えに至るまで、何度も何度も悩んだだろう。
ずっとずっと考え続けてきただろう。
それは、もはや、魂に刻まれた覚悟と決意。
生半可なことで覆すことはできない。
説得も不可能だろう。
なら、なぜ俺は話をしているのか?
これは……ただの自己満足だ。
彼と戦う前に、ラインハルトという人を少しでも理解しておきたい。
知りたい。
だから、あえて誘いに乗るような会話の流れを形成した。
説得できるかもしれない、なんて言われたら、彼のことだ。
あえて話を聞いて、その上で自分が正しいという主張をして、こちらを論破して心を折るために動くだろう。
それもまた、戦術の一つなのだから。
「悪となる覚悟がある。なにをしても、自分が信じた道を進む。絶対に成し遂げたいことがある……そうだな?」
「ああ、その通りだ。それを確認したいだけなのか?」
「それもある。ただ……それ以外に、一つ、どうしても確認しておきたいことがあるんだ」
話をしたいというのは本音。
理解したいというのも本音。
そして、もう一つの本音と疑問がある。
「俺は、世界のことを考えられるほど器は大きくない。せいぜい、身の回りの人達だけだ。その点、あなたは違う。世界のことを考えて、例え悪になろうと信念を貫くために動いている……そこは尊敬する」
この気持ちを伝えておきたい。
そんな想いがあった。
ただ、ラインハルトを否定するのではなくて……
認めているところもあるのだと、そう知っておいてほしかった。
そして、疑問。
「ただ……」
少し迷い。
それから、疑問をぶつける。
「あなたは……自分の行いを大事な人に誇って話すことができるのか?」