作品タイトル不明
988話 想いと誇りと、その果てに……
「……」
ラインハルトは無言だ。
表情もまったく変えていない。
ただ……
わずかに。
ほんのわずかにだけど、感情の揺らぎのようなものを感じた。
「世界のために、あえて悪となる。その覚悟と信念は本当にすごいと思う。ただ……それを誇りとしているかどうか、それはまた別の話だ」
「……」
ラインハルトは沈黙を貫いている。
続きを、と促しているかのようだ。
だから俺は、遠慮なく話をする。
思っていることを、疑問をぶちまける。
「ここまできたら、もう、あなたに善悪を説いても仕方ない。そもそも、正しさなんて人の数ほどあるわけだから……話をしたいっていうのも、ただの確認というか、俺の気持ちを整理するためのようなものだ」
あのまま戦うこともできた。
ただ、小さなもやもやは残る。
だから、最後に話をしたいと思った。
「俺は……俺のしていることが正しいなんて思わない。大体、自分のわがままを貫いているだけだからな」
仲間のため、誰かのため。
そう考えるけれど、結局、それは自分のためだ。
傷つきたくない。
嫌な想いをしたくない。
だから、戦う。
己が願うものを掴むために突き進む。
なんて、わがままなのだろう。
ただ……
「俺は、俺の行いを恥じたことはない」
「……」
「例え時間が巻き戻ったとしても、俺は、同じことを繰り返すだろう。何度でも、何度でも」
イリスの時も。
アリオスと戦った時も。
エーデルワイスの時も……
全ての選択で悔いはない。
間違いがあると思われるかもしれないが、それは他人からの話。
俺自身は、自分の行動を恥じていない。
これが正しいと。
俺の中の『正義』であると、誇りを持つことができる。
大事な人に……例えば、父さんと母さんに、そう言うことができる。
「あなたは……どうだ?」
「……」
「大事な人に、己のやることに誇りを持っていると、自信を持って告げることができるのか?」
「それは……」
ずっと黙っていたラインハルトが初めて口を開いた。
それは……迷い。
ここに至るまで、彼は迷いなんて一度も見せたことがない。
欠片も表に出していない。
しかし、今は……
初めて迷いを表に出していた。
「これは、どちらが正しいとか、そういうことを確認したいわけじゃない。ただ……俺の疑問だ。あなたが、己の行いに誇りを持てているのかどうか」
「……そんなことを確認して、どうする? 意味がないだろう」
「ないな」
あっさりと認めた。
それが意外なのか、ラインハルトは眉をひそめる。
「これは、ただの疑問だ。スッキリしたいというか……こんな気持ちのまま戦いたくないから、問いかけた。それだけだ」
「……なんていうわがままなヤツだ」
「まあ、否定はしないさ」
そうだ、俺はわがままだ。
でも、それが俺の『らしさ』でもあると思う。
だから、今までも。
これからも。
そして今この時も、揺らいでいない。
やりたいことをやり。
それが、みんなのためになると信じている。
想うことを貫く。
それが俺の『誇り』だ。
「あなたは……どうなんだ? あなたの誇りを聞かせてくれないか?」
「俺は……」
言葉は……続かない。
さきほどよりも迷いが大きくなっていた。
感情を表に出したところはほとんど見たことがないけれど、今は、明らかに表に出ている。
それだけ彼の心を揺さぶることができた、ということか。
「……そうだな。答えを口にするのならば、俺は、お前のような誇りはないだろう。大事な人に胸を張ることはできないだろう」
「なら……」
「ただ、考えを変えるつもりはない」
そこは、迷いなく断言されてしまう。
「確かに、俺に誇りはないだろう。俺がやることを彼女が知れば悲しむだろう。それでも……俺は、やると『決めた』。その選択に後悔はない。お前が言うように、例え時間が巻き戻ったとしても、繰り返し同じ選択をするだろう」
「……そっか」
「なにもかも、全てを敵にしても、俺は、俺が望むことを成し遂げる……それが、俺の『らしさ』なのだろう」
「ああ……うん。そんな答えになるだろうとは思っていた」
「わざわざ、それだけを確認するために、この話を?」
「正解。これだけだけど……それでも、しておきたかったんだ」
ラインハルトという人を少しでも理解したいと思ったから。
「……やはり、本当にお前は変わっているな」
ラインハルトは苦笑した。
そのまま、小さく笑う。
「もしも、などと考えるようなことはしないのだが……」
「うん?」
「出会いが異なれば、あるいは、俺はお前に共感して、仲間になっていたのかもしれないな」
「……そんな素敵な可能性、ぜひ実現したいな」
「もう遅い」
ラインハルトの言葉から迷いが消えた。
そして彼は、腰に下げた短剣を二本、抜いて両手に構える。
「言葉は交わした。ならば、後は刃を交わすのみだ」
「ああ、その通りだな」
俺もまた、クサナギを構えた。
ラインハルトが言うように、後は、どちらが正しいか力で決めるのみ。
ここまできたら、それ以外の道はない。
「さあ……この星に生きる人間の未来を賭けた戦いを始めよう」