作品タイトル不明
958話 朝
夜が過ぎて。
空に光が伸びていき。
そして……朝が訪れた。
――――――――――
「諸君、聞いてほしい」
王都の外。
そこに、数え切れないほどの騎士と冒険者が集められた。
それだけではなくて、最強種達の姿もある。
それらを前に、アルガスが言葉をかける。
「今日、人間の命運を賭けた戦いが始まる。そのために、各地から騎士と冒険者に集まってもらった。それだけではなくて、数多の最強種に協力してもらい……そして、魔族にも力を貸してもらうことになった」
アルガスはそう言い、隣に並ぶエーデルワイスを見た。
彼女もまた、王。
故に、王としての言葉をかけるべく、アルガスの隣に並んでいるのだ。
それは、人間と魔族が対等な存在であると証明しているかのよう。
共に手を取り合う仲間であると示しているかのよう。
その光景に誰もが驚いて……
そして、胸を熱くして希望を抱いた。
「……儂は傲慢な人間だ。そして、大きな罪を抱えている。そんな人間に失望してもおかしくはないのだろう」
「ただ」と間を挟んで、言葉を続ける。
「それでも、こうして友を得ることができた。新しい道を歩むことができる。それは意味のないように見えるかもしれないが、しかし、意味はある。価値はある。確かに、あるのだ」
「「「……」」」
誰もが黙ってアルガスの言葉を聞いていた。
その言葉の一つ一つが心に染みる。
「儂は、いずれ罰を受けるだろう。この身で犯してきた過ちを、そして、先祖が犯してきた罪を背負う時が来る。その時は、潔く受け入れようと思う。だがしかし、子供には関係のないことだ」
「我ら人間の罪、それを、ここで終わらせようではないか。国のためでなくていい。そなた達の隣にいる、身近な親しい者のために。愛する者のために」
「これは、未来を賭けた戦いだ。それと同時に、人間の価値を見せるための戦いだ。我らが存在するべきと、伝えようではないか。声を大きくして、聞いてもらおうではないか」
「そして……未来を掴もう。自分のためではなくて、愛する者のために」
「「「おおおおおぉーーーーーっ!!!」」」
冒険者や騎士、最強種達の雄叫びが響いた。
その後、エーデルワイスが一歩、前に出る。
「ここにいる者は、すでに聞いているだろう。私は、魔王だ」
『魔王』の単語に、人々の間に緊張が走る。
ただ、それは予想していたとばかりに、エーデルワイスは怯むことなく戸惑うことなく、淡々と話を続ける。
「少し前まで敵対していたが、まあ、安心してほしい。今は、人間と事を構えるつもりはない。その先はわからないがな」
ニヤリ、と不敵に笑う。
魔王らしさを見せたことで、今度は人々の間に動揺が広がる。
「ただ」
笑みを消して。
まっすぐに前を見て。
エーデルワイスは、己の胸にある素直な気持ちを言葉にする。
「私は、敵である人間に色々なことを教えられた。戦うことが全てではない……と」
「一度、敵になった者は、そのままずっと敵であり続ける……などということを考えていたが、そうでもないということを教えられた。過去に刃を向けたとしても、やがて、手を取り合うことができるということを証明してくれた」
「正直なところ、人間のことはどうでもいい。滅びるのならば勝手に滅びればいいと、そう思っているのだが……」
「しかし、だ。どうでもいいはずの人間のことを、私は、なぜか気にかけてしまう。それはなぜか? いつか手を取り合えるかもしれないと、そう信じてしまったからだ」
「故に、私は……我ら魔族は、一緒に戦おう。将来の友のために」
「力を合わせようではないか。人間と魔族と……そして、世界の未来のために! そのために、今こそ立ち上がろうではないか。己の信じる道を切り開くために!」
「我が友となり、一緒に戦おうではないかっ!!!」
「「「おおおおおおおぉぉぉーーーーーっ!!!」」」
再び雄叫びが響いた。
さきほどよりも大きく、力強い。
これから戦場に向かう。
下手をしたら命を落としてしまうだろう。
しかし、悲壮な表情を浮かべている者は一人もいない。
皆が希望にあふれた表情を作り……
そして、未来を見据えていた。
――――――――――
「おつかれさま」
演説を終えて、戻ってきたエーデルワイスを迎えた。
「どうだ、私の演説は? 聞き惚れたか?」
「ああ。最高だったよ」
「……」
「どうしたんだ?」
「いや……素直に褒められるとは思っていなかったからな。これは……こそばゆいな」
エーデルワイスは、少し耳を赤くしていた。
魔王が照れている。
なかなか貴重な光景で、ちょっと微笑ましい。
「我が主よ」
「うん?」
「いよいよ戦いが始まる。そなたは、私が守る。故に、主は私を守れ」
「守り、守られ……か。そうだな、うん。そうしようか」
「ああ、期待しているぞ」
そう言って、エーデルワイスは小さく笑うのだった。