作品タイトル不明
957話 愛しい人に捧げる想い
夜は更けて、すでにオフィーリアもモナも眠りについた。
ただ、ラインハルトはまだ眠りについていない。
居住区の屋上に出て、一人、空を見上げる。
無数の星が輝いていた。
それは、夜空に散りばめられた宝石のよう……いや。
そんなものよりも綺麗に輝いていて、遥かに価値がある。
手が届くことはない。
でも、欲しいと手を伸ばしてしまう。
そんな魅力を持つ。
そして……
「キミは……今、そこにいるのか?」
天に輝く星は、人々の魂の輝きと言われている。
生を終えて、天で暮らす人が、自分のことを見つけやすいように、地上に向けて光を放つ。
そんな説を語る人もいた。
ラインハルトが思い描くのは、ゼロのことだ。
長い人生で、唯一、愛した女性。
人間ではなくて、最強種でもない。
神と呼ばれていた女性で……
でも、ラインハルトにとって、そんなことはどうでもいい。
種族なんて気にしていない。
ゼロが最愛の人ということに変わりない。
「キミのことだから、俺のやろうとしていることを知り、怒っているだろうな。それとも、悲しんでいるだろうか?」
ラインハルトは遠い記憶を思い返した。
ゼロと一緒に過ごした時間。
楽しくて、幸せで、なによりも満ち足りていた。
人間には理解できないような、途方もない力を持ち、生まれてきた彼女。
当たり前のように神と呼ばれる存在になった。
ただ、ラインハルトは知っている。
ゼロもまた、一人の女性なのだ。
可愛いものを好み。
美味しいものを食べて笑顔になり。
そして……人を好きになる。
「キミと過ごした時間は、なにものにも変えられない宝物だ。今も、俺の中に鮮明に残っている。全ての記憶が残っている」
何十年、何百年経とうと、その記憶が色褪せることはない。
ラインハルトの心の一番深いところにしまわれて。
ずっと、キラキラと輝いている。
「キミは優しい人だ。俺のやることを知れば、絶対に反対するだろう」
それでも。
ラインハルトの決意は変わらない。
例え、愛する人が生きていて、止めてきたとしても……止まることはない。
やると決めた。
それが最善の方法であり……
また、己と彼女の『生』を肯定する道だと信じている。
「彼女は、人間を愛していた。我が子のように……しかし、結果、彼女は死んだ」
だからこそ……
人間なんて、ゼロに愛される資格はない。
そのような価値があるなんて認めるわけにはいかない。
成長するということを知らず、今も尚、暴挙を繰り返している。
仲間同士で傷つけ合い、血を流している。
救われる価値なんてない。
「キミは人間を愛したかもしれないが、しかし、俺は、その価値がわからない」
ゼロの最後の願いは、残された子供達をお願い、というものだった。
動物や最強種、魔物だけではなくて……
もちろん、人間も含まれている。
ただ、ラインハルトが人間を認めることはない。
人間の傲慢と欲望がゼロを殺したのだ。
どうして、愛する者を奪った存在に価値があると思えるのだろうか?
「ゼロ……キミとの約束は守るつもりだ。俺は、この星で生きる命を……そして、この星を救う。しかし、そこに人間は必要ない。不要な存在なのだ、連中は」
弱くて、それ故に群れて。
苦しい、助けてと声を上げて。
しかし、それ以上のことは自分でなにもしようとせず、ただ、手を差し伸べられるのを待つだけ。
そのくせ、立場が変わると、平然と他人を踏み潰すことができる。
それが当たり前のように奪うことができる。
それが人間の全てでないことは、ラインハルトも理解していた。
中には正しい者もいる。
優しい心を持つ者がいる。
しかし、それは少数だ。
そして、そういう正しい者に限り、世界は厳しく優しくない。
過酷で辛い運命が待ち受けていて、いつしか潰されて消えてしまう。
悪人の人生に意味なんてあるだろうか?
ない。
善人の辛い人生に意味なんてあるだろうか?
ない。
「なればこそ、一度、全てを消す」
人間は業の深い存在だ。
魂に刻まれた罪が消えることはない。
故に、消去しなければならない。
その業が他の生き物に移る前に、他の生命を犯す前に。
「キミに託された世界……俺は、俺の方法で救う」