作品タイトル不明
954話 決戦前夜・その5
普段、我が家のリビングは、中央にみんなが座れる大きなテーブルが置かれている。
他、来客用のソファーテーブルセットや収納棚。
それらを全て端に移動させて、リビングを大きく空けて……
そこに布団を敷いて、みんなで寝ることになった。
「なんだか、ワクワクするのだ!」
「家にいるのに、旅行をしているみたいですね」
せっかくだから、みんなで一緒に寝たい。
誰かがそんなことを言い出して、それが実現することに。
イリスは、「レインさまのベッドで寝ればいいのでは?」、なんてことを口にしていたのだけど……
初期ならともかく、今、そんなことをやられたら、俺は埋もれてしまう。
なので、一番広いリビングで、みんな一緒に寝ることにしたのだ。
移動は、精霊族の里の門を使えば簡単なのと……
もしかしたら、家に帰ってくることができないかもしれない。
そういった理由から、わざわざ家に帰って……というわけだ。
「ワクワクする気持ちはわからなくないけど、夜ふかししたらいけないぞ?」
「大丈夫だよ。明日、別に早いってわけじゃないからねー」
「昼に王都行けばいいっすよね? 余裕、余裕!」
「明日、寝坊するライハが想像できた」
「リファと同じ! ぼくも!」
「ふふ。お寝坊さんは置いていきましょうか♪」
「ひどいっす!?」
期待通りのライハの反応に、みんなが笑う。
そこそこ遅い時間なのだけど……
眠気はまったくないみたいだ。
明日、いよいよ決戦ということで、気が高ぶっているということもあるだろう。
でも、それだけじゃなくて……
今こうして、みんなでおしゃべりを楽しむ。
なんてことのない、普通の時間を過ごす。
そんな優しい時間を、まったりと味わっているのだろう。
「コン!」
「クゥー」
「二人共……いい子に、していてね……?」
ニーナは、クウとコウを自分の布団に招いていた。
そうしていると、ニーナがニ匹のお母さんのようだ。
「ふむ。私はずっと一人で寝ていたが……こういう騒がしいのも悪くないな」
「しかし、このままだと、なかなか眠れそうにありませんね。主さま、いかがいたしましょう?」
「んー……前言撤回。ちょっとくらいの夜ふかしならいいんじゃないか?」
「なら、ウチのとっておきの怪談でもしよかー?」
「「やめて!?」」
ソラとルナがものすごい勢いで反対した。
まあ……以前、色々とあったからな。
「ならば、明日の作戦を振り返るか?」
「あんたねぇ……なんで、これから寝て休もうっていう時に、頭を疲れさせるようなことをしなくちゃならないのよ」
「ふむ? 私は、至極合理的な提案をしたつもりなのだが……」
「にゃー。エーデルワイスって、ちょっと堅いよね」
「堅いですね」
「堅いっす」
「む?」
意味がよくわかっていないらしい。
とはいえ、彼女は『王』だから、それも仕方ないのかもしれない。
真面目で、まっすぐで。
成すべきことを成すために前に突き進んでいく。
それは、これまでもこれからも変わらないだろう。
そんなエーデルワイスの姿勢は見習いたい。
「……ねえねえ、レイン」
ふと、カナデが俺を呼ぶ。
「うん?」
「……明日、どうなると思う?」
「「「……」」」
カナデの質問に、みんなの声が止まる。
きっと、それは誰もが考えていたこと。
でも、あえて口にしなかったこと。
明日から世界の命運を賭けた戦いが始まる。
相手は、初代勇者であるラインハルト
そして、複数の最強種。
彼らが拠点とするのは、未知であり、絶大な力を持つであろう要塞。
不安を覚えないはずがない。
正直、俺も不安だ。
でも、それをみんなに見せるわけには……
……いや。
それは違うか。
「正直、わからないよ」
「……そっか」
「もちろん、勝つつもりだ。でも、世の中、思い通りにいかないことだらけ。戦いともなると、もっと酷いことになる可能性は高い。俺も……不安に思っているよ」
正直に胸の内を打ち明けた。
今は、強がることではなくて。
正直な想いを共有して、『独り』にならないことだ。
大丈夫。
俺にはみんながいる。
「相手は強敵。とんでもない切り札を持っている。これで、勝てる、なんて簡単には言えないかな」
「そうだよね……」
「でもさ」
俺は、口元に笑みを浮かべた。
「それでも、なんとかなる、って思えるんだ」
「……レイン……」
「矛盾した発言だけどさ、でも、不思議と思えるんだ。それ以外の展開や結末は考えられないんだ」
「それは……なぜなのだ?」
「みんながいるから」
俺は一人じゃない。
かけがえのない仲間がいて……
そして、共に戦う盟友がいる。
「だから、なんとかなるよ。きっと」
「「「……」」」
沈黙。
ややあって、
「「「あははっ」」」
一斉に笑われてしまう。
「な、なんだよ……」
「ごめんね。でも、レインらしいなー、って」
「でも、ちょっとはマシになったんじゃない? 前は、一人で抱え込もうとしていたし」
「うむ。我らのことを信頼してくれている証なのだ」
「なんとかなる、というのもわかる気がします」
「一緒に、がんばる」
「そやな。そこが一番大事なところや」
「もちろん、相手も一人ではありませんが……」
「紡いだ絆はボク達の方が上」
「な、なら勝てると思います!」
「わふっ、ぼく、がんばる!」
「自分もやるっす!」
「微力ながら、主さまのために……」
「くくくっ……これが、我が主の力の源か。悪くないな」
みんなの心が一つになるのを感じた。
うん。
これでもう……
「みんな」
もう迷いはない。
「勝とう」
「「「おーーーっ!!!」」」