作品タイトル不明
945話 胎動
北大陸。
人の手が及ばない未踏破の地。
その北大陸の果て。
最北端は巨大な山脈が連なっていた。
まともに歩けるような道はない。
山頂は常に吹雪と嵐が吹き荒れており、まともに生活をすることはできない。
山は雲を突き抜けるほどに高く。
その全容は、今もまだ明かされていない。
『世界の壁』と呼ばれている大山脈だ。
……その大山脈に異変が起きた。
始めは動物も気づかないような小さな振動。
やがてそれは地震と呼ばれるほどの大きな振動に変わり、辺り一帯を激しく揺らしていく。
巨大な山に亀裂が入る。
亀裂はどんどん広がり、止まることはない。
底の見えない谷がいくつも作られていく。
剥がれ落ちた岩が雨のように降り注ぎ、そこに落ちていく。
その間も亀裂は大きく、深く、広範囲に伸びていく。
さらに振動が激しくなり……
天地がひっくり返るかのような衝撃が辺りを襲う。
そして……
ゴォッ! という轟音が響き渡ると同時に、山が砕けた。
破片が流星のごとく飛び散る。
大地に走る亀裂は、星の傷のようにどこまでも伸びていく。
砕けた山の中から古城が姿を見せた。
山が砕けるような衝撃に巻き込まれているはずなのに、崩壊していない。
それどころか傷一つ、ついていない。
古城はゆっくりと浮上する。
周囲に残っていた山脈と一緒に空を飛ぶ。
空を支配していく。
一定の高度に到達したところで、古城は上昇を止めた。
その威光を見せつけるかのように。
大地を見下ろすかのように。
空に留まり、空を支配する。
古城は……静かに空に佇んでいた。
対星核外殻決戦要塞……『ラストレムナント』。
ラインハルトが有する、最大にして最強の、絶対的な切り札だ。
――――――――――
「おー、壮観だねぇ」
古城の縁に立つモナは、眼下に広がる地上を見た。
古城がかなり高いところを飛んでいるため、細かいところは見えないものの……
代わりに、五つの大陸、全てが視界に収まっていた。
「ふっふっふ、世界は手に入れた!」
「バカなこと言っているんじゃないわよ」
「ぎゃー!?」
アリエイルに背中を蹴り飛ばされて、モナが落ちそうになる。
すんでのところでこらえて、盛大なダイブは回避できた。
「なにするんだよぉ!?」
モナは涙目で抗議する。
よほど怖かったらしい。
「バカがいたからバカにしただけよ」
「意味わかんないし!」
「それよりも、ラインハルトから伝言よ」
「それなら普通に言ってくれよぉ、蹴り飛ばさないでくれよぉ」
日頃の態度のせいなのか、なかなか酷い扱いだ。
とはいえ、モナのことだから嘘泣きという可能性が高い。
しくしくと泣いているが、この子は、涙の出し入れが自由自在なのだ。
そのことをよく知るアリエイルは、泣いている? だからどうした? という感じで、話を先に進める。
「『すぐではないだろうが、敵は来る。その時に備えて、各自、持ち場で待機』……だって」
「簡潔だねえ」
やはり嘘泣きだったらしい。
モナはぴたりと涙を止めて、そんな感想をこぼす。
「敵は……人間や最強種達かな? でも、大したことないんじゃない? ここには、ぼく達だけじゃなくて、色々と面白いおもちゃがあるし」
「油断禁物よ。場合によっては、魔王も攻め込んでくるんだから」
「うっ……それは、ちと厄介かも」
「かなり、よ」
先の戦いで、エーデルワイスの力は身を持って知った。
決して軽く見ることはできない。
「あとで会議をして……それから、各々持ち場に、っていう感じね」
「そっか」
モナは、もう一度、眼下の光景を見た。
空が広がる。
大地が広がる。
海が広がる。
「……この星と戦う時が来たんだね」