作品タイトル不明
943話 魔王を従える者
「私と契約したことで得たであろう、我が主の力についてだ」
無事、エーデルワイスと契約を交わすことができた。
それはつまり、新しい能力を得たということで……
新しく得た能力については、まだ、なにも試していない。
どんな力なのか不明だ。
ただ一つ、疑問がある。
『魔族』であるエーデルワイスを従えたことで、新しい力を得たのか?
それとも、『魔王』であるエーデルワイスを従えたことが基準となるのか?
前者ならば、他のみんなと同じような、驚きつつも便利な能力を得るのだろう。
ただ、後者だとしたら……
いったい、どんな能力を身につけるのか?
まったく想像もつかない。
「我が主は、私達、最強種などと契約することで、新しい能力を得るのだろう?」
「詳しいな」
「皆から聞いた。皆、私がなにも聞いていないのに、自慢そうに話してきたぞ」
「あー……」
その光景が容易に想像できた。
みんな、先輩風を吹かせたいんだろうなあ。
「それで、我が主の特殊性を知ったのだが……ここで一つ、疑問がある」
「疑問?」
「我が主も気づいているのだろう? 私個人と契約したことで力を得たのか。それとも、『魔王』と契約したことで力を得たのか?」
「それは……そうだな」
どちらの力を得ることになるのか?
あるいは、どちらの力も得ないのか?
すごく気になるところだ。
「おそらくは、二つだ」
「二つ?」
「エーデルワイスという私と、『魔王』……二つの能力を得ていると思う」
「そんなことになるのか……もしかして、エーデルワイスは能力について心当たりがあるとか?」
「いや、見当もつかぬ」
コケてしまいそうになる。
そこまで堂々と言わなくても。
「それについては、これから確かめようと思う。そのために、我が主に来てもらった」
「なるほど。ただ、酒を飲むだけじゃない、というわけか」
「それも目的の一つだ」
エーデルワイスは不敵に笑う。
ただ、その表情はすぐに真面目なものに……
いや。
とても厳しいものになる。
「私と契約したことで得た力については、どのようなものか見当はつかないが、まあ、おそらくは主のよき力となるだろう。魔族と契約をして得た力だ、くだらないものということはあるまい」
ライハと契約したことを思い返した。
彼女と契約したことで得た力は、雷系の魔法の習得。
魔族も最強種の一つ。
契約したのなら、大きな力を得ることができるだろう。
「ただ……『魔王』と契約したことで得た能力は、絶対に使うな」
非常に強い口調で言われてしまう。
「それは……どんな能力か確かめることも?」
「ダメだ。触れるだけではなくて、見ることも禁じる。知ろうとすることさえアウトだ」
「『魔王』だから……か?」
「我が主は理解が早くて助かる」
エーデルワイスが恐れていること。
それは……
俺が『魔王』の力に触れること、その影響を受けてしまうこと、なのだろう。
「『魔王』は、未だ私だ。契約のおかげでおとなしくなっているものの、私の中にあり、消えることはない。ここにある」
エーデルワイスは、そっと自分の胸元に手をやる。
「我が主は、私と契約をすることで、『魔王』にアクセスする権利を得たはずだ。そうすることで、契約で得た能力を行使できる……おそらくは、そういう仕組みになっているのだと思う」
「力が分離したわけじゃなくて?」
「『魔王』は、力というよりは概念だからな。力を分ける、という言葉は正確ではない。もう一人、力に触れることができるようになった、という方が正しい」
「なるほど」
「まあ……賢い主のことだ。私の言いたいことはわかるな?」
「……下手に『魔王』の能力に触れようとしたら、なにが起きるかわからない」
『魔王』というのは憎しみの概念であり、そして、計り知れない力を有している。
そんなものを利用することは可能か?
無理だ。
人間が制御できるものじゃない。
最強種だとしても無理だろう。
「『魔王』と契約したことで得た能力を使おうとしたら、なにが起きるか……最悪、俺が第二の魔王になることもある、ということか?」
「ああ」
「……まいったな」
さすがに、そこまでは考えていなかった。
「この話は誰にもするな」
「……みんなにも?」
「我が主が仲間のことを大事に思っていることは理解しているが……万が一にも、外に漏れてはいけない話だ。ある意味では、我が主が第二の『魔王』となったようなものだからな」
公になればどうなるか?
悪い想像しか浮かばない。
「仲間に隠し事をしたくないという気持ちは理解できるが……いくらか、迂闊な者がいるようでな」
「あー……」
誰のことを思い浮かべたのか、それは内緒だ。
「頼むから、私と同じ存在に堕ちてくれるなよ?」