軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

942話 月見酒

当初、予定していた時間が過ぎて……

精霊族の里に滞在する最後の夜がやってきた。

ソラやルナ達は、なんとなくではあるが、覚醒のコツを掴んだという。

まだ実際に覚醒に至っていないが、期待していてほしい、と笑顔で言われた。

カナデ達はげっそりして……

さっきの旅行が無駄になっちゃうくらい疲れたよ―、なんて言いつつも、どこかスッキリとした顔だ。

スズさん達につけてもらった稽古は無駄ではないのだろう。

そして俺は……

「どうぞ、我が主よ」

「ありがとう」

長の家の縁側。

夜空に輝く月を見つつ、エーデルワイスと酒を飲む。

「月が綺麗だな」

「ふむ? それは、私を口説いているのか?」

「え? ……あっ、いや!? そういうわけじゃないから!」

カグネの方に伝わる文学で、今の台詞は想いを伝えるのに使われているとか、そんな話を聞いたことがある。

「くくく。我が主は、実に初々しいな。食べてしまいたくなるぞ?」

「勘弁してくれ……」

からかわれていただけだと気づいて、ため息をこぼす。

こうして話してみると、エーデルワイスは、どこにでもいるような普通の女の子だ。

おしゃれに興味を持ち、美味しいものを食べて笑顔になって、友達と笑顔で話をする。

やや小悪魔的なところはあるが、そこは個々の性格の範囲だ。

「酒が美味いな」

「ああ、そうだな」

「月見酒というのも良い。この穏やかな時間に、ゆっくりと、いつまでも浸っていたいところだ」

「……そのための世界を、俺達が作り上げよう」

「ふむ」

エーデルワイスは酒を飲みつつ、じっとこちらを見た。

「やはりというか、我が主は変わっているな」

「なんのことだ?」

「そのような理想論を真面目に語る者、初めて見る」

「う……子供っぽい、っていうのか?」

「そうだ」

「むぐ」

容赦ないな。

「だが、私は嫌いではない」

もう一度、彼女は酒を喉に流し込んだ。

その感触を味わいつつ、夜空を見上げる。

「そなたの心は、この夜空のように広く、そして綺麗なのだろうな」

「……そんなことはないさ」

綺麗なんてことはない。

俺はただ、やりたいことをしているだけ。

満足したいから、というだけだ。

「素直にならないのだな」

「どうしてそうなる?」

「わがままでも自己満足でも、その結果、平和が作られるとしたら、それは良いことなのではないか?」

「それは……」

「そして、単純に平和を一番に考えることができる。それは、心が綺麗な証拠だ」

「そう……かな?」

「誇れ。私は、そなたが主であることを誇りに思う。それなのに、自分なんて大したことない、と言われたらつまらないではないか」

はっとなる。

確かに彼女の言う通りだ。

卑下ばかりしていたら、エーデルワイスの選択をバカにしたことになる。

「いきなりは難しいかもだけど……がんばるよ。この選択は間違っていなかった、って、ずっと思わせてみせる」

「うむ、頼んだぞ」

器を交わして酒を飲む。

さほど度数の強くない酒だけど、少し酔ってきたかもしれない。

ふわふわと心地良い気分になる。

全部、終わった後……

こうして、みんなで酒を飲みたいな。

カナデ達だけじゃなくて。

アクスやユウキ達がいて。

シフォンやサーリャ様達もいて。

それと……

ラインハルト達もいる。

みんなで楽しく、仲良く酒を飲みたい。

そんな時間を積み重ねていくことが、きっと、平和を作るコツなのだろう。

「……」

「……」

エーデルワイスと一緒に酒を飲む。

静かに。

優しい時間を過ごす。

ずっと、こんな時間が続けばいいのに……

――――――――――

「さて」

ややあって、エーデルワイスは酒を飲み、器をしまう。

酔いで頬が赤くなっているものの、泥酔というわけではなさそうだ。

足取りはしっかりとしていた。

「我が主よ、話しておかなければいけないことがある」

ここからは真面目な話なのだろう。

雰囲気が変わることを感じて、いくらか酔いが覚めた。

「私と契約したことで得たであろう、我が主の力についてだ」