作品タイトル不明
924話 祈りと希望・その5
前に出て。
ひたすらに前に出て、エーデルワイスと切り結ぶ。
彼女は魔力で作り上げた剣を手にして、クサナギの刃を受け止めていた。
その動きは水が流れるように自然なもので、ぎこちなさはまったくない。
魔力だけではなくて、剣の腕も一流だ。
魔族の頂点に立つ者。
魔王。
その名前にふさわしい実力の持ち主で、少しでも気を抜くと一気に飲み込まれてしまいそうだ。
ただ……
最初ほどの危機感はない。
圧倒されて、心が震えてしまうほどのプレッシャーは消えていた。
「くっ、私は……!!!」
今、エーデルワイスから感じるものは……迷い。
それと、不安。
初めて相対した時は、王の名にふさわしい存在感を示していた。
ただ、今はそれがない。
どことなく迷子になった子供のような、不安定さが見えている。
言葉を届けることができた?
それとも、彼女の中にある魂がなにかしらの作用を?
どちらでもいい。
エーデルワイスの考えを揺らがせることができたのなら、なんでもいい。
彼女の根本的な力の源は、積み重ねられてきた憎悪だ。
今まで、無念の中に散っていった魔族達の魂。
それを己のものとすることで莫大な力を得た。
ただ……
その想いに疑問を抱いたら?
進むべき道に迷いを覚えたら?
力の根源を疑うような真似だ。
そんなことになった場合、正しく力を扱うことができない。
今がチャンスだ。
「みんな!」
「いくよ!」
「戦いを終わらせる」
俺とシフォンとラインハルトの合図が重なる。
それに応えて、みんなの瞳にやる気がみなぎる。
ここで退くようなことはしない。
前へ、前へ、前へ。
たたみかけていく。
力と力が激突して。
魔法を撒き散らして。
能力を出し惜しみなく開放して。
まずは、俺達のことを認めてもらうために、ありったけの力をぶつけてやる。
みんなが前に出て、それぞれの能力をフル活用した攻撃を叩き込み。
それは牽制となり、エーデルワイスの動きを封じる。
彼女がいかに強力な力を持っていたとしても、これだけの火力で同時に攻撃をされれば、さすがに動きを止めざるをえない。
さらにシフォンとラインハルトが同時に攻撃を叩き込む。
エーデルワイスの防御を貫通することは敵わないけれど、しかし、決定的な隙を作り出すことに成功した。
「レインくん!」
「レインっ」
二人がこちらを見た。
その意図を即座に理解して、俺は前に出た。
クサナギを手に、全てのカートリッジを使い切る。
さらに自身の魔力も込めた。
「ありったけの一撃を……くれてやるっ!!!」
「ちっ」
エーデルワイスは防御に専念して、魔法による盾を生成した。
光の壁が俺と彼女の間に立つ。
今までのことを考えると、それを突破することは敵わない。
あるいは、ありったけの力を込めたクサナギならいけるかもしれないが……
ここで溜め込んだ力を使うわけにはいかない。
……なので、こうすることにした。
「こい!」
「なっ……!?」
こういう時のために……と、いうか。
この時のことだけを考えて、戦闘中、とある動物をテイムしておいた。
それは……コウモリだ。
こういう古城は、コウモリの絶好の住処となる。
現に天井を見ると、数えきれないほどのコウモリがぶらさがっていた。
俺の合図で一斉にコウモリが飛び立つ。
視界が瞬く間に黒で埋まり、さらに、羽音で聴覚も封じられてしまう。
「くっ……邪魔だ!」
エーデルワイスは、反射的に魔法でコウモリを振り払おうとして……
それよりも早く、俺は大きく迂回して、彼女の背後に回り込んでいた。
単純だけど、でも、これ以上ないほどの目眩ましだ。
「しまっ……」
「これで……どうだぁっ!!!?」
全てを賭けた一撃を叩き込む。