作品タイトル不明
914話 終わりを祈る者・その6
「ほう。人間にしては頭の回転が速いようだ」
俺の呟きを聞いて、エーデルワイスが少し感心したような声をこぼす。
「じゃあ……」
「正解だ。私の力は、以前よりも増している。単純計算で三倍くらいだな」
「なっ……」
「その前は、ニ倍だろうか? 新しい魔王が誕生して、目覚める度に、力が増しているのだ」
「どうして、そんなことが……」
「それだけの想いを継いでいるのだ、私は」
エーデルワイスは静かに言い、握りしめた自分の拳を見る。
そこに抱えているものを再確認するかのように。
「私の力の源は、無念に散っていった者達の憎悪と絶望だ。悲しみと涙だ。怒りと本能だ。それらを積み重ねていくことで、さらに大きな力を得る。そして今回、私は100年以上の間、眠りについていた。この意味がわかるな?」
通常は、数十年で魔王は覚醒して、その度に戦争が起きていた。
でも、今回は違う。
魔王は100年以上の眠りについていた。
「いい加減、決着をつけなければならぬ。故に、私は100年以上の眠りについて、今まで以上の力を得ることにした。覚悟しろ。お前達の前に立つ魔王は、お前達が知る魔王ではない……全てを超越した存在だ」
「ペラペラと……」
「喋ってばかりいたら……」
「隙だらけだよ!」
気合を入れ直したミツキが突撃して、タニアとカナデが続いた。
それだけじゃない。
リファ、サクラ、ライハ。
それとシフォンも後ろに続いて、時間差で攻撃をしかける。
先発は覚醒組。
後発は、そのフォローを目的とした攻撃を。
普通に考えて、文句のつけようのない完璧な連携なのだけど……
「ドラグーンハウリング」
エーデルワイスは、ソラとルナがよく使う魔法を唱えた。
竜の幻影を叩きつける、中級攻撃魔法。
ただ……
その数は異常で、数えきれない。
星の数ほどで、軽く百を超えているだろう。
先発組、後発組、共に吹き飛ばされてしまう。
かろうじて防御は間に合ったみたいだけど、攻撃が届くことはない。
「まだまだぁ!」
シフォンだけは耐えて、再び突撃。
それに合わせて、俺とラインハルトも前に出た。
「極・雷鳴剣!」
「イグニション!」
「起動、三式・ダークネスバイト」
それぞれ全力で攻撃を……
「ナイトメアボルト」
俺達よりも速く、エーデルワイスが黒の稲妻を撒き散らした。
視界が染まるほどに暴れ回る黒の稲妻。
さきほどと同じく、複数、同時に唱えているのだろう。
アリオスから得た力のはずなのに、完璧に……いや。
本人以上に使いこなしていて、その上、威力が遥かに上だ。
近づくことができない。
攻撃を中断。
慌てて後ろに退避した。
「ちっ……思っていた以上に厄介だな」
「あんたでも、予想外のことはあるんだな」
ラインハルトの苦々しい表情を見て、ちょっと意外に思う。
なんでもかんでも、涼しい顔をして当たり前のようにこなすことができると思っていた。
「俺は……あいつとは違う。なんでもできると思うな」
あいつというのは、たぶん……
「お前と組んだのは、魔王と対抗するためでもある」
「え?」
「眠りに就く時間が異様に長かったからな。こうなる展開は予想できていた」
「……だから、俺達と?」
「そういうことだ。利用したことを怒るか?」
「まさか。それを言うなら、俺も、ラインハルトを利用しているようなものだから……なにも気にしないよ」
「そうか」
彼の本音を聞くことができて、少し笑顔が生まれる。
笑顔は大事だ。
こういう時でも、心の余裕を失わないで済む。
「存外しぶといな」
エーデルワイスは感心したように言う。
「今の私は、歴代魔王の中でも特に秀でた力を持つ。最強の中の最強。それを自負するところではあるが……それでもまだ、貴様らは立つことができている。誇れ。お前達は強い」
俺達を褒める台詞。
それと同時に、まったく失われていない余裕。
不気味だ。
嵐の前の静けさというか……
これから、とんでもないことが起きるような気がした。
……そして、その予想が正しいことはすぐに証明される。
「故に、私は遊びを止めよう。お前達を侮ることを止めよう。強者と認めて、この私の全てを持ち、葬り去ることを約束しよう」
ゴゥッ! と、濃密で膨大な魔力が放出された。
「全力だ」