作品タイトル不明
904話 心を未来に向けて
「……」
俺の言葉を受けて、アルガスは迷うような沈黙を見せた。
伝えるべき想いは全て伝えた。
後は、アルガスの判断次第だ。
「しかし、儂は……」
「父さん」
アルガスが口を開きかけた時、隣に控えるユウキが先に言葉を紡ぐ。
「もうここまでにしよう」
「……ユウキ、お前は」
「レインの言う通りだ。和平なんて無理と決めつけて、なにも希望のない戦いなんて、僕はしたくない。それよりも、魔族と手を取り合う未来を想像して、希望にあふれた戦いをしたい」
「私も、お兄さまの意見に賛成です」
サーリャさまも続く。
「信じるということは聞こえのいい言葉で、理想論として捉えられるかもしれません。ですが、やはりとても大事なことだと思うのです。信じることを止めてしまった人間は、果たして人間でいられるでしょうか? 人間を構成する心の大事な要素で……だからこそ、信じなければいけないのです」
「……そうだな。弟と妹の言う通りですよ、父上」
さらに、ココロさまも続いた。
「戦争に打ち勝ったとしても、魔王を討伐したとしても、得られるものはなにもないでしょう。後世に託すことしかできず、怨恨の渦は残り、消えないまま……そんなものを選ぶよりは、私は、レインの信じる未来を信じたい」
「お前達……」
子供達の言葉を受けて、アルガスは目を閉じた。
ややあって吐息をこぼす。
「……どこかで悲劇の連鎖を断ち切らねばならない。それはわかっていた。わかっていたが、前に出る勇気を儂は持っていなかった。それは、こうするしかないと、過去のしがらみに囚われていたのかもしれない」
アルガスの視線がこちらを捉える。
その目は、迷いが晴れたように澄んでいた。
「こうすることが正しいと自らに言い聞かせて、責任は取ると逃げの選択を取り……そうだな、そうなのかもしれないな。信じることができなかったのだろう。孤独で……裸の王だ。儂は、なんて情けないのだろう」
「父さん、そんなことは……」
「よい、事実だ……だからこそ、これ以上、情けない姿を見せるわけにはいかない」
アルガスは……静かに頭を下げた。
「すまなかった、儂が間違っていたようだ」
「……あなたは……」
「今更ではあるが、お主に協力させてもらえないだろうか? 都合の良いことを言っている自覚はある。ただ、これ以上、間違えたくない。逃げたくないのだ。儂も……お主のように、前を向いて歩きたい。後世に誇れるように」
「……」
「そして、信じたい」
「……ええ」
俺は、アルガスに……いや。
王にそっと手を差し出した。
「儂を信じてくれるのか……?」
「あなたを信じられず、これから先、問題を解決することなんてできません。だから、信じます」
「……お主は……」
「一緒にがんばりましょう。俺は、あなたを信じて、そして、共に未来に向かって歩いていきたいと思います」
「……感謝する」
王は俺の手を取り、しっかりと握手を交わすのだった。
――――――――――
「……ふぅ」
物陰でこっそりと様子をうかがっていたシフォンは、無事、問題が解決したことに安堵の吐息をこぼした。
いざとなれば、シフォンは王を裏切り、レインの味方をするつもりだった。
しかし、それは最善手ではない。
勇者が裏切ったとなれば、騎士や冒険者の士気は一気に落ちるだろう。
まともに戦うことはできず、敗走を重ねるだけとなる。
レインが魔王の問題をうまく解決したとしても、人間は大きな被害が出てしまうだろう。
それは避けたい。
いざとなればシフォンも説得に加わるつもりでいたが……
「さすがレインくんだね。あの王さまの考えを変えちゃうなんて」
「……そんなレインが好き♪」
「うん、す……って、ショコラ!? なに変なモノローグをつけているの!?」
「でも、本心ですよねー?」
「ミルフィーユまで!?」
「ライバル多いから、なにもしないと出遅れる一方だぞ?」
「がんばらないといけませんねー」
「あ、あのね……! 私は、レインくんのことは、こう、なんていうか、恋愛感情っていうわけじゃなくて、あくまでも尊敬しているわけで……」
「認めたほうがいいぞ? 楽になるぞ?」
「自分の気持ちに素直にならないと、なにも前進しませんよー?」
「レインが、ああやって、前を向いて歩いていこうとしているのにな」
「シフォンはー、ずっと後ろを向いているんですねぇ」
「あーもうっ、いきなりなんなの!? もう! もう! 好きよ、好き! 私は、レインくんが好きよ!」
ショコラとミルフィーユがニヤリと笑う。
「ようやく認めたな」
「はい、聞けましたねー」
「うぅ……なんの拷問よ、これ」
「サービスだ」
「なんのサービスよ!?」
「素直になれるように」
「そして、後悔しないように、ですかねー」
「……ぁ……」
二人の想いに気がついて、シフォンは小さな声をこぼす。
「今すぐにどうこう、っていうのは難しいかもだけど……」
「これから先のことを考えるのも必要ですよー」
「私達は、『未来』のために戦うんだからな」
「なので、『未来』のことを考えることも、時に、必要としないと、ですねぇ」
「……もう」
シフォンは苦笑して、二人を抱きしめた。
不器用で。
わざとらしくて。
でも、とても素敵な友達。
「ありがとう……ショコラ、ミルフィーユ」
……と、まあ。
レインが王を説得する裏側でこんな話があったのだけど、彼はそれを知ることはない。