軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

903話 抗う心を

「それだけの覚悟を持っているのなら、どうして、もっと正しい方向に使うことができないんだよ!?」

「正しい方向に使っているだろう」

「いいや。こんなこと、正しいわけがないだろう!」

俺が魔王を使役する。

アルガス率いる軍が魔王を撃破する。

どちらが成功率が高いかといえば、後者なのだろう。

俺がやろうとしていることは前例がなくて、成功率なんて測れない。

夢を見るような話で、普通に考えてうまくいかないだろう。

だとしても。

「これから死のうとしている者に、人間の未来を託すことなんてできるものか!」

俺達は生きるために戦う。

理不尽と、過去の因縁と……そして、運命と戦う。

全ては生きるためだ。

でも、アルガスは違う。

今、この段階で死を受け入れている。

生きようとしているのではなくて、償うために戦う。

魔族に関する真実を知っているからの行動だろうが……

「死ぬことを考えている人間に、生きることを願う人々を救うことなんて、できるものか!」

「お主は……」

「俺は生きている。俺達は、今、生きているんだよ! それを忘れるな、自分から捨てるようなことを考えるな!」

アルガスの覚悟と決意は立派と言える。

そうそう実行できるものじゃない。

でも、とてもじゃないけれど尊敬できるものじゃない。

自分を救えない人に誰かを救えるなんて思えない。

「死んで責任から逃げようとしているようにしか見えないな」

「なら、どうしろと? 人間はどうしようもない罪を犯した。生き延びるために殺した。ならば、今度は人間が殺される番だろう。代表でもある儂が死ぬべきなのだ」

アルガスは、民に対する償いだけを考えているわけじゃない。

魔族に対しても、他の最強種に対しても償いをしようと考えているのだろう。

謝って済む問題じゃない。

それを理解しているからこそ、せめて、自分の命を差し出そうとしている。

って……

そう理解したら、さらに腹が立ってきた。

「だから……なんで死ぬ前提なんだ!? なんでわかり合うことを最初から放棄しているんだよ!? 剣を振りかざすことだけを考えて、手を取り合うことを考えなくて……やるべきことの順番が違うだろう! 悪いことをしたらごめんなさい、それから仲直りの握手だ。いきなり自刃するヤツがいてたまるか!」

「そのような単純な話ではない」

「あんたが複雑にしているんだよ!」

人間は罪を犯した。

とても大きな罪だ。

もう償うことはできない。

和解することはできない。

なら、さらに罪を背負ったとしても戦い、生き抜いていくしかない。

……なんて、なんでそんな極端な考えになる。

もう手を取り合うことができないと誰が決めた?

笑顔の未来がないと、どうして言い切れる?

「無駄なのだ。過去に、和平を考えた王はいた。一人ではなくて、何人も。しかし、その全てが失敗に終わった。人間が犯した罪はそれほど深く、重い。もう、うまくいくようなことは……」

「それこそ『逃げ』だろう。過去の失敗に怯えて、もう失敗したくないって諦めて、決めつけて……次が成功しないって、どうして断言できる? 何度も何度も……機会がある限り、何度でもチャレンジするべきじゃないのか?」

「それは理想論だ」

「夢を見てなにが悪い」

どうせ叶うわけがない……なんて、最初から諦めるより何倍もマシだ。

前を向いて、苦しいとしても歩いて。

もがいて、もがいて、もがいて……

理想を叶えるためにがんばる方が良い。

俺は、胸を張って生きたい。

悔いのないように生きたい。

そのために、やれることはやりたい。

逃げることなく向き合いたい。

「儂は夢を見ることなどできぬ。もう……無理なのだよ。それほどまでにこの手は汚れている。切り捨ててきたものを無駄にしないために、前に進むしかないのだ」

「明後日の方向に進んでいるようにしか見えない」

「ならば、どうする? 儂を倒してでも前に進むか? それだけの覚悟があるというのか?」

「そんな覚悟は必要ない」

極端な考えだ。

「あなたを倒してでも押し通る、なんてこと、考えていない。意味のないことだ」

「それは甘さだ」

「いいや、違うね」

「なにを……」

「俺は説得をしにきたんだ。戦いに来たわけじゃない。いい加減、そのことを理解してくれ」

一度、深呼吸をした。

ヒートアップする心を落ち着けて……

改めて、アルガスの目を見て話す。

「魔族と和解して、人間の未来を得る。あるいは、魔族を滅ぼして、人間の未来を得る。あんたはどちらを望む?」

「……その二択なら前者だ。しかし」

「そういう単純な問題じゃない、実現不可能だ……って言いたいんだろう? 夢を見るな、理想を語るだけではなにもできない、て」

「そうだ」

「できるさ」

「なぜ、そう言い切れる?」

「隣を見てくれ」

言われた通り、アルガスは隣を見た。

ユウキが、サーリャさまが、ココロさまがいる。

それだけではなくて、騎士がいて冒険者がいて……

平和を望むたくさんの人がいる。

「俺達は一人じゃない」

「……」

「みんなで手を取り合えばいい。一人で責任を取ろうとするんじゃなくて、最初から諦めるんじゃなくて……みんなでがんばればいいんだよ。それだけで、不可能を可能にできる。本当の意味で手を取り合うんだ。そうすれば、できないことなんてない」

「そのようなもの……やはり、理想論ではないか」

「本当に理想論だと思うか? みんなで力を合わせることに、なんの意味もないと思うか?」

「それは……」

意味がないとは言わせない。

力を合わせることで、より大きなことを成し遂げることができる。

これは人間だけじゃない。

最強種も、魔族も、動物も……みんな同じだ。

一人では生きられないから手を取り合い、助け合い……

大きな困難を乗り越えていく。

そうやって生きてきたんだ。

親が共同で子を育てるように。

群れが協力して敵を排除するように。

家族が一致団結して生き延びてきたように。

歴史がそれを証明している。

人間の歴史は歪んで、罪にまみれていたとしても……

それでも、手を取り合う時もあった。

信じ合い、他人に背中を預けて、一緒に笑っていた時も確かにあったんだ。

その力を……

「俺は信じたい」