作品タイトル不明
901話 時に大胆に
「……」
戦場を前に、シフォンは暗い顔をする。
これから戦いが……いや。
戦争が始まる。
人間の存亡を賭けた戦いだ。
シフォンは、勇者として命を落とす覚悟は持っていた。
しかし、友達と……好きな人と戦う覚悟なんてものはない。
「……ごめんね、レインくん」
約束を守ることができなかった。
何度も王に進言したものの聞き入れてもらえず……
結局、こうして魔族の部隊とぶつかることになってしまった。
合わせる顔がない。
情けなくて、悔しくて、涙が出そうになってしまうのだけど……
「って、ダメダメ! こんなところでくよくよしているヒマがあるなら、今からでも、私にできることを探さないと!」
気合を入れ直す。
決して諦めないということをレインに学んだ。
ならば、それを実践しなければ。
「シフォン、元気出せ」
「大丈夫だよ、ショコラ。落ち込んでばかりいられないからね」
「はいー、そうですねー。今、シフォンが言ったように、私達にできることを探しましょうー」
「……よし。もう一度、王のところへ行きましょう。話をして……ダメだとしても、サーリャさまとユウキさまにも話をして。もしかしたら、二人なら聞いてくれるかもしれない。その上で、さらに説得を重ねて……戦いは始まっちゃったけど、早期に止める可能性はまだあるわ。って……どうしたの、二人共?」
「「……」」
気がつけば、ショコラとミルフィーユが空を見上げていた。
犬が飛んでいる光景を見たかのように、ぽかーんとする。
シフォンは不思議に思いつつ、二人の視線を追いかけて……
「えっ」
絶句した。
ドラゴンが飛んでいた。
炎のような赤い鱗を持つ、レッドドラゴンだ。
ドラゴンは翼を羽ばたかせながら、空中で何度か旋回をする。
それから咆哮を響かせつつ、王がいる最奥の陣地に急降下していく。
「おい、やばいぞ」
「どうしてー、こんなところに竜族がー……?」
「そんなの、答えは一つに決まっているでしょう!」
シフォンは慌てて最奥の陣地に向かう。
「うわあああああっ、敵襲! 敵襲だぁあああああ!?」
「い、いや、待て! 相手は竜族だ、魔族ではないぞ!?」
「でも、いきなり……ひぃっ!?」
最奥の陣地は大混乱に陥っていた。
当たり前だ。
魔族との戦争は決意と覚悟をしたものの、竜族と戦う想定なんてしていない。
しかも、前触れのない、突然の空からの強襲。
動揺と混乱は大きく、騎士や冒険者達が右往左往していた。
そんな中、降り立ったドラゴンから人影が降りる。
……レイン達だった。
――――――――――
「うへぇ……ちょっと酔ってしまったのだ。タニア、吐いてもいいか?」
「いいわけないでしょ!」
「ソラもちょっと危険です……」
「あたしが元に戻るまで我慢して!?」
タニアに元の姿に戻ってもらい、その背中に乗って……
王がいる陣地に突撃してもらったのだけど、みんなはいつも通りだ。
逆に頼もしい。
タニアの背中から降りて……
それから、タニアが人間に変身する。
「な、何者だ……!?」
「魔族か? いや、しかし……」
「おい、待て。この人はもしかして……」
すぐに騎士と冒険者達に囲まれてしまう。
ただ、皆、困惑している様子で、すぐに攻撃に移らない。
俺の顔を知っている人もいるみたいで、なぜこんなことを? と戸惑っているのが見てわかる。
かなり強引な手段に出たものの、しかし、他に手はないと考えている。
真正面から王に面会を求めても追い返されるか、仮に希望が通ったとしても、顔を合わせるまでかなりの時間がかかるだろう。
待ってなんていられない。
この戦いを一刻も早く終わらせないといけない。
だから、こうして強引に突っ込むことにした。
「ソラ! ルナ!」
「「ホワイトミスト!!」」
二人が魔法を唱えると、濃い霧が周囲を包む。
自分の足元しか見えないような、強烈に濃い霧だ。
とはいえ、それは騎士や冒険者達だけ。
俺達は魔法の影響を受けることなく、ちゃんと視界を確保できていた。
「今のうちに行くぞ」
「邪魔されたらどうするんや!?」
「ここに来る途中、話した通り、強引に突破する!」
「ふふ、そういうのは得意ですわ♪」
「手加減はしてくれよ……?」
「わふっ、がんばる!」
こうして俺達は、人間の陣地の奥……王のところへ強引に向かうのだった。