作品タイトル不明
876話 次の一手
グルンヒルドは平和を望む魔族達の避難所になっていた。
ここにいれば争いを避けることができる。
魔王の影響を受けず、憎しみに囚われることはない。
そんな話を、ジルオールは以前から多くの魔族に伝えていたらしい。
魔王覚醒の影響に苦しみつつ、どうにかこうにか避難してくる魔族が増えていた。
ジルオールやカシオンは、彼らを受け入れて、保護を進めている。
予想以上の数みたいで、今は、それで手一杯。
なので、他の雑用は俺達が引き受けることにした。
「ふむ、これが結界か」
「とても興味深い構造ですね」
ソラとルナと一緒に、街の四方に建てられた塔を見る。
覚醒した魔王の影響を受けないで済むようにする結界。
これがないとアウトだ。
ジルオールによると、起動テストは何度かしているみたいだけど……
本格的な起動は今回が初めて。
なので、支障がないか見て回ることにしたのだ。
「大気中の魔力を吸収することで、動力を必要とせず、常に展開し続けられるみたいですね」
「それだけではないぞ。魔力を吸収して、魔力の空白地帯を作る。そうすることで魔力の渡りを鈍らせて、結界としての機能を強化する……ふむ。動力を賄うと同時に結界としての能力を強化する。実に優れた構造なのだ」
「精霊族の里の結界と、少し似ているところがありますね。いったい、誰が考えたのでしょう?」
「うーむ、興味は尽きないのだ」
「えっと……二人共?」
興味を持つことは仕方ないとして。
本格的な調査を始めないでほしい。
「はっ!? しまった、我としたことが」
「す、すみません。あまりにも珍しいから、つい」
「いいよ。そんなに気になるなら、今度、ゆっくり見せてもらおう」
「……今度……」
「そう、今度。全部解決した後に、な」
「うむ!」
次の塔へ。
ソラとルナにチェックしてもらうものの、特に問題はない。
「ところで、レイン」
チェックの途中、ソラがこちらを見る。
その表情は曇っていた。
「……これから、どうするんですか?」
「それは……」
「魔王が覚醒しました。今までの歴史を見ると、こうなると、もう戦争しかありません。他の道を進んだことは一度もありません」
「和平は……無理なのだ。停戦も、交渉すら難しいと思う。そんな状況で、どうすればいいのか……正直、我はお手上げなのだ」
「俺も、今はどうすればいいかわからないよ」
でも、諦めるつもりはない。
なにかしら方法を見つけてみせる。
世界を救いたいとか。
人間を助けたいとか。
そんな大きなことを考えているわけじゃなくて……
「……もう、あんな思いはたくさんだ」
炎に消えた故郷のことを思い返す。
戦争が始まれば、あれと同じことが繰り返される。
数えきれないほど、あちこちで起きてしまう。
だから、なんとしても止める。
「とはいえ、どうすればいいか……」
相手は憎しみという概念。
概念を倒すなんてことは不可能だ。
あのラインハルトでさえ諦めている。
「「……レイン……」」
って、しまった。
難しい顔をしていたら、二人を心配させてしまったみたいだ。
慌てて笑顔を作り、ソラとルナの頭を撫でる。
「大丈夫。今はいい方法が思い浮かばないけど、絶対になんとかしてみせるから」
「うむ、それでこそレインなのだ!」
「ソラは、レインを信じています。あ、でも、レインに任せきりにするつもりはありません。ソラも、色々と考えてみたいと思います」
「あと、なにか必要なことがあれば、なんでも言うのだ。我は、なんでも手伝うぞ」
「ありがとう、二人共」
うん、そうだ。
一人でがんばる必要はない。
俺には頼もしい仲間がいる。
それに、今はジルオールやカシオンという協力者もいる。
みんなで知恵を合わせて、力を束ねれば……きっと。
「いっそのこと、レインが魔王を使役してしまえばいいのだ! ふはははっ」
「こら、ルナ。真面目な話の途中にふざけないでください」
「……」
いつものルナの適当な発言に、不思議と落ち着くことができて……
いや、ちょっと待てよ?
「……それ、アリかもしれないな」