軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

875話 見たことのない人間

「……」

このような状況であっても、レイン達は笑顔を失わない。

それどころか、まだ諦めていない様子だ。

魔王が覚醒したというのに。

そう遠くない未来に、人間との全面戦争が勃発するというのに。

それでも、できることはあると、自分に言い聞かせている。

いや。

信じているのだ。

なんて強い心を持っているのだろう、とジルオールは驚いた。

「私は、もう、ほぼほぼ諦めていたというのに……」

正直なところ、ジルオールの心は折れていた。

魔王の覚醒。

それは、バッドエンドが確定したことに他ならない。

あらかじめ用意しておいた結界で暴走は防いだものの、それも時間稼ぎに過ぎない。

いずれ、魔王が放つ憎しみに飲まれ、破壊と混沌を撒き散らすだけの存在に成り下がっていただろう。

どう抗えというのか?

歴史上、ここから戦争を回避した事例はない。

普通に考えて、どうやっても詰みだ。

でも……

レインは諦めていない。

その仲間も諦めていない。

前を向いて、希望を掴むために笑顔を浮かべている。

「その力は、レインさん個人によるものなのか。それとも、人間の力なのか」

興味は尽きない。

そして、その好奇心が前を向いて、立ち上がる力になる。

「私も、そのような力があれば……」

ジルオールは、為すべくして為った四天王だ。

その力は生まれつき。

そして、親の身分も高い。

彼女が四天王に選ばれるのは、ある種、必然だった。

ただ、ジルオールが望んでいたとは限らない。

彼女が本当に望んでいるものは、なんてことのない、平穏な生活だ。

強い力を持ち。

身分の高い家に生まれ。

ジルオールは、何一つ不自由のない生活を送っていた。

食べるのに困ったことはない。

あふれるほどの衣服があった。

だからこそ、なにも持たない人のことが気になってしまう。

魔族だとしても、格差はある。

人間と同じように持たない者がいる。

虐げられている者がいる。

それが、なんの縁もない他人だったとしたら、ジルオールはさほど気にしなかっただろう。

ちょっと考えるものの、それだけ。

実際に行動に移そうとは考えない。

でも……

虐げられている者は、友達だった。

一番、仲が良くて。

なんでも話をすることができて。

困った時は助けてくれて、相談に乗ってくれる、親友だったのだ。

ずっと一緒にいられると思っていた。

ずっと笑っていられると思っていた。

ただ、それは夢に過ぎない。

現実の前には意味を持たない、ただの幻想。

友達は戦いに巻き込まれて……死んだ。

その戦いは、一部の過激な魔族が起こしたものだ。

人間を駆逐するために中央大陸に渡り、暴れ、そして討伐された。

友達は強制的に徴収された。

立場が低く、逆らうことができなかったのだ。

その事件はジルオールの心の在り方を根本的に変えることになる。

人間を憎いと言いながら、同じ魔族に対して虐げることをする。

それは、人間と変わらないのではないか?

そもそも、そんなことが許されていいものなのか?

戦うことだけではなくて、平穏を望んでもいいのではないか。

むしろ、それこそが本当にやるべきことではないか。

その日から、ジルオールは、四天王ではなくて穏健派として活動を始めることになった。

戦争ではなくて、平和のために。

復讐ではなくて、笑顔のために。

ずっと、ずっと、ずっと……

戦い続けてきた。

問いかけ続けてきた。

「ですが、私もまた、力を使っていたことに変わりはありませんね。目的のために手段を選ばない時もあった……ただ、他にやり方があったのかもしれません。力に頼るのではなくて、レインさん達のように、他者と信頼を得て、絆を結ぶことができれば、あるいはもっと別の……」

考えても仕方のないことだ。

それでも考えてしまう。

「……まずは、未来のことを考えましょう」