作品タイトル不明
871話 最後まで……
砦に残った魔族達は魔王の覚醒を本能で知り、その心を高揚させた。
自然と湧き上がる力。
体中に広がる憎しみ。
全ては魔王のために。
本当に仕える主のところに参じるため、砦を出る。
そして……リースとモニカだけが残された。
「モニカ、大丈夫ですか?」
「はい、なんとか……リースさまこそ」
「私も、なんとか無事です。あの機翔族を相手に、よく生き延びることができたと、自分で自分を褒めてあげたい気分ですね」
「それほどまでに手強い相手なのですか?」
「そうですね……その能力も厄介ですが、なによりも、彼女にはとっておきの切り札があるので。もしもそれを使用されたら、魔王様でさえ危うい」
「そのようなものが……?」
「まあ、アレを使用するということは絶対にないですよ。最強の切り札であると同時に、最凶ですからね」
「?」
モニカは小首を傾げた。
まあ、いい。
リースがそう言うのなら、魔王が倒されてしまうという心配はいらないだろう。
目的は達せられた。
あとは……
「……」
モニカは剣を取る。
それを向けるのは、自分自身だ。
すでに魔王は覚醒した。
しかし、糧となる魂が多いに越したことはない。
故に、モニカは自死して、自分の魂を捧げる。
少しでも策の成功率を上げるために。
魔王による世界崩壊を達成してもらうために。
人間が滅びるところを見ることができないのは、少し残念だ。
しかし、それよりも魔王の力が増す方を選ぶ。
今までしてきたことが無意味にならないことを選ぶ。
「モニカ……どうしても考えは変わりませんか?」
「はい」
リースの問いかけに、モニカは迷わない。
即答だ。
モニカは復讐のために生きてきた。
全てを復讐に捧げてきた。
だからこそ、最後まで復讐に殉じなければいけない。
意地のようなものだ。
ここで自分の命可愛さに逃げ出したら、それこそ嫌悪する人間と同じだ。
そんな道は辿らない。
最後まで己の意思を貫いてみせよう。
「……わかりました」
そんなモニカの意思を感じ取ったのだろう。
リースは、その覚悟を受け止めるように優しく微笑み、そっとモニカを抱きしめた。
「でも、一人にはしませんよ」
モニカの手に、そっと自分の手を添えた。
そうして、リースは一緒に剣を持つ。
「私も一緒です」
「リースさま……でも、それは」
「なにも言わないで」
強く、強く抱きしめる。
「私は魔族で、あなたは人間。ですが……モニカのことを本当の娘のように。いえ、本当の娘だと思っています」
「……」
「なら、一人でいかせるわけないでしょう? どこまでも一緒ですよ、モニカ」
「……リースさま……」
モニカもリースを抱き返した。
ぎゅっ、と。
甘えるように、思い切り抱きついた。
「私は、リースさまに出会うことができて幸せでした」
「ええ、私も幸せでしたよ。ありがとう……私の愛しい娘」
「こちらこそ、ありがとうございます……お母さん」
モニカとリースは剣を握る手に力を入れて……
静かに自分達の体を貫いた。