作品タイトル不明
870話 意味のないこと
「ふふっ……あははははっ!」
モニカの笑い声が響いた。
とても嬉しそうで。
とても楽しそうで。
心の底からの喜びに満ちていた。
「魔王様が復活された! これで、これで私の願いは、望みは叶います……!!!」
「モニカ、お前は……」
見誤っていた。
モニカの抱えている感情が、まさか、これほどまでだったなんて。
言葉通り……
目的のために手段をまったく選ばないなんて。
彼女に勝利したものの、その目的を止めることは叶わなかった。
結果的に負けだ。
執念を甘く見ていたかもしれない。
いや。
甘く見ていたというか、俺は、知らなかったんだろうな。
なにをしても復讐を成し遂げたい。
そこまで誰かを強く憎んだことはないから、だから、モニカの行動を予測できなかった。
その心を読み切ることができなかった。
「私の目的は達成されました……あとは、お好きにどうぞ。殺してもいいですし、辱めても構いませんよ?」
「……そんなことはしない」
今やるべきことは他にある。
「コハネ!」
「はい」
コハネもリースとの戦闘を止めていた。
「みんなに合図を。すぐにここから撤退して、外のカナデ達と合流する」
「かしこまりました」
ジルオールやカシオン。
穏健派の魔族達は無事だろうか?
こちらに主力が集中していたため、大きな被害は出ていないと思うが……
とはいえ、断じることはできない。
彼女達とも早いうちに合流して、今後のことを話し合いたい。
「……殺さないのですか?」
ぽつりと、モニカが問いかけてきた。
振り返り、その顔を見る。
モニカは……
「嬉しい……のか?」
笑っていた。
微笑んでいた。
聖女のように優しい顔をしていた。
心からの望みを果たすことができて、幸せに包まれているのだろう。
でも、その望みというのは復讐で、世界を巻き込むようなもので……
「ええ、もちろん」
「……そうか」
これ以上、彼女と話すことはない。
なにもない。
俺はモニカに背を向ける。
「殺さないのですか?」
もう一度、問いかけられた。
俺は振り返ることなく、静かに答える。
「殺さないよ」
「なぜ?」
「だって、これ以上は……なにもかも無意味じゃないか。意味もなく血を流すなんて、ばからしい。そうだ、ばからしいんだよ……誰かが傷ついたり泣くことなんて、本当に……」
「ふふ……やっぱり、レインさんはレインさんですね。あなたらしい答えです」
なにかが倒れる音。
たぶん、モニカだろう。
戦闘で受けたダメージは限界に達していて、気を失ったのだと思う。
「……どうして、こうなったんだろうな?」
一人の人間が世界を滅ぼすかもしれない。
その事実が、どうしようもなく悲しくて、寂しい。
「でも」
まだ終わったわけじゃない。
魔王が目覚めたとしても、世界が滅びると決まったわけじゃない。
できることはあるはずだ。
そう信じて、俺達は砦を後にした。