軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

872話 傍観者は動く

「やあやあ、ただいま」

西大陸。

元はリースが拠点としていた屋敷に、複数の人影があった。

その一つは、モナだ。

適当な笑みを浮かべ、疲れたー、と言わんばかりにソファーに座る。

対面に座るのはラインハルト。

テーブルの上に広げた地図を睨み、モナの方に視線を向けることはない。

「ちょ、無視はひどくない?」

「話ならちゃんと聞いている。なにが起きた?」

「本当かな……やれやれ、主はそっけなさが極まっているね」

「性格だ」

「ま、いいや。報告だけど、魔王が覚醒したよ」

「そうか」

常人なら失神してしまうような驚きの話なのに、ラインハルトは冷静だった。

明日の天気は雨、と聞いたような感じだ。

「驚かないね?」

「魔王の気配が一段と強くなったからな。覚醒したことは、簡単にわかる」

「ちぇ、つまらないなー」

「報告はそれだけか?」

「ううん、もう一つ」

モナはニヤリと笑い、言葉を続ける。

「魔王が覚醒したことに、人間も気がついたよ」

「……そうか」

ラインハルトは地図から視線を外して、窓の外……

その遥か先にあるであろう、王都の方を見る。

「これで戦争は確定したな」

人間と魔族の和平のため、レインが色々と動いていたことはラインハルトも知っていた。

目の前にいるモナが情報をくれた。

もしかしたら、という期待はあった。

ただ、レインは失敗したようだ。

和平を結ぶ前に、魔王が覚醒した。

そして、それを人間が知った。

ここまできたら、もう、どうにもならない。

再び戦争が起きる。

「あと……たぶんだけど、リースとモニカが死んだかな」

そう言うモナは、少し声のトーンが落ちていた。

彼女の主はラインハルトだ。

一時期、行動を共にしたとはいえ、そこが変わることはない。

ただ、友達のように思っていた、という言葉に嘘はない。

真実、リースとモニカに親しみを感じていた。

「……二人は?」

「自害して、自分達の魂も魔王に捧げたよ」

「そうか」

「まったく、不器用な生き方だよね。復讐するって決めて、そのために全部を捧げて、突き進んで……もっと楽しい生き方もあると思うのに」

そうであってほしい。

そうあってほしかった。

そんな願いが込められているような言葉だった。

「人間はそういうものだ」

「そうなの?」

「不器用だとしても、下手だとしても。やろうと決めたことは、突き進み。欲しいと思ったものは、貪欲なまでに欲して……不完全だな。なにもかもが」

「ラインハルトも?」

「俺はもう、人間を捨てているが……そうだな。否定はできないな」

「ふーん」

人間の枠を超えた力を手に入れて。

何百年を生きて。

そんなラインハルトでも、その心はまだ人間のようだった。

悩み、迷い。

そして……

「ただ、為すべきことは変わらない」

人間を滅ぼす。

復讐ではなくて。

未来のことを考えているのではなくて。

愛した人の想いを汚さないために、戦うと決めた。

「そういや、この後はどうするの? 特に聞いてないんだけど」

「仕込みをする必要はあるが……まだ、しばらくは静観だ」

「えー、つまんない」

「気持ちはわからないでもないが、無理はできない。魔王にとって、下手をしたら俺達も攻撃対象に含まれるかもしれない。そこは、実際に相対しないとわからないが、リスクが大きい以上、試すことはできないからな」

「ちょちょいと顔を見せるだけでもいいんじゃない?」

「そして、攻撃されたらどうする? 相手は魔王だ。単純な力勝負では、俺でも負けてしまう」

だからこそ……

レインがどう動くのか、ラインハルトは気になっていた。

彼は諦めないだろう。

最後の最後まで抗うだろう。

魔王を倒すのか。

あるいは、再び封印をするのか。

もしくは、第三の道を見つけるのか。

「……見せてもらおうか、お前の覚悟を」