作品タイトル不明
865話 譲れない想い・その7
「ぐっ……!」
痛みを我慢しつつ、強引に刃から体を逃した。
クサナギを振り、牽制。
さらなる追撃を防ぐ。
「いつの間に背後へ……?」
「ふふ。私は、ずっと後ろにいましたよ」
「でも、幻影は吹き飛ばして……いや、そういうことか」
モニカは、戦いは全て幻影に任せていた。
その間、本人は姿を消す魔導具などを使い、息を潜めて、タイミングを伺っていたのだろう。
そして、俺に隙が生まれた瞬間に……というわけだ。
「あの状態で、咄嗟に体を動かして致命傷を避けるとは、さすがですね」
「褒めてくれてありがとう」
「ただ、その傷では、もうまともに戦えないでしょう? どうですか。降参するというのなら、命までは取りませんよ。私は、あなたのことは嫌いではないので」
「さて、どうするかな」
「答えをはぐらかして、時間稼ぎですか? そうですね、レインさんは自然治癒能力を持っていますからね」
見抜かれていたか。
「不死鳥族と契約したことで得た能力……とんでもない能力ですが、しかし、限界はある。重傷が一瞬で完治することはありません。時間がかかる……ですよね?」
正解だ。
どこで調べたのか、こちらの手札は知られているようだ。
でも……
「時間稼ぎはモニカも同じだろう?」
「……」
「おそらく、幻影は無制限に作ることができる。しかし、一度に百を作り出すことはできない。限界はないけど、一体ずつが限界……あと、あらかじめ幻影を作りストックすることができる。それを一気に放出することで、複数を生み出しているように見せていた。そんなところか?」
「恐ろしいですね。私の能力を見せたばかりなのに、すぐに把握してしまうなんて」
「観察には自信があるんだ」
今は互いに時間を稼いでいる状態だ。
俺は傷を癒やして……
モニカは幻影のストックを増やしている。
どちらが先に行動するか?
できることなら先に動いて、利を得たい。
そのためにも警戒を続けて、相手の出方を伺い、最大限に注意する。
……と、モニカは考えているはず。
でも、俺は違う。
時間稼ぎをしているのは確かだけど、それは、傷を癒やすためじゃない。
あることを試していて、それが成功となるまでの時間を稼いでいるのだ。
ほどなくして、俺の中で、うまくいくという確信が生まれた。
成功だ。
なかなか難しく、トリッキーな能力だけど……うん。
これならモニカを出し抜くことができるはず。
「さて……時間稼ぎをしても意味ないから、そろそろ再開しようか」
「ええ」
互いに剣を構えた。
俺は傷が癒えて。
モニカは、ある程度の数の幻影をストックしたのだろう。
「……」
「……」
俺とモニカは鋭い視線を交わす。
それこそ、よくある表現だけど火花が散るかのようだ。
そんな中、俺はクサナギを持たない手をゆっくりと動かして……
パチンと指を鳴らす。
「ファイアーボール・マルチショット!」
先制。
複数の火球を生み出して、それをモニカに向けて放つ。
俺の行動は読んでいた、というかのように、モニカは薄く笑いつつ後ろにステップを踏んで火球を避けた。
そして、幻影を生み出そうとして……
「……え?」
モニカの間の抜けた声。
ややあって、信じられない、というような表情に変わる。
その隙を見逃すことなく、俺は一気に前に出た。
勢いそのままにモニカに体当たりをして、彼女を地面に押し倒す。
「くっ……!?」
「終わりだ」
モニカの眼前に刃を突きつけた。
彼女が抵抗するよりも先に、俺が刃を突き立てる方が早い。
「いったい、なにが……?」
「さて……な。焦っていたから、能力の発動に失敗したんじゃないか?」
「そんなこと、あるわけが……」
そう。
普通に考えて、そんなこと、あるわけがない。
そこらの人ならまだしも、モニカは鍛え抜かれた戦士だ。
土壇場で能力の発動に失敗するという、とんでもないミスを犯すはずがない。
しかし、モニカは能力の発動に失敗した。
なぜか?
実はこれ、俺の仕業だったりする。
正確に言うと、コハネと契約をした能力だ。
『能力発動阻害……ジャミング』。
この作戦を開始する前に、コハネから、そう教えてもらった。
一時的に、そして限定的にではあるものの、相手の能力の発動を阻止するという、わりと凶悪なものだ。
例えば、カナデに使用したら、身体能力が平凡に。
ソラに使用したら、魔法が使えなくなる。
ジャミングを使用するには条件がある。
相手の能力を正確に把握していること。
一定の距離を保っていること。
過去1時間以内に、直接的な接触があること。
この三つをクリアーしないといけない。
幸いというか、モニカと戦う中で、その条件を全てクリアーできた。
というか、クリアーするように少しずつ誘導していた。
コハネと契約したことで得た能力はとても強力だ。
絶対にこれが切り札になると思っていた。
だから、最初からジャミングを使用する前提で作戦を組み立てて、戦術を考えて、そちらに少しずつ誘導して……
そして、ここぞというタイミングで使用した、というわけだ。
計算通り、というと、ちょっと偉そうだけど……
うん。
全てうまくいってなによりだ。
「くっ……こ、このようなところで、私は……!!!」
剣を突きつけられている。
でも、それがどうした?
モニカはそんな様子で抗おうとするが、俺が押し倒しているので、抵抗は叶わない。
「……もう止めないか?」