作品タイトル不明
853話 陽動をがんばりましょう
ザッ、と足音がした。
砦の防備にあたる魔族達は身構えつつ、音がした茂みに鋭い声を飛ばす。
「何者だ!?」
「……にゃーん」
「なんだ、猫か」
「おい、待て。こんなところに猫がいるわけないだろう」
「ふっふっふ……バレたら仕方ないね! そう、私こそは……」
「最強種の中の最強、竜族のタニアよ!」
「名乗りを盗られた!?」
やたら堂々としてて、とても元気そうなタニアが出た。
ちょっとしょんぼりした様子のカナデも。
そんな二人に続いて、ソラとルナ。
ニーナと、その頭に乗った人形バージョンのティナ。
そして、最後にイリス。
計7人が姿を見せる。
隠れる必要なんてない。
むしろ、敵に見つけてもらう必要がある。
ここは敵地のど真ん中。
この場にいる者だけを倒せばいいわけじゃない。
次々と増援が現われるだろう。
しかし、それこそが陽動の役目。
「でも、陽動って、結局のところシンプルな策だよね」
「派手に暴れられるのは嬉しいけど、ちょっと捻りがほしいわね」
「あら、そのようなことはありませんわ。とても優れた策かと」
「そう……なの?」
「ここまで深くまで入り込んだ状態で、敵を放置することなどできませんわ。どうしても相手をしなければいけない」
「だからこそ、敵の数を割いて、減らすことができるっちゅーわけやな?」
「正解ですわ♪」
シンプルな策だ。
それ故に効果は大きい。
「どちらにしても、我らのやることは変わらないのだ」
「ええ、がんばりましょう」
「がん……ばる」
ニーナが小さな拳をぎゅっと握る。
それを合図にしたかのように、魔族達が一斉に動いた。
仲間かどうか、確かめることはしない。
この場に知らない者がいる。
それは即ち敵である。
「たぶん、神族だな。あいつは生け捕りにして、他は殺せ」
「「「はっ!」」」
指揮官らしき魔族が、そう指示を出して……
「ほー……ニーナに手を出そうとか、ええ度胸しとるなぁ? いてこましたるわ!!!」
ティナがこめかみの辺りをひくつかせて、魔力で作られたボールとバットを持つ。
カーン! とボールを打つと、空高く飛んでいく。
なにをしたい?
魔族達は一瞬、呆気にとられた。
その直後、空に飛んだボールが弾ける。
無数の光の粒に分かれ、それが雨のように降り注ぐ。
一撃のダメージは低いものの、しかし、光の粒は百以上あった。
針で全身を刺されているかのようで、たまらずに魔族達が悲鳴をあげる。
「まったなし。容赦なし。手加減なしの……」
「ドラグーンハウリングです!」
そこにルナとソラの追撃。
竜の幻影を伴う衝撃波が魔族を飲み込み、吹き飛ばした。
「もいっちょ!」
さらに、タニアがドラゴンブレスを叩き込んだ。
ゴガァッ! という爆音と、ビリビリと空気が震えた。
さらに数名、魔族が吹き飛んでいく。
「なっ……あ……」
指揮官が唖然とした。
こちらが先制を叩き込むはずだった。
それなのに、逆に先制を許してしまう。
というか、あのデタラメな力はなんだ?
見た感じ、最強種が勢揃い。
強いのは当たり前だけど、しかし、その強さが常識外だ。
こんなに強い最強種は見たことも聞いたこともない。
しかし、それは当たり前。
カナデ達にあまり自覚はないものの、彼女達は数々の修羅場を潜り抜けてきた。
そうして成長してきた。
故に、平常時のスズやミルア達に近い力を得ていた。
平常時と侮ることなかれ。
普段のスズやミルアは、そこにいるだけで他種族を圧倒する。
にこにこと笑いつつ、本気を出す同胞を一瞬で地に伏せさせることができる。
そんな母親達と同じ境地に達しているのだ。
今更、そこらの魔族では敵にならない。
それをちゃんと理解しているからこそ、レインもカナデ達を信じて、陽動という危険な役を任せることができたのだ。
「くっ……ふ、ふざけるな! どこのどいつか知らないが、俺達をあまり舐めてくれるなよ! 各員、一斉にたたみかけてやれ!」
「ぽい」
魔族達が同時に魔法を放つものの、それらはニーナが開いた亜空間に全て飲み込まれた。
それだけならまだいい。
別の場所に亜空間が開いて、そこから放った魔法が飛び出してきた。
自分の魔法で自分を撃つ。
訳のわからない事態に陥り、魔族達は混乱して、一気に統制が乱れる。
「そこで、私が活躍!」
「あら。わたくしも忘れないでほしいですわ」
カナデとイリスが突撃した。
二人は背中合わせに立ち回り、華麗なダンスを踊るようにしつつ、拳や蹴撃を繰り出していく。
面白いように魔族達が吹き飛んでいく。
まるで人形だ。
「な、なんてやつらだ……」
指揮官は顔を青くして……
しかし、すぐに動揺を治めてみせた。
砦の警備を任されている以上、無様な姿を見せるわけにはいかない。
自分の判断一つで状況が大きく変わってしまうのだ。
しっかりしなければ。
「全員、体勢を立て直せ! それと、援軍を呼べ。ありったけだ!」
「し、しかし、それでは砦内部が……」
「ここで連中を止めなければ意味がない! 早くしろ!」
「は、はい!」
魔族は援軍を呼び、さらに数を増やしていく。
個々の力が及ばないのなら、数で圧倒すればいい。
しかし、それはカナデ達が望むところ。
レイン達がうまくやれるように、思い切り暴れてみせようではないか。
「ふふーん。さあさあさあ、どこからでもかかってきにゃさい!」