作品タイトル不明
836話 母と娘の願い
「……失敗したみたいですね」
西大陸にある、とある屋敷。
その一室にリースとモニカの姿があった。
部下から報告を受け取り、静かにリースが言う。
テーブルを挟んで、対面のソファーに座るモニカは……しかし、落ち着いていた。
王都を壊滅させる。
そのために策を練り、準備を重ねてきた。
それが無駄と知るのだけど、取り乱すことはない。
「モニカは落ち着いていますね」
「そう、ですね……はい。自分でも意外ですが、それほど驚いていません。落胆もしていませんね」
「この結果を予想していた、と?」
「ある意味では」
モニカは苦笑しつつ、頷いた。
反乱を起こすように貴族を扇動した。
必要なことだと諭して、魔族を援軍に加えた。
そして、アリオスを動かした。
それだけのことをしても王都を崩すことはできない。
無傷ではないが、致命傷には遠い。
いずれ再興を果たすだろう。
「やっぱり、鍵はレインさんみたいですね」
「あの男ですか……忌々しい。私達の邪魔をするなんて」
「そういう人ですので、彼は」
多少、言葉を交わした程度の仲ではあるものの、モニカはレインの人柄を理解していた。
お人好し、の一言に尽きる。
困っている人がいれば手を差し伸べて。
その結果、自分が傷ついたとしても気にしない。
「……あの時、レインさんのような方がいれば、私もあるいは」
モニカは、ふと過去のことを考えて……
しかし、それは意味のないこととすぐに思考を打ち消す。
「もちろん、このまま黙っているつもりはありません」
長い時間、仕込んできた策は失敗した。
いくらかの魔族。
それと、アリオスとソウルイーターを失った。
でも、代わりに手に入れたものがある。
「アリオスさまの魂があれば、魔王様を目覚めさせることが可能かもしれません」
モニカの手の平の上で光が輝いている。
それは、契約によって得たアリオスの魂を封じた宝石だ。
勇者の血を引く者の魂。
それは極上の贄で、魔王の覚醒を大きく前倒しすることができるだろう。
「リースさま、魔王さまのご様子は?」
「今も変わらず、眠り続けているわ。ただ……ハッキリと断言することはできないのだけど、目覚めの時は近いと思う」
魔王の復活と目覚めは周期がある。
その周期を考えると、そろそろ目覚めを果たす時なのだ。
「モニカの言う通り、アリオスさんの魂があれば魔王さまの目覚めを促すことができるかもしれない。ただ……」
「ただ?」
「ここに来て穏健派が勢いをつけてきているわ」
リースは舌打ちした。
「四天王のうち三人が倒れ、最後の一人はジルオール。穏健派が力をつけてきていますね」
「もしかして、人間と和平を……?」
「そのようなことはないと思いますが……いえ。こちらも断言できませんね。もしかしたら、それもありえるわ」
「……っ……」
モニカは強く奥歯を噛んだ。
そんなことは許せない。
絶対に認められない。
平和などを与えてなるものか。
争いの中に沈み、死ぬまで……死後も争い続けて、平穏なんて忘れさせてやる。
そんな決意をする。
あるいは、それは執念と呼ぶべきか。
「大丈夫よ、モニカ」
リースは優しい顔でモニカの頬を撫でる。
「穏健派の思うようになんかさせないわ。そして、人間も平穏を与えるつもりはない。あなたが望むように、破滅を与えてあげる」
「……リースさま……」
「娘の願いは母の願い。なればこそ、私は破滅の使者となりましょう」
「ありがとうございます」
モニカは微笑み、リースの手を取る。
そして、愛しそうに嬉しそうに自分から頬を擦りつけた。