作品タイトル不明
835話 最後の旅へ
あれから3日が経った。
3日間、旅の準備をして……
情報収集をして……
計画を練り……
できる限りの備えをした。
万全かどうか、それはわからないけど、やれることはやった。
後は本番を迎えるだけだ。
そして……
ノキアさんの準備が整う。
「おー」
裏庭に集合して、リファが驚きの声をあげた。
他のみんなも似たような声を出して、似たような顔をしている。
それもそのはず。
いつの間にか、裏庭に巨大な魔法陣が設置されていた。
二十メートルくらいはあるだろうか?
複雑な紋様が描かれていて、淡い光を放っている。
それと、四方に三十センチくらいの宝石が浮いていた。
ふわふわと漂い、綺麗に輝いている。
たぶん、魔力を増幅させているのだろう。
「こちらの魔法陣で私の力を増幅させて、みなさんを一気に西大陸まで転移させることができますよ」
「すごいですね……」
「いつの間にこんなものを作ったのかしら?」
「わたし、手伝った……よ? えへん」
「ニーナは偉いなー、よーしよしよしよし」
「ニーナさんは犬猫ではないのですから、そのような褒め方はいかがなものと思いますわ」
本人が嬉しそうにしているから問題ないだろう。
たぶん。
「よし。みんな、準備はいいか?」
食料や水は、ニーナの亜空間に保存してもらっている。
ただ、万が一はぐれた時に備えて、それぞれ、一日は問題なく過ごせる量を携帯してもらっていた。
それに、俺とイリスは召喚が使えるため、物資や武器を向こうで呼び出すことができる。
あとは心の準備だ。
「にゃん、いつでも!」
「あたしも大丈夫よ」
「みんなのためにがんばりましょう」
「やってやるのだ!」
「がん、ばる」
「うちの力、見せたるでー!」
「ふふ。人間はどうでもいいですが、レインさまのためにがんばりますわ」
「わ、わらひなんかでよければ、どこまでも……!」
「やる! おー!」
「おー! っす!」
「微力ではございますが、がんばらせていただきます」
うん。
みんな、心の準備もバッチリみたいだ。
魔法陣の中心に移動する。
「では、これより転移を行います。少し不思議な感覚に包まれると思いますが、問題ないので、リラックスしてください」
ノキアさんはパンと両手を合わせた。
とんでもない量の魔力が迸り、ピリピリと空気が震える。
「レインさん」
「はい?」
「どうか、あなたはあなたらしくあってくださいね」
それはどういう意味なのだろう?
問い返すよりも先に魔法が発動して……
――――――――――
「ふぅ」
魔法陣から立ち上がる光が消えた。
レイン達の姿はない。
遥か遠く……西大陸に飛んだ。
成功だ。
確かな手応えを感じた。
「うまくいってほしいですが……」
しかし、ノキアの表情は暗い。
魔族と和平を結ぶ。
それがどれだけ難しいことか理解しているからこそ、明るい未来を思い描くことも難しくなってしまう。
それでも、レインならば……と思うからこそ、娘も一緒に送り出した。
「ただ、私の行動は矛盾していますね」
最悪を想定して、他の最強種などを連れてアルと共同で作る、ある種、別世界への避難を考えている。
そこならば、よほどのことがない限り平穏に過ごすことができるだろう。
「レインさんが失敗する前提で動いている……保険をかけると言えば聞こえはいいですが、信じていないのと同じですね、これは」
ノキアは苦笑いをした。
「それでも……私は、私のやるべきことをやらなければ」
娘を守る。
同胞を守る。
それが、亡き夫と交わした約束だ。
そう。
ノキアは全ての記憶を思い出していた。
夫は……すでに亡くなっていた。
ノキアの前で死んでいた。
その事実があまりにも辛すぎて、苦しくて……自分で自分の記憶に蓋をしてしまった。
でも、どこまでもまっすぐなレインと、一生懸命にがんばる娘を見て、このままではいけないと思った。
だから記憶の蓋を外して、全てと向き合うことにした。
「どうか、あなたも見守っていてください……」