作品タイトル不明
824話 機翔族
機翔族。
それが、十番目の……最後の最強種の名前。
ようやく見つけることができた。
こうして話をすることができた。
いや、まて。
落ち着け。
妙な興奮をして敵認識されたらたまらない。
深呼吸をして心を鎮める。
「俺は、レイン・シュラウド。人間だ」
「なるほど。レインさまですね? あ、名前で呼んでもよろしいでしょうか?」
「ああ、好きにしてくれ」
「ありがとうございます」
コハネがにっこりと笑う。
俺を名前で呼ぶことができて、本当に嬉しいみたいだ。
なんで?
ただ、名前で呼ぶだけなのに……
勘違いかもしれないけど、妙に好感度が高い気がした。
初めて会うはずなのに親しみを持ってくれているみたいだ。
「えっと……」
なにから話せばいいのだろう?
どんな話をすればいいのだろう?
結界があると聞いていたから、もっと困難な道のりになると思っていた。
でも、なぜかあっさりと抜けてしまい、わりと簡単にたどり着くことができて……
拍子抜けしたせいで、うまく考えがまとまらない。
「レインさまは、どちらからやってきたのですか?」
「俺は……うん。普段は中央大陸のホライズンっていう街を拠点にしているんだ。ただ、少し前までは王都に滞在してて……その他にも色々な場所を行ったり来たりしているから、どこから、って限定することは難しいかも」
「お忙しい方なのですね」
「落ち着きがないだけかもな」
「ふふ、それはそれで、充実しているようで素敵かと」
そんな雑談から始まる。
気をつかってくれているのか、コハネが主導で話を進めていた。
彼女はとても気さくな性格をしていて。
それでいて、優しくて落ち着いていて。
こうして話をしていると、とても安らいだ気持ちになる。
不思議な人だ。
全てと関わりを絶ち、結界さえも展開して、北大陸の果てにいると聞いていたから、もっと気難しい性格を想像していたのだけど……
そんなことはない。
「あのさ」
どうしても我慢できなくなり、尋ねる。
「どうして、そんなに楽しそうにしているんだ?」
「そう見えますでしょうか?」
「ああ。なんか、こう……自惚れかもしれないんだけど、俺のことを待っていたみたいな、そんな感じがするんだ」
だから、こうして楽しそうに話をすることができる。
「はい、そうですね。私は、心のどこかでこの時を待ちわびていたのかもしれません」
「それは、どういう……?」
「ちなみに、レインさまはお一人でこちらへ?」
「いや、仲間と一緒だよ。といっても、仲間は結界を越えることができなくて、俺一人になったけど」
「そうですか。それは失礼しました。ただ、安心してください。あの結界は、とある条件を満たさない者を弾くだけで、危害を加えることは絶対にありませんので」
「とある条件?」
「レインさまは、その条件を満たしているのですよ」
そう言われるものの、まったく心当たりがない。
結界を通るための工夫なんてなにもしていないし、細工もしていない。
コハネに危害を加えるかどうか、自動で判定されている?
でも、それならみんなも通れるはずだ。
「猫霊族、竜族、精霊族、神族、天族、鬼族、呀狼族、不死鳥族、魔族……私を除く九つの最強種と心を通わせていること。それが、結界を通り抜ける条件です」
「そんな条件が……」
俺の場合、わかりやすくみんなと『契約』をしている。
『契約』は相手が心を許してくれなければ成立しない。
それがわかりやすく作用しているのだろう。
一方、みんなは仲良しだけど……
『契約』のようなわかりやすい形を示していない。
だから結界に弾かれてしまったのだろう。
「いつか、私の全てを託せる方がやってくるのを期待していました。そして今、レインさまがやってきました。それは、とても嬉しいことです」
「託せる、っていうのは……?」
「私の持つ記憶を伝えることです」
コハネの記憶。
それは……
「昔話をしましょう」
コハネはどこか遠い目をして語る。
それは遥か昔から続く物語。
因縁と因果と。
愛と憎しみと。
複雑にいくつもの感情が絡み合う、とても長い物語。
そして、全てを解き明かす物語。
「聞いていただけますか?」