作品タイトル不明
823話 最後の最強種
最初の結界を乗り越えた。
特に抵抗を覚えることなく、普通に前に進むことができる。
「問題はここからだ」
ほどなくして霧が湧いてきた。
視界が奪われるほどではないけど、下手をしたら道に迷ってしまう。
コンパスを取り出して、しっかりと方角を確認しつつ、まっすぐ前に進む。
迷ったとしても、きちんと方角を確認しておけば戻ることはできる。
前へ。
前へ。
前へ。
この先に答えがあると信じて、とにかく足を動かしていく。
そして……
「……あ……」
ほどなくして霧が晴れた。
その先に広がる光景に、俺は思わず息を飲む。
見通しのいい平原にたくさんの花が咲いていた。
小さな桜色の花弁をつけていて、風に揺られ泳いでいる。
合間に清流が流れていた。
底が見えるほどに透き通っていて、とても綺麗だ。
小魚が楽しそうに泳いでいる。
奥に大小様々な木が並んでいる。
こちらも桜色の花をつけていた。
風が吹くと花弁が散り、周囲をひらひらと飛ぶ。
「すごい……」
なんて幻想的な光景なのだろう。
ぽんと、理想郷という言葉が思い浮かぶ。
「そんなすごい場所だよな、これ……」
きちんと道が整備されていたので、それに沿って歩く。
その先にあるのは小さな家だ。
木を使った、ちょっとお洒落なログハウス。
手前に花壇があって、こちらも綺麗な花が咲いていた。
そして……
「ふんふーん♪」
少女が花壇に水をあげていた。
歳は俺と同じくらいだろうか?
ただ、見た目通りの年齢ではないような、妙な貫禄を感じた。
周囲にある花と同じように、桜色の髪をしていた。
肩から少し先まで伸びていて、まっすぐ、ストレートに伸ばしていた。
耳の上の辺りに、花をモチーフにした髪飾りをつけている。
肌は陶器のように白い。
ただ、不健康とか病的とか、そういう風に感じることはない。
芸術品のような完成度を感じられる。
「あら?」
少女がこちらに気がついた。
「……」
「……」
目が合う。
沈黙。
そして……
「ひゃっ」
少女が少し大きな声を出して、軽く仰け反る。
って……あれ?
今、気づいたけど、少女の左右に妙な物が浮いていた。
拳大ほどの綺麗な球体。
青と赤。
少女の動きに付随しているみたいだけど、いったい、どういう仕組みなんだ……?
「えっと……驚かせてすみません。俺は……」
「いえ、大丈夫です。このようなところに人間がいらっしゃるのは本当に久しぶりなので、少し驚いてしまいまいた。申しわけありません」
「いや、君が謝ることじゃ……」
「そう言っていただけると幸いです。優しいお方なのですね」
なんだろう?
この子、すごく落ち着いているな。
見知らぬ人がやってきたら、普通はもっと警戒すると思うんだけど。
「立ち話もなんですから、私の家にどうぞ」
「えっと……いいんですか?」
「はい、かまいませんよ。ここにいらっしゃるということは、あなたは邪な人間ではありませんから」
「それは、どういう……?」
「結界が展開されていたと思いますが……あちらは、特定の条件を満たした方でないと絶対に通ることはできない仕様になっております。その条件は複数あり、敵意や悪意を持たない者、という条件も指定されております」
「なるほど」
しかし疑問は残る。
敵意や悪意に反応するというのなら、カナデ達が通れなかったのはなぜだろう?
彼女達にそんなものがあるわけない。
他の条件が引っかかり……
そして、なぜか俺だけが通ることができた、ということか?
「どうぞ」
「お邪魔します」
家はシンプルな内装になっていた。
広くもなく狭くもなく。
家具はほどほどに。
どこにでもあるような家だ。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
熱いお茶を飲むと、少しだけ落ち着いた。
「えっと……」
「そういえば」
少女は思い出したかのように言う。
「私に対して丁寧語は不要でございますよ。どうぞ気さくに接していただければ」
「いや、でも……」
「どうぞお願いいたします。あ、私は癖のようなものなのでお気になさらず」
「わかりました。じゃなくて、わかったよ」
「はい、ありがとうございます。本当に久しぶりに人間の方とお話するので、少し楽しみです」
「はぁ……」
「さて」
少女もお茶を飲み、柔らかく笑う。
「お話をする前に、自己紹介をさせてください。私の名前は、コハネ。機翔族と呼ばれている最強種でございます」