軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

815話 四人の夜

「はぁあああ……ったく、酷い目に遭ったぜ」

「それは私の台詞よ」

「悪いな、セル。愛する男に襲われて、そんなに落ち込んでいたなんて」

「……」

「いてぇ!?」

セルが無言でアクスを殴りつけた。

パーではなくてグーで。

「わっ、わっ!? だ、大丈夫……?」

「気にしないでください、勇者様。このバカは殴られることが大好きなので」

「えぇ……」

真に受けたシフォンが引いていた。

「まあまあ、今はアクスの失敗については気にしないで……とにかく、飲もうか」

「そうね」

「じゃあ、かんぱーいっ!」

「「「乾杯!」」」

俺、シフォン、アクス、セルの四人で酒場に来ていた。

事件の後始末が終わり……

新しい旅の準備も終えた。

明日からまた、それぞれ違う道を歩いて行く。

みんな、がんばろう。

そしてまた笑顔で再会しよう。

そんな願いを込めて、この四人で飲むことになったのだ。

「ぷはーっ! 一仕事終えた後の酒はうまいな!」

「アクスはなにもしてないけどね」

「うぐっ」

「ま、まあまあ……アクスさんも、やりたくてああなったわけじゃないし」

「魔族がいるとか、普通は考えられないからなあ……」

「そ、そうだ! あれは仕方ないことなんだ!」

「仕方ない、っていうのは認めてあげてもいいけど……なら、次はどうするか? 同じ過ちを繰り返さないために、どんな対策をするべきか? そういうことを考えるべきじゃない? 考えたかしら?」

「……ゴメンナサイ……」

圧倒的な正論にアクスはなにも言い返せなかった。

ごめん。

俺達も、それは擁護できない。

「まあ……魔族が関わっていながら、こうして無事に依頼を終えることができたのはなによりね」

「うん、そうだね。盗賊団も壊滅させて、人質も助けることができて、最善の結果を掴むことができたんじゃないかな?」

「だな。反省は必要だけど、今はうまくいったことを祝おう」

酒を飲む。

酒が喉を流れていき、ふわふわとなるような心地いい感覚。

久しぶりに酒を飲むけど、友達が一緒だと美味しいな。

「それにしても……」

「どうしたの、アクスさん? 私の顔になにかついている?」

「いや……新しい勇者の話は聞いていたんだけど、こんなに綺麗な人だったなんて」

「え? やだ、もう。お世辞を言ってもなにも出ないよ?」

「いやいや、マジで。本心だぜ。俺、こういうことで嘘はつけないからな」

「あはは、照れちゃうなー」

アクスはセル一筋だから、本気で口説いているつもりはないはず。

ただ、女性に対してアプローチをかけることは、それはそれで礼儀だと勘違いしている節があるから、こんなことを言っているのだろう。

ちらりとセルを見る。

「あら。これ、果汁の風味がして美味しいわね」

アクスのことはまったく気にしていない。

あわよくば、セルが嫉妬することも計算していたのだろうけど……

哀れ、アクス。

「勇者様は恋人とかいるのか?」

「えぇ、そんなものいないよ」

「そうなのか? もったいないな」

「……気になっている人はいるけどね」

シフォンは頬を染めて、ちらりとこちらを見た……ような気がした。

気のせい……だよな?

いや、でも……うーん?

酔っているせいで、ちょっと判断しづらい。

「ふう……なんか、ついつい飲んじゃうな」

初めてのメンバーで飲む酒だから、ついついペースが上がってしまう。

それだけ楽しい、っていうことなんだろう。

みんなで飲む酒も楽しいんだけど……

あっちはもう宴会っていう感じだからな。

たまには、こうやって談笑しつつ、のんびりと飲むのも悪くない。

シフォンとセルが同じ女性同士で話をして、盛り上がり。

アクスが間に入ろうとして、セルに冷たくされて。

落ち込むアクスを俺が慰めて、シフォンもそれに加わり……

そんな感じで楽しい時間が続いていた。

「はふー……ちょっと飲み過ぎちゃったかも」

シフォンの顔は火照り、ちょっと視線がふらふらしていた。

アクスは泥酔して、落ちる直前。

セルも珍しく飲みすぎたみたいで、やや手元が怪しい。

「この辺りにしようか」

「そうね」

「俺はまだまだいけるぜー……」

「ふふ、また今度にしよう?」

シフォンは小さく笑い、そのまま言葉を続ける。

「また、このメンバーで飲みたいな。ううん。今度は、みんなも一緒に……いっそのことお店を貸し切って、楽しくわいわいと飲みたいな」

「いいわね」

「うっし。じゃあ、約束すっか」

「そうだな。また、みんなで飲む……約束だ」

俺達は笑みを交わして、それぞれ小指を絡ませた。

カグネに伝わるおまじないで、『指切り』というものらしい。

「またいつか、みんなで楽しく飲もうね!」

……これから先、さらに大きな問題が待ち受けているだろう。

もしかしたら、誰かが欠けてしまうという最悪の事態になるかもしれない。

でも。

そんなことにならないように、この約束を果たすために。

精一杯がんばっていこうと、そう思った。