作品タイトル不明
808話 密かにアプローチを
「ふむ」
城の客間で、ココロさまから預かった第二王女の書物を読み解いていた。
ユナさまは色々な研究を独自に進めていたらしく、書物の量がすごい。
個人で小さな図書館に匹敵するほどの量を書き残していた。
その中に十番目の最強種の情報があった。
北大陸の果てにいると言われているものの、確認した者はいない。
どのような姿をしているか不明。
人間との関わりを断っているため、精霊族のように悪感情を持たれているかもしれない。
ただ、十番目の最強種が人間と敵対したという話も聞いたことがないため、敵対しているかと問われると、また不明という答えになる。
「やっぱり、得られる情報は少ないか」
ため息を一つ。
まあ、場所が判明しただけでもよしとするか。
「とはいえ、もうちょっと絞りたいところだけど……うん?」
「じー」
ふと、扉が少し開いていることに気がついた。
そこから、そっとこちらを覗く瞳。
「ニーナ? それに、ティナも」
ニーナとティナだった。
ティナは人形バージョンで、ニーナの頭の上に乗っている。
「レイン、忙しい?」
「いや、大丈夫。どうかした?」
「お散歩、しよ?」
――――――――――
「えへへ」
ぽかぽかと温かい日差しが心地良いらしく、ニーナは嬉しそうだ。
三つの尻尾がぴょこぴょこと揺れている。
そんなニーナの希望で、俺は彼女を肩車していた。
「視点、高い」
「気持ちいいか?」
「うん」
さらに尻尾が揺れる。
楽しそうでなによりだ。
「なあなあ、レインの旦那」
ティナが、ふわふわと顔の横の辺りを飛ぶ。
羽が生えていたら妖精に見えて……いや、メイド服の妖精なんていないか。
「ニーナと一緒におると、楽しいと思わへん?」
「ん? それは、もちろん」
「そっかそっか。じゃあ、これからも一緒にいたいん?」
「そうだな、ずっと一緒にいたいとは思うけど……とはいえ、それも難しいのかな」
いつかニーナも大人になって、そして恋をする。
恋愛をして、やがてノキアさんのような母親に……
いかん。
その時を想像したら、なんかもやもやしてきた。
いつの間にか父親気分になっていたみたいだ。
「わたし、レインとずっと一緒」
上からちょっと不満そうな声が降ってきた。
今の話、聞こえていたらしい。
「俺もそうしたいと思うよ。でも、ニーナもいつか大人になるから……」
「ううん。レインと一緒、ずっとずっと一緒」
ぎゅっとしがみつかれてしまう。
「ちょ、前が見えないから」
「うー」
拗ねている?
それとも、寂しく思っている?
いや、どちらも違うような気がした。
なんていうか、これは……
「……ニーナは、子供扱いされていることに怒っているんやで」
そっと、ティナが耳打ちする。
子供扱いと言われても、それはいつもしているような……?
今更、どうして拗ねてしまうのだろう。
これが反抗期?
って、待てよ?
この状態、どこかで覚えがあるような……
「あっ」
最近のカナデやタニア達と同じだ。
俺のことを好きと言ってくれる彼女達は、時に、こんな感じで拗ねていて……
「って、ちょっとまて」
そうなると、ニーナが俺のことを……?
「えっと……ニーナ、落ち着いて。少なくとも、俺から離れるつもりはないから」
「一緒に、いて……くれる?」
「もちろん」
「やった。ずっと一緒♪」
途端に機嫌がよくなる。
尻尾がさきほどよりも勢いよく振られる。
この反応は……間違いない、よな?
「……レインの旦那も気づいたん?」
「……ティナは知っていたのか?」
「……まーなー。ただ、ニーナはよくわかってない様子や。まだ恋がわからんのやな」
「……俺、どうしたらいいと思う?」
「……簡単や。一緒にいるだけでええの」
話を先に進めるとしても、それはニーナが自分の気持ちをハッキリと自覚して、そして理解してから。
そうなるまでは温かく見守ってほしい。
ティナはそんなお願いをしてきた。
「どう、したの?」
「……いや、なんでもないよ」
思わぬところで思わぬ秘密を知ってしまうのだけど……
でも、俺がやるべきことは変わらない。
ニーナと……彼女達と一緒にいる。
それだけだ。
「とはいえ、この秘密は大変だ……」
しばらくの間、ちょっとだけニーナと接するのにぎこちなくなってしまうのだった。