作品タイトル不明
809話 旅立ちに備えて
王都の東に森がある。
ホライズンの『迷いの森』ほどではないものの、それなりに深い森だ。
そこを根城にする盗賊団がいるらしい。
近くの街道を通る商人や旅人を襲う。
あるいは、夜、闇に紛れて王都の商店などに盗みに入る。
放置しておくことはできない。
しかし、先の事件で騎士団も冒険者もてんてこまいだ。
復旧作業に追われて、圧倒的に人手が足りていない。
そこで、少数精鋭で盗賊団を討伐することにした。
それに選ばれたメンバーは……
「盗賊か……まったく、この大変な時期にめんどくさいことをしてくれるぜ」
「ぼやかないの。これも、立派な冒険者の仕事よ」
「ごめんね、手伝ってもらって」
「私は寝ていたいぞー……」
「ショコラはがんばりなさい」
「ぼく、がんばる!」
「が、がんばりまちゅ……あううう、痛いです。舌、噛みました……」
セル、アクス、シフォン、ショコラ、サクラ、フィーニア。
そして俺の七人だ。
旅立ったと思われていたアクスとセルは、まだ王都に残っていた。
あんな別れをしたのに、すぐに再会してパーティーを組むというのは締まらない。
それはともかくとして。
正直、オーバーキルのような気がした。
シフォン一人でも十分だと思う。
ただ、俺達は冒険者で、そしてシフォンは勇者。
それぞれの道があって、再びバラバラになってしまう。
思い出作りというわけではないけど、そうなる前に同じ依頼を受けておこう、という話になった。
……まあ、手が空いていたのがこの七人だった、という理由が一番なのだけど。
「それで、盗賊団の情報は?」
「あー……レイン、なんだっけ?」
「あなた、覚えてないの?」
「い、いや。ちゃんと覚えているぜ。ただ、なんていうか……ほら、アレだ。アレ!」
「……帰ったら記憶力の特訓よ。まともな頭になるまで寝かせないわ」
「ふっ。そんな情熱的な言葉をささやかれたら、その気になるぜ? やっとセルが俺の愛を受け入れてごはぁ!?」
アクスが裏拳で沈んでいた。
ノーモーションの一撃。
蚊を叩いた、というような感じで、セルは真顔ですたすたと歩いていく。
「ひぃ……ば、バイオレンスですぅ」
「こ、怖いぞ……」
フィーニアとサクラが抱き合うようにして怯えていた。
そんな二人を見て、シフォンが苦笑する。
「あはは……このパーティー、大丈夫かな?」
「私に任せておけー」
「ショコラも心配なんだけどね」
「お?」
みんな、とことんマイペースだった。
これ、本当に大丈夫かな?
相手は盗賊団だから、そこまで心配する必要はないと思うけど……
予想外の強敵なんかがいたら、けっこう厄介なことになってしまいそうだ。
――――――――――
「グルルル……」
獅子の胴体に鷲の頭と翼を持つ魔物……グリフォンがいた。
しかも一頭だけじゃなくて、見える範囲に三頭。
予想外の強敵だ。
俺達は茂みに隠れつつ、森の中にある盗賊団のアジトの様子を窺う。
「おいおい、なんでグリフォンなんてものがいるんだよ……Aランクの魔物じゃねえか」
「飼いならされているみたいね」
「お? そんなことできるのか?」
「可能だよ。幼体から育てれば、それなりに簡単にできる」
「うーん……レイン君の簡単はあまり信用できないな」
フィーニアがこくこくと頷いていた。
「ま、まあ、どうやってテイムしているかは捕まえた後に聞けばいいさ。それよりも作戦を考えよう」
グリフォンという予想外の強敵がいた。
もしかしたら、他にも切り札を隠し持っているかもしれない。
他に魔物がいても、大抵はなんとかできると思う。
慢心ではなくて冷静な状況分析の結果だ。
アクスとセル、それにシフォンがいる。
このメンバーで負けることは、滅多なことではないはずだ。
ただ、人質が囚われている可能性もある。
そういう切り札があるとしたら、きちんと作戦を考えないとまずい。
「んー……シフォンは、王都の近くでけっこう暴れていたりするか?」
「レイン君は、私をどういう目で見ているのかな? かな?」
「い、いや。変な意味じゃなくて……盗賊達がシフォンのことを知っているのなら、陽動で使えるかな、って」
「ああ、そういう。なら、使えると思うよ。勇者としてあちらこちらを旅しつつ、王都をメインに活動してきたからね。この辺りにいる盗賊なら、たぶん、私のことを知っていると思う」
「なら、シフォンとショコラに陽動を任せていいか? とりあえず、真正面から切り込んでほしい。無理のない範囲で」
「うん、いいよ」
「ショコラに任せておけ。ごほっ、ごほっ」
ショコラがドヤ顔で自分の胸元を叩いて、それでむせていた。
不安だ。
「アクスとセルは、人質などがいないか、こっそりと調査を頼む」
「任せておけ。俺とセルの愛の力があれば問題ないぜ」
「いざとなればアクスを囮にするから問題ないわ」
こんなに冷たくされて、アクスはなぜセルにアプローチを続けられるのだろう……?
たまに不思議に思う。
「じゃあ、俺達はタイミングを見て、シフォンとショコラを援護するよ」
「が、がんばりまする!」
「やる!」
作戦が決まり、俺達はそれぞれの持ち場に移動する。
相手は盗賊。
油断しなければ問題はないだろう。
そう思っていたのだけど……
まさか、あんなことが起きるなんて、この時は思ってもいなかった。