作品タイトル不明
803話 どれだけ可能性が低くても
王は魔族との全面戦争を決意した。
彼らを滅ぼして真の平和を手に入れる。
ただ、すぐに開戦できるものじゃない。
最低でも半年以上の準備が必要だ。
だから、その間に魔族と和平を結ぶ。
そうすれば戦争を起こす必要はない。
……そう告げられた。
「半年で魔族と和平を結ぶとか、それ、無理ゲーじゃない?」
「タニアの言う通りだよ! そんな話聞く必要ないと思うな」
「あら? わたくしは妥当な落とし所だと思いますが」
「もう、イリスはどっちの味方なんですか?」
みんな、反応は様々だ。
「確かに難しいと思う。でも、可能性はゼロじゃないんだ」
「せやな。やる前から諦めてもしゃーないな」
「ティナの言う通りだ。俺は、がんばりたい。そして……ずっと昔から続いている、この憎しみの連鎖を断ち切りたい」
それが今、やりたいこと。
俺の新しい目的だ。
旅をして、色々な人と出会い、たくさんの経験をした。
その果てに抱いた想いだ。
絶対に叶えてみせる。
「きゃ、きゃのうせいはゼロじゃないと思いまひゅ!」
「おー、フィーニア、前向きだね」
「かっこいいぞ!」
「うむ、かっこいいのだ」
「とても難しいけど、でも、やらないと可能性はゼロっす」
「がん、ばろう?」
「「「おーっ!!!」」」
みんなの気持ちが一つになる。
魔族と和平を結ぶ。
それは果てしなく困難な道だ。
それでも、可能性はゼロじゃない。
諦めない限り道は続いていく。
それを信じて、俺達は前に進んでいこう。
――――――――――
「って、いうわけなんだ」
とある宿の一室。
そこで俺達の決意をシフォンに語った。
「そっか……レインくんらしい選択だね」
「そうか?」
「うん、とても『らしい』って思うよ。応援しているよ、がんばって」
「ありがとう」
「ただ……」
そこでシフォンは暗い顔に。
「私達は協力できないんだけど……」
「勇者としての役目が?」
「うん。レインくんの覚悟に水を刺したくないけど……最近、魔族による事件が増えてきているの。色々なところで暴れている」
「それは……」
「意味があるのかないのか、それはわからないけど……でも、放っておくことはできない。レインくんの覚悟は知ったけど、でも、私は今涙を流している人達を救う道を選ぶ」
勇者として戦う。
その覚悟を示していた。
「ごめんね」
「謝らないでくれ。それはそれで、正しいと思う。というか、どちらかというと間違っているのは俺達の方だろう」
魔族は人間を敵視してて、和平を結ぶなんてことは不可能に近い。
ならば敵と断定して、完全な勝利を得る方法を考えるのが普通だ。
「そう言ってもらえると、少しは気が楽になるかな」
「お互い、信じる道を進めばいいよ。違う道を進むことになるけど……でも、どこかで交差するかもしれない。そして、協力できることが出てくるかもしれない。そう信じて前に進むのが一番じゃないかな?」
「うん、そうだね」
一緒に進むことはできない。
でも、互いに信じる道を進むことで、いつか道が交わるかもしれない。
そのことを信じて、俺とシフォンは握手を交わした。
それは再会を願う祈りだ。
――――――――――
「って、いうわけなんだ」
今度は酒場でアクスとセルと話をした。
魔族のことは極秘事項なのだけど……
きちんと説明をしておきたかったので、許可を取り、二人だけには話しておくことにした。
「まためんどくさそうなことを……」
「あら、私は賛成よ。レインが魔族を殲滅する、とか言い出しても、それはそれで違和感しかないわ」
「そうだけどよ。なんでこう、困難な道ばかり突き進むかな。しかも、迷いもなく」
「迷うことはあるさ」
これで正しいのか、何度も考える。
時に不安になって、立ち止まりそうになってしまう。
「でも、俺は一人じゃないから」
みんながいる。仲間がいる。
だから、前に進むことができるんだ。
「ったく……そういう結論になるところがレインらしいな。俺とセルもそういう絆を結んでいるからわかるぜ」
「そんな絆はないわ」
「……」
即否定されて、アクスがしくしくと泣いていた。
「アクス達は、これからどうするんだ?」
「私達は冒険者よ。渡り鳥のように、色々なところを旅することになると思う」
「そっか……」
「寂しそうな顔をしないで。こうして、また会えたんだもの。いつになるかわからないけど、きっとまた会えるわ」
「そう、だな……うん。その時を楽しみにしているよ」
「また飲み交わしましょう」
また、と笑顔でセルと握手をした。
……ちなみに、アクスはまだ泣いていた。
彼なりの渾身の決め台詞だったらしく、相当心のダメージが深かったようだ。