作品タイトル不明
802話 歴史の転換点
一連の事件から一週間が経った。
破壊された結界の再構築。
被害者の救済。
その二点が最優先で行われて……
ある程度落ち着いたところで、事件の本格的な捜査が始まった。
クーデターに加担した者を逮捕。
支援した者も逮捕。
その処遇は決められていないものの、重い罰になるだろう。
ただし、末端の騎士は謹慎処分で落ち着いた。
自発的に参加した者もいるが、心地いい言葉に踊らされていただけ、という面が強い。
また、脅しをかけられてどうしても逆らうことができなかった者も少なくない。
故に、大きな罰は避けられたみたいだ。
そうして、ひとまずの区切りがついたところで、王が演説を行うことになった。
――――――――――
「王都に暮らす民よ、まずは謝罪をさせてほしい。この度の事件は、儂の至らなさがもたらしたもの。力不足であることを認め、そして、謝罪する」
「今回の事件は、王家に対する不満が表に出た結果、起きたものだろう。そう判断している」
「その不満をしっかりと受け止めなければならない。彼らが力を頼りに物事を推し進めようとしたことは許されることではない。しかし、その声を無視して、なかったことにすることは、それもまた許されることではない。
「彼らは魔族との和平を望んでいた。そう思うようになったのは、当然の流れと言えるだろう。数十年毎に魔王が活動を開始して、魔族との戦争が開かれる。終わりのない争いに疲れていたのだろう」
「魔族との戦いを終わらせないといけない。それは儂も同じ気持ちだ。このままではいけない……そう思ってはいたが、具体的な策は見つけられなかった。そういう意味では、彼らは一歩先を進んでいたのだろう」
「ただ、彼らがもたらした話は国に害を成そうとする者の罠だった。故に、儂は全力で彼らを排除した」
「しかし、しかしだ。彼らの想いまで排除してはいけないと、そう思う。継いでいかなくてはならないのだ」
「故に、儂はここに宣言しよう」
「儂の代で、魔族との戦いを終わらせることを!」
「魔族を……そして、魔王を討ち滅ぼすことで、果てしない戦争を終わらせようではないか!」
――――――――――
「どうして!?」
ようやく王との面会が叶い……
その場で、俺は我慢できず、強い口調で問いかけてしまう。
「魔族との全面戦争なんて、バカなことはやめてください!」
「貴様、不敬であるぞ!」
「よい、下がれ」
近くに控えていた文官が怒るものの、王はそれを手で制した。
そして、やけに静かな目をこちらに向けてくる。
「どうして、と聞いたな? なぜ、そこで迷いが生まれるのだ?」
「ユウキから話を聞いていますよね? 魔族の全てが敵というわけじゃない。彼らは俺達となにも変わらない。それなのに……」
「しかし、被害が出ている」
次の言葉を紡げなくなってしまう。
「今回の事件で、少なからず死者が出ている。魔族の手で殺されたのだ。それでもまだ、戦うなと?」
「それは……」
「今回の事件が発端になったわけではない。以前から魔族による被害は続いていた。彼らの事情は理解した。その歴史も理解した。しかし、刃を向けてくる以上、こちらも応戦せざるをえない。人の業ではあるが、無抵抗に殺されるわけにはいかないのだ」
わかっている。
王の言っていることは正しい。
全ては人が招いたこと。
だがしかし。
過去に犯した罰を受けるため、おとなしく死ねと言われて納得する者はいない。
「ですが!」
戦って、戦って、戦って……
その果てに平和があるなんて思えない。
待っているのは、さらなる地獄だ。
「戦いの歴史が紡がれてきたからこそ、それを今、断ち切らないといけないんです! 憎しみと悲しみを繰り返したらいけない。終わりなんてないじゃないですか」
「戦いの歴史……か」
「剣を取ることは簡単です。それ以外の道を探すことはとても難しい。だからといって、安易な方に逃げてはダメです。迷い悩んで傷ついて、それでも前に進んで、本当に価値のある選択を手に入れないと! 辛いから苦しいから……だからこそ、考えていかないといけないんです。そうするだけの力が人にはあるはずだと、俺は信じています!」
「ふむ……」
王はなにも言わない。
続きを促しているかのようだった。
「血で血を洗うような戦争は終わりにしないといけません。戦争に意味も大義もないですよ、ただの殺し合いじゃないですか!」
「……」
「憎しみが残るだけで、他はなにもない。得るものなんてなにもない。平和が手に入るかもしれないけど、でも、そんなものはまやかしだ。いずれきっと崩壊する。血の上に作り上げたものほど脆いものはない」
「……」
「人は平和を勝ち取るために、過去の過ちを無視してなにも学ばないで、『敵』を殲滅した……子供にそう伝えるつもりなんですか? その子供にも?」
今を考えることはとても大事だ。
でも、未来を考えることも捨ててはならない。
「俺は、後世に誇れるような俺でありたいっ!」
人は過去に過ちを犯した。
だからこそ、同じことをしてはいけない。
今度は真に正しいことをしないといけないはずなんだ。
「……いいだろう」
しばらくの沈黙の後、王は重い口を開いた。
「ならばもう一つ、予備の策を用意しよう」