作品タイトル不明
796話 最終決戦・その4
「魂を? いや、まった……それじゃあ、アリオスは」
「この戦いが最後。死ぬ……というか、消滅するね。生まれ変わることもなくて、綺麗さっぱり、この世界から消えてなくなる」
そう言うアリオスはとても落ち着いていた。
死が。
消滅が目の前に迫っているのに、まるで動揺していない。
「怖くないのか?」
「怖い? そんなもの、どうでもいいんだ。それよりも僕は、君と決着をつけたい。君に勝ちたい……そう、それが僕の全てだ」
そこまでして俺に勝ちたいのか。
そのために魂すら捧げてみせたというのか。
まさか、そこまでの覚悟をしていたなんて……
アリオスのことを侮っていた。
アリオスはこの戦いに全てを賭けている。
文字通り、全てを。
強いわけだ。
覚悟が今までとぜんぜん違う。
全てを失う覚悟をして、ギリギリのところまで追い詰められた者は……強い。
「君が最強種と契約して力を得たように、僕も仲間の力を借りて強くなった。どうだい? なかなか楽しいマッチングだと思わないかい?」
「……念のために聞いておくけど、騙されているとかいいように言い含められているとか、そういうわけじゃないんだよな?」
「心外だね。以前の僕は愚かではあったものの、そこまで考えなしではないよ」
「そうか」
そこまでの覚悟を持っていたなんて……
アリオスのことを見誤っていた。
そして、同時に理解する。
彼は、なにをしてもどんなことをしても俺に勝ちたいのだろう。
そうすることでしか満たされないのだろう。
そこまで追い詰めたのは……俺だ。
なら、俺がやるしかない。
「それにしても……」
「うん? なぜ笑っているんだい?」
「いや。ちょっとおかしくなっただけだ。こんなギリギリの時になって、ようやく、アリオスのことを少しずつ理解できてきたような気がする」
「なるほどね。それは、僕としては嬉しい話ではあるね」
「……こんなことを考えても仕方ないけどさ」
もしかしたら、アリオスのことをもっともっと理解できたかもしれない。
きちんと話をして。
意見をぶつけて。
時に衝突して。
そうやってしっかりと向き合っていたら、あるいは、こんな結末にはならなかったのかもしれない。
肩を並べて敵と戦うことができていたのかもしれない。
『もしも』を考えても仕方ないのだけど……
でも、考えずにはいられなかった。
「そうだね、その可能性はあったと思うよ。僕も、もっと君と向き合うべきだった」
「……アリオス……」
「ただ、それはあくまでも可能性の話だ。今の僕達には関係ない。僕が勝つか、レインが勝つか……その二択だけだ。まさか、今更迷ったとか言うつもりかい?」
「それはない」
後悔がないと言えば嘘になる。
でも……それはもう、全て飲み込んだ。
アリオスを敵と認識して。
それは今も変わっていない。
これだけのことをして。
それと、今までにもたくさんの悲劇を撒き散らかしてきて。
それを許すことはできない。
「いくぞ」
「ああ、とことんやろう」
同時に地面を蹴る。
「ギガボルト!」
「ナイトメアボルト!」
共に電撃魔法を放つ。
白の雷撃と黒の雷撃が正面から激突して、衝撃波を撒き散らしつつ四散した。
それでも怯むことなく前に進む。
一歩を踏み出して、腰を捻りつつ回転。
クサナギの刃で広範囲を薙ぐ。
「囮だよ」
アリオスを切り裂いたものの、それはすぐに消えてしまう。
モニカの力か。
いつの間にか幻影と入れ替わっていたのだろう。
「……後ろか!」
「勘がいいね」
アリオスは背後から奇襲をしかけてきた。
ステップを踏むように反転して、魔剣を受け止める。
そのままカウンターを……いや、まった。
「これも幻影か!」
「ちっ」
背後から襲いかかってきたのは実体を持つ幻影だ。
本命は宙を跳んでいて、上から襲いかかってくる。
受け止めているヒマはない。
横に跳んで、転がるようにして回避。
すぐに立ち上がり、牽制のファイアーボールをばらまいた。
「なんて厄介な……」
少なくとも、アリオスはモニカ、リース、アルテラの力を得ている。
でも、それだけとは考えづらい。
いざという時の切り札を含めて、まだ見せていない力が複数あるだろう。
それを使い、一気に勝負をしかけてくるかもしれない。
一瞬も気を抜くことができず、精神が削られていく。
現状、劣勢なのは俺だ。
それを覆すまではいかなくても、せめて互角にもっていきたい。
そのためには……
「ルナ、力を借りるぞ」