軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

788話 望むものは

「くっ……!」

気がつけば見知らぬ場所にいた。

ここは……王都の外だろうか?

王都を一望できるような丘の上にいる。

「王都が……」

燃えている。

あちらこちらで火の手が上がり、煙が空を黒く染める。

離れているから詳細はわからないけど、魔物らしきものが暴れているような気がした。

いや、あれは魔族か?

騎士や冒険者が応戦しているみたいだけど、押されていて……

それだけじゃない。

正門、横門、裏門……王都の入り口全てに魔物が押し寄せていた。

スタンピードだ。

魔物が津波となり、王都を飲み込もうとしている。

幸いにも王都は強固な防壁を持つ。

騎士達の練度も高く、今のところ魔物の侵入は許していないみたいだけど……

でも、それも時間の問題かもしれない。

スタンピードは天災のようなもの。

一度起きたら止めることはできず、抗うことも難しい。

ただただ身を守り、過ぎ去るのを待つしかない……そう言われている。

「くそっ」

急いで王都に戻ろうとして、

「やれやれ。今の君は隙だらけだよ?」

この場にいるのが俺一人じゃないことに、ようやく気がついた。

振り返るとアリオスが。

苦笑しつつ、世間話でもするような調子で声をかけてくる。

「僕がその気になっていたら、君は死んでいた。もう少し警戒した方がいいんじゃないかな?」

「アリオス、あれはお前の仕業か!?」

「あれ、っていうのは?」

「とぼけるな!」

「……あぁ、王都の惨状のことか。いや、本当にとぼけているつもりはないんだ。僕にとって、とあること以外はどうでもいいからね。興味のないことは、いちいち覚えていられない。というか、気にしない。そうだろう?」

アリオスは本心からそう言っているように見えた。

これだけの惨状が起きていて、それを『どうでもいい』なんて……

魔族になったことで人の心を完全に捨てたのだろうか?

あるいは、以前からずっと?

「僕は……そうだね。多少、手伝いをしただけさ。それほど積極的に関与しているわけじゃない」

「なら、あれを止める方法は……」

「わからない」

嘘を吐いているようには見えない。

なら、なおさらこいつに構っているヒマはないのだけど……

でも、今のアリオスに背中を見せることはできない。

次、隙を見せれば斬られてしまうかもしれない。

そう思わせるような不気味さがあった。

「なら、あれは誰の仕業だ?」

「モニカとリースじゃないかな?」

「あの二人か……!」

「僕も詳しい事情は知らないのだけどね。あの二人は……特にモニカは人間を強く憎んでいるみたいだったからね。だからこうして、王都を滅ぼすことにしたんだろう」

「そんなことをしたら、どれだけの被害が出るか……」

今の人間の世界は、この国が支えていると言っても過言じゃない。

国が政治を司り、色々なものを支え、コントロールしている。

それがなくなれば?

秩序が崩壊する。

穏やかな日々と笑顔が消えてしまうだろう。

女王を失ったアリの巣と同じように衰退していく。

人間が滅びることはないかもしれない。

でも、二度と立ち上がることができないほどの傷を負うかもしれない。

どちらにしても、『最悪』の一言に尽きる。

「そんなこと、させると思うか?」

「別に。止めたいのなら止めればいいさ。僕は関係ない」

思いもよらない言葉を聞いて、ちょっと拍子抜けしてしまう。

「モニカとリースの味方じゃないのか?」

「味方というよりは、協力者というところかな? 彼女達には恩があるからね。色々と手伝うことにした。ただ……僕は僕でやりたいことがある。それを優先させるだけさ」

「……やりたいこと、っていうのは?」

「とても簡単なことさ」

アリオスはニヤリと笑う。

「レイン、君と決着をつけることだ」

「決着……?」

「認めよう、レイン。君はすごいやつだ」

アリオスは昔を振り返るように遠くを見つつ、ゆっくりと話をする。

「かつて、僕は君をパーティーから追放した。半分は君に飽きたからという理由だが、もう半分は役に立たないと思っていたからだ」

「それは……」

「ああ、そのことについて君がなにか言う必要はないよ。僕の認識が誤っていたのだからね。実際、君が抜けてからパーティーは坂道を転がり落ちるようにダメになっていったよ」

「俺は過程を知らないけど……そんなにひどかったのか?」

「まあね。今までできていたことができなくなった。他の者に任せようとしても君と比べてしまい、任せることができない。まあ、パーティーがダメになったのは、僕が君に執着するようになったのが原因でもあるけどね」

確かに、アリオスは俺に執着しているように見えた。

ただ、その理由がわからない。

アリオスは勇者。

俺は、ただのビーストテイマー。

アリオスは名声も富も得ていたはずなのに、なぜ、俺に執着したのか?

「覚えているかい? かつて、僕は君と決闘をして……そして負けた」

「覚えているよ。今思い出しても頭に来る」

「あの時はすまないね。うまくいかず、ちょっとイライラしていたのさ。って、言い訳になっていないな、これは」

アリオスは不気味なほど素直だ。

魔族になったことで心に影響が?

「ただ、まあ……あの時からなんだ。僕は、心にとある棘が刺さった。それはなにをしても、どうしても抜けることがない」

「それが俺……なのか?」

「正解。僕は君に負けた。悔しい。とても悔しいから……勝ちたい。どうしても勝ちたい。そう思うようになったんだよ」