作品タイトル不明
787話 今はやることをやる
「にゃ!?」
光が収まると、レインとアリオスの姿が消えていた。
カナデは慌てて周囲を見回すものの、主の姿を見つけることはできない。
すんすんと匂いを嗅いだ。
しかし、それでもレインの匂いを嗅ぎ取ることはできない。
「おいおい、なにが起きたんだ!?」
「レインが消えた……? いったいどこに」
アクスとセルも慌てて周囲に視線を走らせる。
カナデ、リファ、ソラ、ルナ、イリス。
アクス、セル。
ココロ。
そして、拘束されたジャイルと騎士達。
レインとアリオスの二人だけが見当たらない。
それ以外はなにも問題はない。
「……もしかしたら、レインは強制転移させられたのかもしれません」
「にゃんですと?」
「あのバカ勇者、なにか魔道具を使っていたのだ。あれは多分、転移をするためのもので……」
「レインはそれに巻き込まれた?」
「うむ。その可能性が高いと思うのだ」
カナデは考える。
罠だろうか?
貴族達をそそのかして謀反を起こさせる。
そうして混乱した隙に、魔道具を使いレインをさらう。
でも、魔族や魔物は?
そこも陽動だとしたら規模が大きすぎる。
本来の目的は別のところにある。
それを利用することで、アリオスはアリオスで別の目的を達成しようと……
「うにゃあ……頭がぐるぐるしそう」
考えすぎたカナデは、頭から煙を発しそうになっていた。
考えるよりも体を動かす。
そんな彼女にとって、あれこれと推測して物事の本質を見抜くことは大変なのだ。
「とにかく、すぐにレインを探さないと!」
「待って」
駆け出そうとしたカナデをセルが止めた。
「レインのことは心配だけど、でも、今はやるべきことがあるわ」
そう言って、セルは周囲を見た。
悲鳴が聞こえてきた。
街の至るところで火の手が上がり、煙が空に昇る。
「王都中に魔族があふれている。それに元勇者の言うことが本当なら、魔物が押し寄せてきているはずよ。その対処をしないと」
「それは……」
「ボク達の主はレイン。だから、レインのことを一番に考えるのは当たり前」
カナデが迷い、リファがそう返した。
リファが言うように、彼女達に人間の都合は関係ない。
最強種なのだ。
国に属しているわけではなくて、協力関係を築いているわけでもない。
レインと一緒だから、たまたまいくらかの事件を解決してきたものの……
本来なら一切関わることはない。
「確かに、リファさんの言う通りですわね。ここで、わたくし達がレインさまの安否を確認することをせず、王都の人間を助ける義理はありませんわ」
イリスもリファに同意した。
元々、彼女は人間が嫌いだ。
復讐は止めたものの、だからといって人間が好きになったわけではない。
一部を除いて、どうなろうと知ったことではないと考えている。
そして、その一部に王都の人間は含まれていない。
「おいおい、こんな時に……!」
「……でも、彼女達の言うことを否定できないわ」
「おい、セル!?」
「だけど……お願い」
セルは頭を下げた。
「力を貸して」
シンプルに一言、そう口にした。
たった一言。
でも、その一言にはたくさんの想いが詰まっていた。
カナデ達がレインを心配する気持ちを考慮しつつ、しかし、王都を見捨てられないというセルの正義感。
そして、惨劇を作るわけにはいかないという強い決意。
そんなセルの想いが感じられる一言だった。
「……私は、君達のことを詳しく知らないが」
成り行きを見守っていたココロも口を開く。
「どうか力を貸してほしい。その対価として、私にできることがあればなんでもしよう。なんでも……だ」
王女であるココロがそのようなことを口にする。
軽はずみな約束は絶対にしてはいけないのだけど、しかし、今はそれが必要と考えたのだろう。
セルと同じように、強い決意と覚悟があった。
それらを感じ取ったカナデ達は互いの顔を見て……
そして、苦笑した。
「レインのことは気になるけど……仕方ないね」
「うむ。仕方ないのだ」
「やれやれ。みなさん、とても甘いですわね。まあ、それも悪くありませんか」
「にゃー。だって、ここにレインがいたら、絶対に力を貸すもん」
「それなのに、使い魔であるソラ達が違う行動を取るわけにはいきませんね」
続けて、カナデ達はにっこりと笑う。
「よーし! みんな、やるよーっ!」
「「「おーっ!!!」」」